28 幽世での初修行
幽世の川原に光が突然現れた。光がおさまると、天から来国光を捧げ受けた姿の剣奈が現れた。
「あのさ、変身の時って光るじゃん?いつもアニメ見てて思うんだけどさ、敵にすぐ見つかっちゃわない?移転直後に狙われてすぐ攻撃されちゃったりしない?」
『確かに目立つの。層転位で使われておるのは剣奈が取り込んだ神気じゃ。今は転位に使われる以上の神気を取り込んで使っておる。そして溢れた神気が光に変換され放たれておる。剣奈が神気の扱いを上手く出来るようになれば光らぬよう出来る。なんなら転位で余ったお溢れを溜めておいて剣気と共に使うことも可能になるぞ』
「わかった、上手になるように頑張るよ」
『うむ、えらいの。ところでじゃ、幽世への転位術式は、なるべく早く、一人で出来るよう覚えて欲しいのじゃ』
自分で自分の名を『来たれ!』と呼ぶのが若干気恥ずかしい来国光であった。
「わかった!がんばるよ!」
来国光の恥じらいに気づかず、素直に返事する健気な剣人、いや、剣奈であった。
『さて、いよいよワシを使っての修行じゃ。励め』
「ん!」
気合を入れながらベルトに来国光を差す剣人である。
『まず鯉口を切るのじゃ』
「こいぐち?」
『ワシが鞘から簡単に抜けぬよう、鎺で止められておる。抜きやすくするため、左手の親指で鍔を押して、すこしだけ刀を抜くのじゃ。その行為を鯉口を切るという』
「わかった。こう?」
『そうじゃな、それでも良い。しかし相手から気づかれなくするやりかたもあってな』
『そうじゃ、素早く抜くためには鞘を少し傾けてな』
『そうじゃ、そこはもそっと、、』
場面場面で最適な鯉口の切り方を伝授する来国光であった。そして抜刀の仕方、刃の立て方、腕や手の動かし方、足の使い方、体捌き、体幹の使い方、体の連動、腰の落とし方、様々な基本となる動きと所作を伝授していったのだった。
『うむ。あとはこれらの動きをひたすら繰り返すのじゃ。頭で考えずとも体が自然に動くようにな!』
「わかった!あ、お水飲んで良い?お母さんから水をこまめにとって、熱中症には気をつけるように言われてるんだ」
『うむ。必要と思ったらワシに断らずとも、水分や食べ物を取って良いぞ。ただしがぶ飲みはなしじゃ。腹に水がたまると動きが鈍るし、腹に衝撃が来た時に弱点となることもあるでな』
現代的に体に気を使いながら修練を積む二人であった。
日は高く昇り、そして傾いていった。
その頃には剣奈は別人のように、鋭敏で軽やかな刃捌き、体捌きを見せるようになっていた。
適切な来国光の指導、若い剣奈の吸収力、才能、反復修練を苦にせず体の感覚を掴むのが上手い特質、などがうまく噛み合っていた。
剣奈は気づいていなかったが、来国光が意図的に剣奈に剣気をごく微量流し、剣奈の身体能力、回復力を少しばかり向上させていたことも、修練の飛躍的な進捗に大いに役立っていた。
『剣奈はさすがじゃのう。これほど早い上達に、もはや驚きしかないわ』
「えへへ。そう?ボク、すごい?」
調子に乗るチョロ剣奈。いつものことである。
『さて、最後に疲労回復の術じゃ。ワシから剣気を吸い込み、丹田に蓄え、そして体全体に行き渡らせるのじゃ。その時、体の疲れよ取れろ、怪我よ回復しろ、と強く念じるのじゃ』
「あ!わかる!ヒールだよね!ボク、回復魔法も使えちゃうんだ!すごい!」
来国光はヒールは分からなかったが、回復魔法はなんとなく分かった。大まかな理解と読み、これもいつものことである。
読者様もそろそろ理解していただいていると思われるので、今後は二人の食い違い、言葉の違いはそのまま流させていただくことも多くなるかと。
「ん♡」
剣奈の体が淡く光った。剣奈の疲労はとれ、傷は回復されていった。肌はつややかになり、漆黒の髪もきらめいた。見目麗しい少女がそこにいた。男子の格好をしていることが、かえって剣奈の凛とした色気を際立たせていた。
修行は予想以上の成果を上げた。剣奈は来国光に言われるまま、帰還の術式と祝詞の追唱を行い、現世に帰還していくのだった。