30 大地の瘧(おこり)
『さて剣奈よ。明日は敵と闘うてみようかと思っておるのじゃがどうかの?』
21時。そろそろ寝ようかとベッドに横たわった剣人の心に来国光の声が響いた。
「うん。ボクも闘ってみたいと思ってたとこ」
『では、敵について話しておこうかの。敵の名は黒震獣。ワシはそう呼んでおる。漢字では、黒い震える獣。あやつらは異世界からやってきた、闇の力を持つ奴らでな。実体を持たぬ幽玄体なのじゃ。邪気、と言うものもおるし、暗黒瓦斯生命体、と言うものもおったかの』
「なるほど!闇の力を持つ、異世界宇宙エネルギー生命体だね!」
『剣奈はすごいのぉ。飲み込みが早い』
「えへへ。まかせて!」
『それでな、そやつらは地脈に巣を作り、地脈から星の力、地力を喰ろおておるのじゃ』
「やばいじゃん!地球の星命エネルギーを吸い取られたら、地球が滅びちゃうよ!」
『うむ。あやつらのすみかの近くでは往々にして大地がずれたり割れたりしておる。確か断層と言うたかの。地脈の層が断たれたと書いて断層じゃ。地脈に狭間ができとるのよ。じゃから地脈の狭間が奴らの巣を探す目印になる』
「うんうん」
『大地のずれは大地に無理な力がかかって生じる。地脈自体がずれておるもの、地脈の上に降り積もった泥や砂、礫などが岩になり、それらがずれておるもの、色々じゃ』
「なるほど色々なんだね」
『ともかくじゃ、やつらが地脈に無理やり入り込み、地脈の力を喰らい、自らを増やさんとする。邪気は大地を蝕み、大地は衣夜美の状となる。大地は瘧に蝕まれるのじゃ』
「おこり?」
『熱病じゃ。人がかかると高熱を発し、体が震える。たちが悪いことに、治ったと思ってはぶり返し、繰り返し発病し、やがて死に至る』
「つまり宇宙の悪の暗黒ガスエネルギー体、邪気は、地球のバイキンやウイルスで、地球が熱病にかかっちゃうってことね?」
『そうじゃ。地脈に邪気が無理やり入り込み、刺激し、増え、大地が瘧に蝕まれる。大地が叫び声をあげ、身を大きく震わすのじゃ』
「地面が叫んで身を震わせるの?」
『そうじゃ。たとえ話ではないぞ。実際、大地が大きく揺れ、地が割れ、山が鳴り、崩れる。なゐ、つまり地震が起こるのじゃ』
「地震!?大変じゃん!」
『地震だけではないぞ。瘧は怒るに通じておるがの、大地は怒り、身を震わせ、高熱に蝕まれる。山の神、火の神が刺激され、火龍が呼び出される。火龍は山を破壊し、山が火を噴き、大地は火に埋め尽くされる。地を覆う業火はすべてを焼き尽くすのじゃ』
「えー!火山の噴火もおきちゃうの?」
『うむ。たちの悪いことに火龍は雷神を刺激し、雷龍を呼ぶ。雷龍は雷を走らせ豪雨を呼ぶ』
「、、、、、、」
『それで終わりではない。なゐ、地震は海の神をも刺激し、海龍を呼び、凄まじい水を呼ぶ。荒れ狂う水は大地に押し寄せ、すべてが濁流にのみ込まれる。海龍が去ったあとは大地のほかは何も残らぬ』
「ちょっとエグすぎて、訳わかんないんだけど!まってまって!悪の暗黒ガスエネルギー体「邪気」は、地震を引き起こし、噴火や雷、大雨、そして津浪もおこしちゃうの?やばすぎるよ!」
『うむ。放置してておけぬ。そして他人事ではないぞ。邪気が巣食うのは幽世じゃがな、大地の震え、火や水、そして雷の奔流は現世にも現れるのじゃ』
「えっ!現実世界の地震、噴火、雷、大雨、津浪って全部邪気のせいなの?」
『いや、すべてが邪気のせいではない。しかし邪気が引き起こしたものも少なからずあるのは事実じゃ。邪気のせいで現世の多くの国が滅び、人は滅せられておる』
噛み合わない言葉ながら、意外にきちんと噛み合ういつもの2人である。
暗黒瓦斯エネルギー体邪気の余りにもの暴虐ぶりに、呆然とする剣人であった。