42 作戦会議
「クニちゃ?」
『うむ?』
「あのね、明日、お母さんが来るんだ」
『ふむ』
「それでね、クニちゃを紹介したいんだけど」
『ワシも母御殿には挨拶せねばと思うておった』
「それでさ、クニちゃはボクと繋がってるから、心で話せるでしょ?」
『いかにも』
「お母さんとクニちゃ、話せるの?」
『ワシの声は千剣破殿の心に届かせられる。千剣破殿は普通に話してくれれば、剣奈の耳を通じてワシは聞くことが出来るぞ?』
「あ、そういう感じなんだ」
『あるいはワシが顕現しておれば、剣奈の耳を通じずとも声は届く』
「異世界のほうがいいかもね。だってお母さん、まわりからは「ずっと独り言を言ってる人」認定されるんでしょ?」
『まわりに人がいたらそうなるかの』
「異世界に連れていける?」
『剣奈が触れて、剣奈が一緒につれていくと思うておれば、大丈夫じゃ』
「そういう感じなんだ?」
『うむ』
「異世界ってお店屋さんとかあるの?」
『寡聞にしてワシは知らぬ』
「ないんだ。じゃあずっと立ち話?」
『地面に座ればよかろう』
「大人の女の人は、地面に直接座らないんだって」
『ムシロか風呂敷を持っていけばよかろう』
「持ち込みできるんだ?」
『剣奈が持っておればの』
「あー、クニちゃんもこっちに来れたらなあ」
『来れるぞ?』
「来れるの!!??」
『今は剣奈を依り代に隠れ場をつくって、その中におるだけだからの』
「え、まって、クニちゃ、近くにいるの?」
『うむ。近くにいるというか、ワシの隠れ場のある位相空間との繋がりの現世側の依り代が剣奈じゃからの』
「あ、そゆ感じなんだ。アイテムボックス的な感じね?もしかしてボクの荷物も、その中にしまえるの?」
『小物であればな。ワシが無意識的に常時微量の剣気を流しておってな。それで空間と依り代との繋がりが保たれておる』
「え?じゃあボクが剣気を使いすぎて、クニちゃいなくなった時あったじゃん。あの時どうなってたの?」
『ワシの自我は消え失せておったからの。ワシにもわからん。無意識的に僅かな残存剣気が流れていたのか。あるいは隔離された結界空間が切り離されて異空間にただよっていたか。それが次元の狭間に消え去る前に、うまく繋ぎなおすことができたのか。気がついたら普通に繋がっておったからの。ようわからんのじゃ』
「そのアイテムボックス。隠れ場?それの大きさどれくらい?」
『そうじゃの。ワシが横たわれて、ワシの手入れ道具とウコン布を傍らに置くくらいかの』
「じゃああんま入んないね」
『修行積めば剣奈にも作れるぞ?』
「そうなの!?」
『結界空間を作ること自体は剣奈であれば今でもできるかもしれん』
「じゃあ!」
『じゃがの、常時その結界空間を保ち、現世と繋ぎ続けるには、修練が必要じゃ。己が意識せずとも、常に微量の剣気を流し、紐付けし続けねばならん』
「紐?切れたらどうなるの?」
『隠れ場空間が次元の狭間に紛れ消失する。例えるなら砂浜で一粒の砂を探すようなもんじゃ』
「見つかんないよね?」
『うむ。まあ無理じゃろ』
「でもクニちゃ、見つけられたんだよね?」
『さっきも言うたが、あの時どうなっていたのかワシにもわからぬ。繋がりを維持できていたのか、あるいは無意識的に隠れ場の次元を感知できて繋ぎ直せたのか』
「うーん」
『ワシの隠れ場はすでに己が一部のようになっておるからの。さっきの砂浜で例えるなら色の付けた砂を放り投げ、すぐに見つけるようなものじゃ。容易くはないが不可能でもない。おそらく、、』
「そうなんだ」
『試そうとは思わんがな』
「無くなったら大変だもんね」
『うむ』
アイテムボックスが手に入るかと喜んだ剣人である。しかしすぐに気持ちがあっちこちに揺らぐ剣人では空間を維持できず、すぐに繋がりも消してしまうだろう。自分でもわかっている剣人である。自分にはアイテムボックス維持は無理。あっさりと自分のアイテムボックスを諦めたのだった。
「ふぁぁぁ。眠くなっちゃった。ボクそろそろ寝るね。おやすみ。クニちゃ」
『うむ。ゆっくり休め。おやすみ。剣奈』
知りたいことを知って満足した剣人。ふと気を抜くと猛烈な眠気に襲われた。久米南町への移動、初めての実戦、恐怖と逃走、無理な力の放出、神様への祈りと来国光の帰還、地脈に巣食う邪気の浄化、帰路の移動、母や来国光との話し合い、、、
若い剣人は自覚できていなかったが、彼の心と体はクタクタに疲れ果てていた。気の緩みとともに睡魔が押し寄せるのは当然のことである。
目を閉じてすぐ、剣人は深い眠りに入っていた。