34 久米南町・弓削へ エンゼル河童と川柳と(イラスト・マップあり)
「どこに行くの?またあの橋の下?」
朝食を食べ、母に連絡もした。さあ出発だ。剣人は意気揚々と来国光に尋ねるのであった。
『吉備国に巣食う邪気じゃが、播磨国から吉備国にかけて、大きな邪気が巣食うておる。ここからいうと東北の方向じゃな。山崎断層という。じゃがここは剣奈にはまだ無理じゃ』
…………
断層名についてだが、古称を用いるとわかりにくくなってしまう。そのため断層およびその地名などについては現代名称に統一した。方角についても旧称を使うと分かりにくいので現代名称とした。県名は旧国名を用いたほうが気分が出るので兵庫県南西部=播磨国、岡山県〜広島県東部〜香川県一部〜兵庫県一部=吉備国、岡山県南東部=備前国、など旧国名を用いた。
地名の新旧の混在、名称場所の微妙なズレがあるが、ご容赦願いたい。
…………
さて、二人の物語に戻ろう。
『ここから北北東にある那岐山断層にも、邪気が巣食うておるのじゃが、対峙するのはまだ避けたほうがよかろう』
「レベル高い敵はまだボクには無理だもんね。経験値稼いでスキルとかレベル上げてからでないと危ないよ」
『うむ。そこでじゃ、那岐山断層の少し南に、畑ヶ鳴断層と塩之内断層があってな、塩之内断層に邪気本体から外れた飛び地に巣食う邪気を感じる。手始めにそやつらからどうかと思うてな』
「クニちゃん、地図読める?スマホでグーグーマップ出すね」
◆剣巫女 岡山県 塩之内断層・畑ケ鳴断層 マップ
剣人と来国光は地図を見ながら検討を重ねた結果、岡山県久米郡弓削駅近くの邪気に対峙することになった。かつての美作国にあたる。
弓削駅はJR西日本津山線の駅である。岡山駅からおよそ一時間、長閑な山あいの駅である。弓削駅は岡山県最古の木造駅舎として有名である。津山線が開業した1898年(明治31年)当時の面影を残している。駅舎の屋根は二段重ねが特徴的な古代中国風の錣葺屋根である。
屋根は上部が急勾配、下部が緩勾配となっている。屋根を支える部分は三角形の形状をした西洋建築風の方杖架構である。そして駅舎全体が醸し出す雰囲気は日本の和小屋風なのである。明治時代らしい和洋中折衷建築であり、レトロで素敵な駅舎である。
この弓削駅のある久米南町は、浄土宗開祖法然上人生誕の地としても知られる。1193年、法然上人の生誕地に源氏の武将、熊谷直光氏が草庵を建てた。その草庵の場所に今日では誕生寺が建つ。
誕生寺は古風ゆかしき佇まいで回廊から望む庭園が美しい。ちなみに刀工の来国光が活躍した時期は1313年〜1363年である。草庵が建てられた時期はクニちゃんこと来国光が打たれた時期よりも100年以上古い。
久米南町は今日、川柳の町としても知られている。第二次世界大戦終戦後程ない1948年、日本一の川柳町を目指そうと、川柳普及活動が始められたことに端を発する。
1949年に弓削川柳社が発足した。それ以来、様々な川柳にちなんだ催しが毎年開催されている。1977年に完成した川柳公園には、三百を超える川柳の石碑が立つ。石碑を眺めながら公園を散策し、時を過ごすのも楽しい。
◆剣奈イラスト 川柳公園への道
さて、川柳の町に敬意を評して、頑張る剣奈を題材に、川柳もどきを2つほど。
国光に
乗せられ動く
チョロ剣奈
ちなみに久米南町のマスコットキャラクターは、天使の羽と竪琴を持つ河童である。1993年に町合併40周年を記念して、エンゼルのように未来に吹く風の如くあれと、天使にちなんだシンボルマークが公募により選ばれた。
羽の生えた河童のマスコットキャラクターは1995年、川柳とエンゼルの里にふさわしいキャラクターをとの公募で選ばれた。弓削駅では羽の生えた河童が来訪者を出迎えている。
チョロ剣奈
河童をのぞきて
尻隠さず
「わあ!すごい!この青い河童、羽が生えてるよ!」
駅前の河童像をのぞき込む剣人である。
突き出された無防備なお尻。闘いに向かう緊張感はどこにも見られない。
大丈夫かチョロ剣奈。闘い前に河童に尻子玉を抜かれて、負けヒロインにならないようにね。