37 来国光の沈黙
「いゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!んあああぁぁぁん♡」
剣奈は叫んだ。心はぐちゃぐちゃになり、恐怖が体を支配した。
感情が、爆ぜた。
刹那、剣奈の体から光が放たれた。まるで剣奈が発光体になったように、剣奈の体と周りが、白黄の放射光に包まれた。光を受けた黒犬はそのまま光に溶けた。黒震獣の存在は、塵のように霧散した。鮮烈な空気だけがその場に残った。
力と感情を放出した剣奈は、そのまま体ごと地面に倒れ動かなくなった。力を吸い取られた来国光も意識が薄れ、自我が保てなくなった。両者の意識が、消えた。時が、止まった。
一陣の風。
しかし両者は目覚めることはなく、揺れるのは剣奈の髪、そして周りの草々だけであった。
日は高く昇り、そして同じだけ反対側に傾いた。
風が吹いた。
剣奈は目をあけた。呆然と辺りを見回した。揺れる草々以外、何もなかった。あれだけいた黒犬は、最初から何もいなかったかのように、存在を何も残していなかった。
「痛っ!」
切り裂かれた左腕が痛んだ。夢ではなかった。
「クニちゃ?」
返事はなかった。
「クニちゃ、クニちゃ!」
大声で呼びかける剣奈。しかし来国光は、反応しなかった。
「どうしよう。クニちゃんがいなくなっちゃた。ボクが力を使いすぎたんだ」
ぼんやりする記憶。黒犬が殺到する刹那、剣奈は来国光から思いっきり剣気を吸いこんだ。そして、めいいっぱい、周りに放出させた。そのことは、ハッキリと思い出した。来国光は言っていた。剣気は来国光の存在の源だと。使いすぎると来国光が消えてしまうと。
剣奈は自らの服の裏で来国光の刃を拭った。そして鞘に入れた。
「クニちゃ、ごめんなさい。ボク、ボク、、、」
涙が頬を伝った。
「うっうっうっうっ」
涙は次々と溢れた。目を閉じてもまぶたにあふれ、頬を伝った。頬を伝った涙は、顎からポタリ、ポタリ、ポタポタポタ、と来国光に落ちていった。どれくらいたったろう。日がさらに傾いた。
来国光は、沈黙したままだった。