43 再会
ピンポン♪
ドアチャイムの音で剣人は目覚めた。
「あ、お母さんだ」
剣人は確かめること無く、すぐに扉を開けた。無防備なことである。
「お母さん、おはよー!」
「おはよう剣人」
再会のハグをしながら剣人の左腕を確認する千剣破である。けれど、怪我の様子はどこにも見られない。
「怪我したって言ってたわよね?ちょっと腕見せて?左腕だったわよね?」
声に出して剣人に左腕を出させた。剣人の左腕をとり、念入りに隅々まで確認する千剣破である。しかし怪我どころか、傷一つなかった。母に会いたいからと嘘をついたの?こんなに心配させてもうっ!ずっと心配しどうしでほとんど眠れなかったんだから。昨晩から色んな手配に駆けずりまわった。今朝はこれから勤務先に電話してペコペコと頭を下げて事情を説明しなければならない。千剣破はかっとなって腕を振り上げた。剣人はビクッと体を強張らせた。
「あー。えっと」
まずは話を聞かないとね。振り上げた右手を自制の力でぐっと握り、そして開いた。開いた手で剣人の頭を優しく撫でた。
怒られる!そう思った剣人だったが、頭を撫でられ、ほっとした。怖かった反動で母にぎゅっと抱きつくのだった。
「剣人ー。お母さん、お仕事休んできたのよ?大変だったんだから」
剣人は母に頭を撫でられホッとしていた。黒犬に殺気を向けられて追い回された昨日。怖かったのだ。泣き出しそうだったのだ(いや、ボロ泣きしてたけど)。テンパって、頭が真っ白で、わけが分からなくなっていたのだ。ヒーローになったと舞い上がっていたのに、自分は雑魚だったのだ。そのために来国光もいなくなりかけたのだ。抑えつけていた何かが一気に溢れ出た。
「ごべんなざい。こべんなざい」
泣きながら母に謝る剣人であった。剣人は何に謝っているか自分でもわからなかった。母は嘘をついたことを詫びているのだと解釈した。
剣人はまだ小さいものね。一人でお泊りしてお母さんが恋しくなったのかしら。嘘を付いたのは良くないけど、こんなに泣くぐらい寂しかったのね。「一人旅だ!冒険だ!」、なーんて言ってたけど。まだ早かったのかしら。男の子ってほんとにもう。
怒るべきか、甘やかすべきか、葛藤し、悶々とする千剣破であった。
く〜〜〜っ
千剣破のお腹がなった。そういえば昨日から何も食べてない。あまりにも心配で悩むことが多くそれどころではなかったのだ。
考えがまとまらないままいったん思考を放棄した。腹が減っては戦ができぬ。千剣破は剣人と一緒に朝食をとることにした。
「剣人、お母さんお腹すいたな。ごはん一緒に食べようか?」
「うん!歯磨いてくるね!」
「一緒に磨こっか」
そう言ってから千剣破は体が汗でべとついてるのを自覚した。
「その前に、お母さん、ヤコバでちょっと汗かいちゃったからシャワー浴びていい?一緒に入る?」
「うん!」
まだまだ甘えたい盛りの剣人である。さすがに小学校に入学以来、外では一緒にお風呂に入れなくなってしまった。しかし家ではいつも一緒にお風呂に入っているのである。お母さんに洗ってもらうのが大好な甘えん坊剣人である。
千剣破は剣人の体を洗いながら、怪我しているところはないか念入りに確かめた。怪我どころかすべすべである。どこにも傷一つない素肌。怪我どころかツヤツヤぷるぷるである!実にみずみずしい。実にけしからん。
羨ましすぎる素肌である。ちょっとイラッとした千剣破である。ちょっとだけ。そう、ほんのちょっとだけ。ほんとうだっ!