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66 凹の剣奈に迫る玉置武者 (マップあり)


 剣奈の姿を見失った黒震獣念はひとまず黒矢の斉射を中断した。目標を見失った武者姿の黒い揺らめきはその場に静止し揺らめくのみであった。

 

『やつらに見えぬよう、かがみながら反対側に移動するぞ。鬼山城を回り込み、横手から奴らを一気に殲滅するのじゃ』


 剣奈は来国光の言葉に従い横矢掛りから這い出て西側に向かった。南ノ丸の側を通り抜けようとした時、地面からナニかが湧いた。

 ナニかが湧いた場所は南の主郭(しゅかく)である。

 鬼山城は大きく北翼と南翼に分かれた形状をしている。上から見ると東側を上としてちょうど「凹」の様な形状に見える。剣奈、よほど凹に縁がある。

 

 はっ、まさか!凸は男性を表し、凹は女性を表すことがある。凹に縁がある剣奈。つまりそれは……。ゲフンゲフン。いや、まあ、たまたまである。たぶん。


◆剣巫女 岡山県美咲町 鬼山城マップ 剣奈 鬼山の闘い

挿絵(By みてみん)


 それはともかく、である。事態は切迫していた。南翼の所要部である主郭(しゅかく)からいきなり出現した黒震獣念は十体。それら思念体の放つ想いを感じ取った来国光は唸った。

 

『うむむむ。これは悪趣味な。南の主郭に現れた玉置玄蕃守方の残留思念どもは剣奈、お主を城に潜り込んだ尼子方の一味じゃと思うておる』

「えーーーーっ!何で!?どうして、両方から敵だって思われてるわけ?てか、だったらさ。だったらあの人たち敵と味方じゃん?あの人たち同士で闘えばいいじゃん!戦ごっこしていればいいじゃん!」

『うむ理知的に考えればその通りなのじゃがな。奴ら黒震獣念は残留思念の残滓を依り代として実体化しておるでな。その思念は長い年を経て完全に凝り固まっておるのじゃよ。その思念の目的と方向性はもはや変えられぬ。その憎しみと戦意の向きを定めるだけで奴らはそれを滅しようと動く。奴らの仲間である黒震獣犬を剣奈が倒したのは事実じゃからの。味方を倒したものは敵。双方にとっての味方を倒したお主は敵。簡単な理由付けじゃ。つまりの、黒震獣犬はおぬしに敵意を付着させる撒き餌にされたのよ』

「えーーーーーっ!やだよ、そんなの。人殺しなんて絶対ヤダ!」


 剣奈は十体の武者姿の黒震獣念に後ずさった。剣奈の後ろには切岸(きりぎし)があった。

 切岸は山城などでもとからある斜面を利用して、さらに削った人造の断崖絶壁である。城への敵の侵入を防ぐために作られた防御のための施設である。下から見ると急に立ち上がる切り立った崖となっているため、侵入を阻む。

 鬼山城では西側の斜面に切岸が作られていた。まさに今、剣奈が追い詰められている場所である。後ずさる剣奈。その踵のすぐ後ろに切岸の上端が迫る。


ズルッ

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 剣奈は虚空に空足を踏み、切岸の壁からずり落ちた。

 

「うううううう。やだぁぁ」

 

 崖から転げ落ちた剣奈である。滑り落ちる際の摩擦で全身擦り傷だらけである。

 さらに崖や地面に打ち付けたのか、身体中いたるところがズキズキ痛んだ。

 

「ううううううぅぅぅ」

 

 剣奈は全身の痛みに動くことができずうずくまっていた。 

 西側から剣奈に近づく十体の黒い武者姿があった。剣奈は前方の十体の黒震獣念しか認識していなかった。

 しかし背後、西側の尼子方残留思念残滓にも邪気は取りついていたのである。

 西の黒震獣念は槍状の黒い揺らめきを手にしていた。武者姿の黒震獣念は底辺を平らにしたV字型、鶴翼(かくよく)の陣形で剣奈に近づいてきた。


 痛みにうずくまる剣奈はまだそれに気づいていない。

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