55 埋蔵金ですと!?
『いかがじっゃたかの?』
「素晴らしかったわ。貴方が教えてくださったの?」
『いかにも』
「教え上手なのね。私にも教えてくださることは出来るのかしら?」
『出来ぬことはないが、ワシと御母堂との間には絆がござらぬでな』
「絆?」
『うむ。剣奈とワシは絆で結ばれておる』
きずなぁー!?知らない間に勝手に何しちゃてくれてるの!?心の中で盛大にツッコミを入れる千剣破である。
「その絆、どうやって結ばれましたの?」
「呪文だよ、お母さん。変身ポーズをやって呪文を唱えたんだ。そしたらピカッってボクとクニちゃが光ったんだ。そしたらクニちゃのMPをボクも使えるようになったんだ!」
相変わらずの剣人語、剣人ワールドである。
千剣破は考えた。察するところ何か儀式をやって祝詞を唱えたのね。すると神様のご加護が降りて来さんの力を借りれるようになった。そんなところかしらね。
「力とは何かしら、来さん?」
千剣破の心の声である。「剣人語ではなく、きちんとした説明が聞きたい!」剣奈、さりげなく外された!
『ワシの力とは剣気。神の力とは神気。丹田にため、全身に行き渡らせることにより、身体能力を飛躍的に向上させられる。傷を癒すこともできる』
「そうなのですね?」
千剣破は両手をお臍の下に揃えて深く頭を下げた。
「剣奈のこと、なにとぞ、なにとぞ、よろしくお願いします。剣奈をどうぞお守りくださいませ」
『承知した!』
ようやく千剣破殿の許可がおりた。ホッとする来国光であった。
ところが斜め上から千剣破が斬り込んできた。
「ところで、なのですが、来さんの崇高なご使命は理解いたしました。剣奈がそれをお手伝いすることも承知いたしました。ですがその、お手伝いは遠くへの移動や宿泊を伴うものでしょうか?その際に、移動費や宿泊費、食費、衣服、その他諸々の費用が発生しますが、私どもがその費用全て負担しなければならないのでしょうか?その、崇高なご使命の前に言い難いのですが、私どもだけが費用を出して、世界?を守らなければならないのでしょうか?」
お前さんの言うことはわかったが、何で私たちだけが金出さなきゃなならんのだ!刀のお前さんにはそこら辺わかってねーだろ!見返りは自己満だけじゃん!勘弁して欲しいわ!
心の声を見事にマイルドに変換させた千剣破である。さすが大人。
『うむ?路銀のことか?食べ物はこっちで狩りをして自給自足できるし、こっちの世界で寝泊まりもできるぞ?さらに大名どもが埋め隠した金子じゃが、ワシは金の気を感じ取ることができるでな。近くに行けばおよそ気配は感じられるぞ? マレビトがこちらに残した金子もあるぞ?』
なんですと!大名の埋蔵金ですと!?
豊臣埋蔵金とか、徳川埋蔵金とか、なんなら結城埋蔵金とか?さらに幽玄の隠し財宝!なにそれ美味しすぎる!剣奈!貴方はなんて親孝行息子なの?いや、娘か。産んでよかったー!
「コ、コホン。そ、そうなのですのね。そうであれば、その、人助けで破産に追い込まれることはなさそうですね。安堵いたしました」
隠し財産取り放題!実にチートである。埋蔵金を見つけ、テレビや新聞で有名になる自分。セレブで優雅な生活を送る自分。プールサイドで優雅にカクテルを傾ける自分。脳内妄想が止まらない千剣破である。しかしはっと気づいた。
ちょっとまって。神様に試されてるパターンよね?これって。金の斧を望んだら全部奪われたとか。ヤギの皮が取れなくなったとか。卵を割ってしまったとか。ミルクをこぼしたとか。若さを吸い取られたとか。ダメよ。落ち着くのよ?千剣破。
「身に余るお金は必要ありません。せめてかかった費用がなんとかなればよいのです。来さまのお知恵があれば是非、お助けいただけないかと」
『うむ。承知した。行く先々で剣奈の片手に握れる程の金子の匂いが感じられたら教えることにしよう』
「ありがとうございます」
『あと、地脈には大地の力が宿っておる。時にその恵みを受けし石が地面に転がり出ることもある。気がついたら剣奈に伝えようぞ』
剣奈、どうやらタダ働きにはならなくて済みそうである。「分岐バッドエンドルート45:久志本家、剣奈の人助け道楽によって破産」はどうやら回避できそうである。
後に剣奈が翡翠、サファイア、瑪瑙、トパーズなどの原石を、「お母さん、お土産っ!」と言って食卓に広げ、千剣破が目を回すのだが、それはまた別のお話。