32 剣奈のレベル
『話を続けるとじゃ、ある流派をまとめるものが師範。師範の代わりを務めて弟子たちを教えるのが師範代。師範は一子相伝の場合も多いが、師範代は、免許皆伝の者どもの中から、強いものが選ばれることも多い』
「うん、わかるわかる。冒険者ギルドでいうと、かけだしがランクE。小目録を取るための訓練生がランクD。今日のボクかな?小目録を取れたらブロンズ、ランクC。今日の訓練でいろいろ覚えたし、もしかしたらボクいまブロンズ?中目録でシルバー、ランクB。大目録でゴールド、ランクA。免許皆伝がプラチナ、ランクS。ランクSのなかから勇者が選ばれるって感じかな?勇者まで先は遠いね」
『そのとおり!』
来国光は剣人の言うことがさっぱりわからなかった。ギルド、ブロンス、シルバー、ゴールド、プラチナ、ランクE〜S。知らない言葉が矢継ぎ早にでてきた。しかし、である。目録の諸段階を例に出し、あてはめて理路整然と語る剣人。来国光は、おそらく剣人なりの理解があるのだと納得し、話を促すのであった。
「なので、昨日のボクがランクE。今朝のボクがランクD。今はいくつかの小目録の認可を受けてランクCってことね。ランクCならドッグ系は余裕かな?」
机上の空論で黒震獣犬を余裕と判断した剣人である。大丈夫か!?
「あ、そうそう、お母さんがね、クニちゃんに挨拶したいって。それでお土産何がいいか聞かれたんだけど?」
『うむ。いずれは剣奈の親御に挨拶せねばとは思うておった。会えるなら早い内が良い。土産とな、それは又かたじけないの。そうじゃの、土産とあらば、御刀油がよいかの。丁子油であればなおありがたい。椿油でも良いぞ。あとは拭紙もありがたい』
「おかたなあぶら?そう言えば出会った時、油を塗ってほしいって頼まれたよね。いい匂いのする油だったよね。塗ってあげた時、気持ちよさげだったし」
『うむ。あれは良きじゃ。放置しておくと我に錆が出てしまうのじゃ』
「ちょうじあぶら?つばきあぶら?」
『うむ。油の種類じゃ。一丁目などという時の「丁」に、漢字の「字」、それで丁字じゃ。椿は木偏に春。どちらも植物の名前じゃ。刀に詳しい母御殿なら、おそらくわかると思うぞ』
「うん!絶対わかるよ!お手入れ資材集めなきゃって、よく言ってるもん」
『そうかそうか。剣人は武家の子息やもしれぬの』
「ぶけのしそく?」
『侍の家系かもしれぬということじゃ』
「お母さんは侍じゃないけど、ゲームで沢山の刀剣を使って、悪の軍団をやっつけてるよ」
『うむ。そうであったな。剣奈は御母堂の血を引いておるのだな。血は争えぬ』
お互いの認識がズレたまま、不思議と会話が成り立っている2人である。いや、いつものことか。
「そうそう、お母さんが、クニちゃんの両親にも挨拶したいって言ってたけど、クニちゃんのお父さん、お母さんはどうしてるの?」
『ワシの親か。ワシを鍛えてくれた来国光殿はもうとうの昔に鬼籍に入っておる』
「クニちゃん、お父さん?お母さん?と同じ名前なんだ」
『来国光殿は男じゃ。国光殿に奥方はおったが、あまり覚えておらぬ』
「そっか。クニちゃんはお父さんっ子なんだね」
話が一段落したところで剣との気が緩み、大あくびが出た。
「ふぁーぁ。なんか眠くなっちゃた。ボク寝るね。クニちゃん、おやすみ。また明日ね」
来国光と多くのことを話し合った剣人である。あまりに多くの情報が剣人の頭に流れ込み、剣人の脳は休息を要していた。若い剣人のことである。寝ている間に、脳が情報を整理してくれることだろう。人体構造の不思議である。
明日が激動の一日になることを知らぬ剣人は、安らかに眠りについた。