31 巫女は強くあれ 戦闘巫女への道
剣人の敵は想像以上に恐ろしく深刻な被害をもたらす宇宙からの生命体だった。地脈エネルギーを、地球の星命エネルギーである「地力」を奪い、様々な大災害を引き起こす恐ろしい敵だった。
「そいつらを正義の味方、勇者ヒーロー剣人がやっつけるってのが、ボクの使命ってことだね?あまりに敵が凄すぎて、全然倒せるイメージがわかないんだけど……、やっつける方法ってあるの?」
正義のヒーローとして、放置できるものではない。それは分かるのだが、そんな強大な敵に立ち向かう想像ができない剣人である。ボクにそんな事が出来るのだろうかと、呆然とし、ちょっと弱気になる剣人だった。
でも、誰かが悪に立ち向かわないと地球が滅びちゃうんだ。頑張れ、ボク。勇気を振り絞るんだ。自分を鼓舞して悪に立ち向かおうとする健気な剣人である。
『闇の幽玄体「邪気」は神気を用いた術式で霧散させる事が出来る。清らかな乙女による巫女舞で、地脈に巣食う邪気を祓うことができるのじゃ』
「がくっ。それかー!」
巨悪と闘わなければ。そんな悲壮な想いを抱き、自らを奮い立たせようとしていた剣人。倒す方法はないかとの問いに、来国光の返答は女装しての女の子舞い。悲愴な決意と女の子舞いのあまりにもの落差に力が抜ける剣人である。
『うむ。まさにそのために剣奈が必要なのじゃ!』
「あー、まーわかったけどねー。だから女の子が必要なんだよねー」
やる気フルパワーから一転、遠い目をする剣人である。
「でもボク、今日、舞いとか踊りの練習全然しなかったよ?」
『うむ。巫女はまず強くなくてはならぬ』
「どういうこと?」
『邪気は敵が近づくと、身を守るために防御機構が働くのじゃ』
「防御機構?」
『うむ。やつらは危険を感じると、自らの闇の力を獣の姿に変え、敵を襲うのじゃ』
「なるほど!だからボク、闘う必要があるんだ!」
『そうじゃ。ワシはそいつらを黒震獣と呼んでおる。まずはそやつらを排除する必要があるのじゃ』
「ボクにやっつけれるの?」
『邪気は喰らい溜めた地力の大きさによって、変化形態が違うのじゃ。力が弱い段階では犬の形をとり、次に狼、猪、熊、鬼、さらに力を蓄えた邪気は、龍の姿を取ることもある』
「じ、上等じゃん!」
狼や猪と聞いただけで、怖気づいてしまっていた剣人である。さらに熊、鬼、龍と聞いて、完全に及び腰状態に陥ってしまっていた。
『まあ、そう気張るな、剣奈よ。いきなり強敵は無理じゃ。なのでまず、黒震獣犬を相手に力を蓄えればいいのじゃ』
「さ、最初はスライムとか、アルミラージとか、ラットとかからが定番なんじゃ。あとゴブリンとか。いきなりドッグ系?」
『大丈夫じゃ。剣奈の身のこなしと体捌きを見るに、十二分に黒震獣犬を駆逐できる強さに達しておる。そうじゃの、いくつかの小目録を獲得したぐらいかの。黒震獣犬など剣奈は歯牙にもかけぬわ』
「えっとね、その「しょうもくろく」ってのがレベルの段階っぽいんだけど、「しょうもくろく」ってどれくらいのレベルなの?』
『うむ。一概にはいえんがの、「小目録」とは小さい書き物、まとめ、課題、記録、みたいなもののことじゃがの。技ごとに小目録があっての、その技を達成したと認められると、認可を受けることができる。小目録は「中目録」でまとめられておる。さらに中目録は「大目録」でまとめられておる。すべての大目録を取得すると「免許皆伝」とよばれる段階に達する。ここまではよいかの?』
「うん。スキルにいろんな系統があって、それぞれのスキル取得が小目録ってわけね。たとえばファイアとかウォーターとかサンダーとかかな。今日教わったものは剣技と体術と魔術かな。剣技だと抜刀、袈裟斬り、水平斬り、刺突を覚えた。体術だと、体捌き、腰落とし、足運び、軸の入れ替え、とかかな?そして魔術だとヒールと身体強化魔法をおそわったよね?」
『これはたまげたの。剣奈は真に天賦の才をもつ神童やもしれぬ。いや、まさしくそうか。だからこそ選ばれたのか。ワシのもとに来たのも偶然ではなく、導きだったのかもしれぬ。いや、真にそのとおりじゃ。心から感服つかまつったぞ』
「えへへ。ボク、見込まれて選ばれちゃったから…… 戦闘巫女にならないとなんだね?じゃあスキルとか魔法身につけないとね」
気分が良くなり、さらに続ける剣人である。
「じゃあ戦闘系スキルを考えてみるとぉ。抜刀系の技をあつめたのが中目録。斬りつけ系の技を集めた中目録もあり、それをまとめると剣術の大目録になる。大目録には魔術の大目録もあり、もしかしたら体術の大目録もある。全部集めたら免許皆伝皆伝かな?」
『うむ。まさにそのとおりじゃ。剣奈の才はとどまることをしらんの!』
「にひひ」
相変わらず噛み合ってないようで噛み合ってる。いいコンビである。一度は完全に腰の引けた剣人であったが、褒められることでだんだん気分が良くなってきた。チョロ剣奈の面目躍如である。
黒震獣犬討伐決意まであと一押し。