18 疾走
『ほほう。すぐに剣気を使えたか。筋がいいのお』
剣気を取り込み跳躍に使うことは、特に難しいことではない。剣気を吸って足に流し、筋力を強化すれば良い。しかし、これまでの様子を見て、来国光は褒めて育てる方針を固めた。
そして剣奈は、、チョロかった!
「そう?ぼく筋がいいんだ!やっぱ選ばれちゃったからなぁ。見込まれちゃったからなぁ。ふふふ」
『さて、剣奈よ、早速で悪いがワシの拵えを回収してくれるかの。あの大きな楠木を目指してもらえるか?』
「わかった。あのおっきな木だね。ん♡ケントじゃーんぷっ♪ あん♡」
ケンナ呼びは受け入れても、必殺技っぽい呼び名はケント名を入れるらしい。
剣気を吸うときの快感、跳躍の爽快感、高揚感。剣奈は頬を赤らめつつ山道を跳躍し、疾走し、あっという間に楠木の霊木のもとにたどり着いた。
剣奈の、剣気の吸い方、使い方にはかなり無駄がある。本当は剣気の無駄遣いをしてほしくないところ。しかし跳躍や疾走に使う剣気は、そう大きなものではない。剣気の使い方の練習にもなる。有頂天になって剣気を使う剣奈を、来国光は生温かく見守るのだった。
「クニちゃん、何もないよ?って、そもそも、こしらえってどんな形してんの?あと、こしらえってなに?」
『拵とはまあ、ワシの着物みたいなもんじゃ。剣奈も真っ裸でいるのはいやじゃろ?拵を装着しているとな、なんかこう、しっくりくるというか、落ち着くのじゃ』
「なるほどねクニちゃん、いま素っ裸なんだ」
『そ、そうじゃな。なので早く装着したいのじゃ』
「でもどこにも見当たんないよ?どんな形してるの?」
『うむ 拵とはな柄、鍔、鞘といったワシを包む装具じゃ。細かくは鎺、目貫、目釘、切羽なんかもあるが、それらの総称じゃよ』
「なるほどね。さや、つば、つか、ね。わかるよ」
はばき、めぬき、めくぎ、せっぱ、そうしょうというのが分からない剣奈だったが、なんとなく分かったのでそれで良しとした。細かく考えないのが剣奈の良いところでもあり、悪いところでもあった。
「んー。でも見当たんないなあ」
『すぐ近くにあるのじゃがの』
「んんんんん?」
来国光の思わせぶりな言葉に、剣奈は木以外何も見えない空間をみて、首を傾げるのだった。