20 拵装着
「お手入れおわったよー。どうやって着せればいいの?」
『うむ。剣奈がするのと、ワシがするのがある。本当は着せてもらうと、お世話されている感じで良いのじゃが。まずはワシが自分でしよう。ワシを布の真ん中に置いておくれ』
「わかった!はい!」
ウコン布の真ん中に来国光を置く剣奈。するとウコン布の上が眩い光につつまれ、拵が装着された来国光が置かれていた。
「わぉ!かっこいい!」
『む?そうか?』
気分を良くした来国光。来国光も案外チョロい。
『しかしな剣奈よ、ワシ自身による装着は剣気を使うでな。あと敵が周りに居るときは遠くからでも光で居場所が分かってしまうでな』
「光ったら、見つかるよね」
『こんどやり方を教えるで、ゆっくりでいいから覚えておくれ。なに大丈夫。賢い剣奈のことじゃ。あっというまじゃ』
「そかー。クニちゃんに頼られたら仕方ないなぁ。今でもいいよ?やり方、教えて!」
『そうか!それはすまぬのう。では悪いが甘えるとするかの。ではまずじゃ。桐の道具入れから小さな金槌を取り出すのじゃ。目釘抜きという』
「わかった。これだね。小っちゃい金づち」
『うむ。そしての実は先っぽに仕掛けがあるのじゃ。上の出っ張りを回してみるのじゃ』
キュッキュッ
剣奈が目釘抜きの頭部先端を回すと目釘抜きの頭部から、細いピンのようなものが抜けた。
「えっ!とれた!カッコいい。秘密の仕掛けだね」
『この仕掛けを知らぬものもおってな。金づちでいきなりワシの柄をゴンゴン叩きはじめたりするのじゃ。困ったものじゃ。剣奈はすぐわかってくれてさすがじゃ。その取れた針の細いほうの先をワシの柄の留め具にあて、そっと金づちで叩くのじゃ。留め具のことを目釘という』
剣奈は細いピンを来国光の柄にある目釘にそえ、慎重に金槌で叩いた。
コンコンコンコン
目釘が徐々に奥にずれる感覚があった。剣奈は途中で金槌を置き、右手にピンを持ち直し、押した。
クイッ クイッ
ポトリ
『ほうじゃ。剣奈はほんとに上手じゃのう。丁寧じゃ。なかなかそう上手くはできぬものじゃがの。さすがじゃ。さて次じゃがの、次がちょっとコツがいるのじゃ。ワシの柄を左手で握り、そのこぶしを右手でトントン叩くのじゃ。すると柄から刀身が浮いて抜けるようになるでな』
剣奈は左手で柄を握り、刀身を傾けた。そして右手で自分の左拳を叩いた。
トントントントン
柄から刀身が浮いた。
「うわぁ。こうやってとるんだね。すごいね」
『そうじゃ、そうじゃ。うまくできておるだろ。さて次はちとむつかしいぞよ?鍔と鎺をはずすのじゃ。ワシの柄を外す時、左手の指で鍔の根元をそっと押さえなが抜くのじゃ。鍔の根元に切羽という金具があるからの。落とさんよう慎重に柄を外すのじゃぞ。できるかの?』
「うん!もちろんできるよ。慎重にそっとだね。任せて!」
剣奈は左指人さし指と親指で切羽を支えつつ、丁寧に柄を抜き、そして慎重に切羽外した。続いて鍔を両親指で押しながら緩め、持ち手を変えながら、鍔、切羽、鎺を外した。
『ほうじゃ、ほうじゃ。ほんに剣奈は上手じゃのう。初めてとは思えぬわ』
「むふふふふ。ボク、すごい?えへへへへへ」
『うむ。大したものじゃ。そして拭紙を2枚使っての古油拭いと新油塗りじゃ。さっきやってもらったばかりじゃがの、練習じゃしも一度やるか?剣奈は上手そうじゃからのぉ。気持ちよく拭いてもらえるからのぉ』
「そう?ボク、お母さんによく洗ってもらってるから、洗い方も上手だよ。気持ちよくしてあげるね♡」
剣奈は刀をばらし、拭紙で刀身をていねいに刀身を拭い始めた。褒められて、すっかりやる気になったチョロ剣奈である。褒め上手に徹した来国光により、剣奈は刀の手入れと、拵えの脱着を徹底的に仕込まれていくのだった。