25 備前へ
剣人がどんどん上達するするのを見て、嬉しくなった来国光である。初めての修行だと言うのに、来国光は剣人がへとへとになるまで鍛錬を続けてしまった。
「あー疲れた。もう動けない」
ヘトヘトになり、仰向けに寝転がった剣人である。そしてハッと太陽の位置に気づいた。日はすっかり傾きかけていた。急がないと、駅に帰り着くまでに日が暮れてしまうかもしれない。
「ホテル!早く駅に戻ってホテルを目指さないと!」
『ホテルとな?』
「泊まるとこ!寝るとこ!お宿!」
『ああ。なるほど、旅籠じゃの。して、旅籠の場所はどこじゃ?』
『岡山!』
『ふむ吉備国の備前か。良き地じゃ。そして吉備国にも彼奴らの巣がある』
『きびのくに? びぜん?』
『うむ。良い鉄と水と木々に恵まれた地でな、良い刀工がたくさんおる。長船は有名じゃ。福岡一文字の山鳥毛とかな。山鳥毛は山鳥のような美しい華やかな波紋が特徴的なのじゃよ』
「長船!山鳥毛!知ってる!」
『ほほう。さすが剣奈じゃ。重畳、重畳』
「ちょうじょう?」
『偉いが重なって、ものすごく偉いということじゃ』
「えへへ。そうでしょ、そうでしょ。偉いのが重なっちゃたか。さすがボク。にひ」
ニヤニヤしながら、ドヤ顔で知っている知識を披露する剣人である。
「だってね、お母さんがよく言ってたもん!山鳥毛の中の人の声が好きで、山鳥毛が欲しくて欲しくてたまらなくてゲーム始めたけど、山鳥毛はイベント刀でなかなか手に入らかったって!リアル山鳥毛はものすっごく高いけど、里帰りプロジェクトっていうののクラウドファンディングで、みんなの力で実物が見れるようになったって。お母さんも寄付したっていってたよ!」
一気に畳み掛けるように話す剣人である。ドヤ顔の剣人が何を言ってるのか、来国光にはさっぱりわからない。しかし剣人が刀剣に興味を持っているのは良いことである。そう思い、うむうむと優しく返事を返す来国光であった。
さて、剣人が吉備国に行くとすれば、吉備国で実戦経験を積ませる事が出来る。弱い敵と闘わせることで、比較的安全に剣人を強くすることが出来きよう。剣人育成計画を思案する来国光であった。
『して、路銀、あー、お金と旅の期間はいかほどじゃ?』
「お金はお母さんからカード借りてるから、相談したらある程度使えるかも。日程?今は夏休みだし、少し長めでも大丈夫?お母さんが許してくれたらだけど、、」
ちょっぴりドキドキしながら答える剣人である。剣人は、褒められるのは大好きだけれど、怒られるのは怖いのである。
『して、当初の予定ではいかほどじゃ?』
「二泊三日」
『ふむ吉備国で修行と実戦ができれば良いのじゃが。ちと考えてみようぞ。今日が修行始めじゃ。そして一泊して明日じゃ。明日はワシの剣気が回復するので幽世にてワシを持って修行できよう。そして二泊して明後日。明後日には修行の成果を活かして犬型黒震獣と実戦修行しようぞ。そして三泊、修行と疲れを癒し帰宅か。むむむ三泊ほしいのぅ。あと一日だけ伸ばせぬか?』
1日くらいなら母は許してくれるかな?剣人は思案しつつ、実戦と言う言葉に心を沸き立たせた。
「わかった。今晩お母さんに聞いてみる」
ヒーローとして実際に悪と闘う事が出来るのである。正義感と万能感に酔いしれ、すっかり前のめりになった剣人であった。