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59 津山線にて トナラー&OSS (マップあり)

 剣奈は岡山駅にいた。駅前で桃太郎像を見た後、2階の中央改札口から駅構内に向かった。そして改札から見て左端、津山線の9番ホームを目指していた。人前でもあり剣奈は念話で来国光に話しかけた。

 

『岡山といえば桃太郎だよね。駅前の桃太郎像、犬、キジ、サルをつれてたよね。いざ旅にゆかん!って感じでかっこよかったね』

『うむ。そうじゃの』

『岡山駅、大っきいねぇ。ボク、こんな感じ好きだなぁ』

『こんな感じとはなんじゃ?』

『人がたくさんいて、お店がいろいろあって。やっぱ岡山と言えばきびだんごだよね。桃太郎像も見たことだし、ちょっとお店に寄っていこうよ』


◆剣奈 岡山駅移動 マップ

挿絵(By みてみん)

 

 剣奈は来国光の返事も聞かずにお店に突進した。そしてお店にお菓子やお弁当が並んでいるのをウキウキしながら眺めていた。

『お弁当いいなぁ。あぁ!この桃のゼリー美味しそう!この八つ橋みたいなお菓子も食べたい!マスカット入りのチョコも美味しそう』

 

 朝食を食べたばかりだと言うのに、剣奈はお弁当やお菓子を眺めながら、どれを食べようかとはしゃいでいた。

 そしてさんざん悩んだあげく、きび団子と、ピンク色の桃のお弁当箱に入った桃太郎の祭ずしを買ってリュックに詰め込むのだった。

 

『さぁ、電車に乗らないと!』

 

 剣奈は名残惜しそうに売店を出て津山線、9番ホームへのエスカレーターを降りた。そして朱色のディーゼル車、キハ40に乗り込み列車内を見回した。

 津山線列車は対面型のボックスシートである。剣奈はウキウキしながら進行方向の座席に座った。


 剣人の住まいは東京都中央線沿いである。もともとは関西に住んでいたのだが、母の仕事の都合で吉祥寺(きちじょうじ)に引っ越したのだ。

 母は吉祥寺のことを「きっしょうじ」と読んだ。しっかりしていそうな千剣破(ちはや)であるが案外抜けている。剣人も当初はきっしょうじと思い込み、「ボクの最寄り駅は()()()()()()です」と自己紹介した。

 キョトンとするもの、くすくす笑うもの。剣人が自己紹介した後、教室は一種独特の雰囲気になった。剣人はおかしな空気を不思議がった。

 席に座ると隣の女の子に、「()()()()()()って読むんだよ?」と読み間違いを指摘された。

 剣人は顔を赤らめながら「お母さんは全くもう!」とつぶやいたのだった。


 吉祥寺駅を通る中央線の電車の座席はベンチタイプである。剣奈にとってボックス型対面シートはかなり珍しく思えた。窓の外を眺められる座席に座るだけで日常とは違う旅行気分に浸れた。

 やがて列車はディーゼル車独特の音と響きを立てて出発していった。

 

『この電車、いつも乗ってる電車と雰囲気全然違うんだよね。席もそうだけど細かく揺れてるし。でもなんかいいね。旅行してるって感じ!』

 

 剣奈は旅情に浸りながら車窓を眺めた。

 岡山駅を出発してすぐはビルや家の立ち並ぶ都会風景が続いた。程なく緑豊かなのどかな景色に変わった。

 剣奈は列車が川を渡るたび、わぁと目をキラキラ輝かせるのだった。

 剣奈は川が大好きなのだ。


「ここいい?君、一人なの?」

 

 突然静寂が破られた。剣奈は車窓から目を離し、声をかけてきた男の方を向いた。大学生ぐらいだろうか?笑顔の若者がそこにいた。

 剣奈は車窓風景を楽しみたかったのだが、席が空いてるのは事実である。他に空いてる席はたくさんあるのにどうして?と思わなくもなかったが、断り方が分からない。仕方なくコクンと頷く剣奈であった。

 

 声をかけたのは翔太という。兵庫県の大学に通う学生である。岡山県には津山線に乗りに来たのだが、神秘的な少女の発見に心を躍らせていた。

 翔太は先ほどから剣奈を観察していたが親が来る気配はない。

 

 翔太はニヤニヤしながら、剣奈を頭の上から、顔、胸、腰、脚と何度も視線を往復させた。そして「美少女発見!キターー。まだ熟れる前。だがそれがいい。さすがに最後までは犯罪か。同意をとれればキスぐらいまでは?とりま連絡先ゲットしてリアル美少女育成ゲームを楽しむか。良いな良いな。数年かけて俺好みの女に仕込むのは全然ありだな。そしていずれは……ぐひひ……」と、(よこしま)な妄想を繰り広げるのだった。


 来国光には翔太の心の声は聞こえていた。ダダ漏れだった!

『剣奈よ。此奴(こやつ)(よこしま)なことを思うておるぞ。油断するな!』

『よこしま?よく分からないけど、敵?』

『いや、敵ではない。が、味方でもない。剣奈に害意を及ぼそうと考えておる。じゃから、どちらかと言えば敵に近い』

『現実世界でも敵がいるんだ?どうする?やっつける?やる?』

 

 剣奈の全身から殺気が放たれた。


「ひっ!そんなに怒らなくても。ちぇ、ブスめ」

 

 一瞬にして雰囲気の変わった剣奈を見て翔太は気圧され、捨て台詞を吐いて元の席に戻っていった。


 剣奈の美少女ぶりを見て、声をかけようとしていた別の男性は、先を越されたことにあせり、ハラハラしながらOSS(俺が先に好きだったのに)を心で叫んでいた。

 剣奈の剣幕にすごすご離れる翔太を見て、「あいつ、ナンパに失敗してやがる。ざまぁ。カッコわりー。俺も声かけんでよかたっわ。おっかねー。一人で旅行するだけあるわ。気、むっちゃ強いじゃん」と、胸を撫で下ろすのだった。


 剣奈にはそんな周りの思惑などわからない。捨て台詞を吐いて去っていく男をキョトンとして見送り、再び緑豊かな車窓に夢中になるのだった。

 

『剣奈は女性(にょしょう)としての危機管理を学んだ方がよいの』

 

 来国光の言葉に首を傾げながら頷く剣奈である。危機管理、確かに重要。敵を察知する力を身につけないと。「気配察知」とか「敵探知」だよね。どうやって習得したらいいのかな?などと的外れな考えに浸るのだった。


 剣奈、君はもっと女の子としての警戒感と現実的対処法を学んだほうが良い。


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