15 剣奈と国
「つまり、女の子にならないと、
神様の力をもらえなくて。でもその姿はみんなに見られることはない?」
『うむ。そういうことじゃ。ケントは案外聡いの』
「さとい?」
『ケントは賢いってことじゃ』
「へへっ。まあそういうことなら仕方ないねー」
褒められるとチョロいケントである。気分がよくなったケントは、そんなに悪い話でもないのではないかと思い始めていた。
ケントが嫌なのは周りからからかわれることである。しかし来国光の話だと、周りにばれることはないらしい。しかも、神様の力をもらえるかもしれないのだ。
それはつまり、魔法妖精に見いだされ、力を得て活躍する、魔法戦士ではないかと。つまり、自分がヒーローに選ばれたのではないかと。
ケントは来国光の提案が魅力的に思えてきた。
「そか、じゃぁ、うん。わかった」
『すまぬな』
「いいよ」
『ところでじゃ、巫女のときに男名のケントもおかしかろ?』
「おかしい?ボク、ケントだよ?」
『うむ。まあそうなのじゃが、それは男名じゃろ。巫女よ、と役割で呼ぶのもどうだかな。さて、どう呼ぼうかの』
「ケントでいいってば」
『まあ気分じゃ。では、 「ケンナ」 でどうじゃ』
『ケンナの「ケン」は、漢字では剣人の「剣」。ケントとの同一性、連続性を表す。そして刀剣であるワシとの繋がり、それも表されておる』。さらに、「ケン」という音の響きは、賢いの「賢」にも通ずる』
「なるほど?」
『ケンナの「ナ」は、古の都、奈良の「奈」。「奈」の字には、「豊かさ」、 「実り」、 「華やか」、「繁栄」。そのような意味が含まれておる』
「ふうん」
『つまりじゃ、賢く、聡く。刀剣であるワシとつながり、豊かな実りをもたらす女性。そういう意味になるかの』
「にへっ。賢く剣をもって、カッコいい!悪くないね」
どこからカッコいいが?おめでたいケントである。実に都合の良い脳内変換である。
もちろん賢い来国光は、間違いを訂正しはしない。
「そういえば。おじさんのことはなんて呼べば?」
『おっ、、おじさ、、んん んんんん。ワシ、わが名は、来国光という』
「らいくにみつ?言いにくいなぁ。じゃあ、くにちゃん、それか、みっちゃんで」
『みっ、くっ、、ぬぬぬぬ。せめて、「国光」がよいのだがのぉ。かつては「邪斬」、「黒鬼斬」、などと呼ばれたこともあったがの』
「じゃぎり? こっきぎり?」
『うむ』
「じゃあ、じゃちゃん? とか こっちゃん?」
『んんん、むむむむ。それものお。むむむむ。まぁ、ケンナにも色々無理は言うとるしの。ワシだけ不平をいうてもな。ならばワシのことは、「国」とか、「国ちゃん」でよいぞ』
「わかった!じゃあ、急いでるときは「クニ」、 いつもは、「クニちゃん」で」
剣奈と国、お互いの呼び名が決まったのであった。
一振りと一人、いや「二人」は、固く結ばれたよき相棒として長い時を過ごしていくことになる。
来国光と剣奈、人知れず日本を守ることになる二人。二人の長い闘いのあゆみが、今始まった。