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【15400PV感謝】剣に見込まれヒーロー(♀)に 乙女の舞で地脈を正します 剣巫女・剣奈 冒険の旅  作者: 夏風
第九章 千剣破の奮闘 そして篠の道

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181 岩屋の犬伝説 白蛇の攻撃 問いただす来国光

「この子のは可愛い子。岩屋観音様(ゆかり)の子よ?このあたりをウロウロしてたから「おいで?」って声をかけたの。そしたらついてきたの」

 白蛇が答えた。

 

「うむむむむむ」


 藤倉がうなった。「岩屋の犬」伝説を思い浮かべたのである。淡路島岩屋の犬伝説、江戸時代に岩屋観音で飼われていた犬の話である。

 

 その犬は毎日海を見ていた。賢いその犬は潮が月に一日だけ速い日があることに気がついた。

 

(……って、潮の流れの変化に気づくだと?いったいどんな犬なんだ?)


 藤倉は自分の想像の中でさらに一人ツッコミを入れた。

 

 ある日、その犬は浜辺で拾った木切れを沖に投げた。そしてその木がどう流れるかを高台から見守った。

 

(えっ?犬が木を拾う?そしてそれを投げる?いやいやいやいや。それ明らかに人だろ?犬塚さんとか、犬養さんとか、犬山さんとかじゃないの?)


 藤倉は伝説を思い浮かべながら、再び心のなかで盛大にツッコミを入れた。

 

 さて、それはともかくである。その犬は潮の流れの変化を見抜き、岩屋から堺への安全な航路を発見した。


 ちなみに淡路島と本州との間の航路に関する最初の詳細な記録は、八四五年(承和 一二年)である。淡路国石屋浜と播磨国明石浜に渡し船が使われたとの記載が『続日本後紀』に見られる。

 なお、淡路島との交流記録はもっと古くからある。航路については記されていないものの、それよりも百年以上前に編纂された『日本書紀』や『古事記』にも、淡路島の記載がある。

 

 なんといっても淡路島は、日本で最初にできた島(神話上)なのである。当然古くから行き来はあったろう。ただしそれは明石海峡経由の話であるが……


 岩屋と堺を結ぶ航路について、イエズス会士フランシスコ・パショが一五八五年、岩屋から兵庫を経て堺に至り京都に向かう航路のことを記している。

 また、『イエズス会日本報告』には畿内と九州を結ぶルートの一部として、堺と岩屋の名前が記されている。 

 しかしそれらは堺と岩屋の直行ルートではない。記述から考えて、明らかに明石海峡ルートであろう。

 

 堺と岩屋の直行ルートは、明治以降になるまで記録が見当たらない。堺と淡路島の間は、明石・淡路島間と比べてかなり距離が遠い。しかも潮流も複雑である。明石経由で普通に淡路島にたどり着けるのに、あえて危険な航路を経なくてもよかったのかもしれない。


「海岸を一匹でトボトボ歩いて、寂しそうにしてたのよ。たから一緒に暮らしてあげることにしたの。とっても賢い子なのよ」


 白蛇が昔のことを思い出しながら言った。と、来国光が会話に割り込んだ。

 

『どうやら怪異のようじゃの。しかし悪性は感じられぬ。善性の怪異なんじゃろう』

 

「国光さんが時々言う、人の思いが積み重なったってやつ?」

『恐らくそうじゃろう』

 

「蛇だの犬だの、どうだっていいんだよ。剣奈だ。剣奈のところに、行かなくて良いのかよ?」


 黙って聞いていた玲奈が、我慢しきれず口を開いた。短気な玲奈にしては、よく我慢したほうだろう。


「それなんだけど、今は見守ってあげることはできないかしら?ずっと成仏できずにフラフラしてたあの娘…… ようやく呪縛から解き放たれるかどうかの瀬戸際なのよ」


 白蛇の化身、うら若き美女が、上目遣いで藤倉たちをちらっと見上げて言った。さっきは「のじゃ」言葉を使っていたのに、お願いする時になるとガラッと口調を変えてきた。実にあざとい。


「そうだね」

『じゃのう』

 

 藤倉と来国光は、その言葉にほだされそうになっていた。ところが。


「それがアタイらに何の関係がある?アタイにとって大切なのは剣奈だけだ。何で見も知らぬそいつのことを気にしなきゃなんねえ?なんならアタシがそいつの核を撃ち抜いて、あっという間に浄化させてやろうか?」


 ――玲奈くん、恐らくそれは浄化ではない。討伐である。白蛇ちゃん渾身の女子あざとさも、同じ女性の玲奈には何の効果もなかったようである。白蛇ちゃん残念。


「じゃあ行くぜ?」


 玲奈がゆく手を阻む障壁に向かってワルサーP38を構えた。その時……


「許せ……」

 シャー


 女が消えた。まるで空間移動をするように、玲奈の足元に白蛇が現れた。そして…… 白蛇は玲奈の足首に噛みついた。


 チクリ

 

「て、てめぇ……」

 

 ドサッ


 玲奈が地面に崩れるように倒れた。


「牛城さん!」

 チクリ


 白蛇は続いて藤倉の足元に移動した。そして藤倉の足首にも噛みついた。


 ドサッ


 藤倉も倒れた。


『白蛇よ…… お主は…… ワシらに敵対する…… そういうことでよいのじゃな?』


 来国光が白蛇に静かに言った。白蛇が再び女の姿になった。そして慌てて口を開いた。


「い、いや…… ち、違うのじゃ。あちらで妾に捧げられた女と巫女が語ろうておる。邪魔をしてほしくないだけなのじゃ……」

『なら、そう言えばよかろう』

 

「いや、言うたはずじゃ。「待ってください」「見守っててください」と」

『む…… 確かにの……』


「この二人に与えたのはただの眠り薬じゃ。何の毒にもならぬ」

『信じてよいのか?巫女を害するならば、ワシにも考えがあるぞ?』

 

「信じてたもれ。このとおりじゃ」


 女が頭を下げた。そして再び白蛇の姿に戻り、気遣うように玲奈と藤倉をチロチロと舐めた。その姿に敵意は感じられなかった。


 その敵意のない必死な様子を見て、来国光はしばらく様子を見守ることにした。

 

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