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【15100PV感謝】剣に見込まれヒーロー(♀)に 乙女の舞で地脈を正します 剣巫女・剣奈 冒険の旅  作者: 夏風
第九章 千剣破の奮闘 そして篠の道

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180 剣奈の絶叫 立ちふさがる白蛇

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「剣奈っ!」

「剣奈ちゃん!」


 玲奈と藤倉は鍾乳洞の中から響く剣奈の悲鳴を聞いた。そして二人で顔を見合わせて同時に立ち上がった。

 玲奈は太もものホルスターにワルサーP38を装着して鍾乳洞の入り口に向かって走り出した。

 

 藤倉はキャンプテーブルに置かれていた来国光を掴み腰に差した。そして地面に置かれていたオイルランタンを掴んで玲奈の後を追った。


「おい邪斬り、剣奈は大丈夫なのか?」


 玲奈が来国光に尋ねた。

 

『問題ないはずじゃがの。ただの浮遊霊なら剣奈の神気に触れただけであっという間に浄化されるじゃろうしのぉ。多少力のある怪異であっても剣奈が剣気を込めた拳で貫けばあっという間に消滅するはずじゃろうしのぉ』

 

「じゃああの悲鳴はなんだ?」

『剣奈は怖がりじゃからのぉ。霊か怪異を見て腰を抜かしたんじゃろ』


 あくまでのんびりとした来国光である。しかし藤倉は気が気ではなかった。あの気丈な剣奈ちゃん(藤倉の思い込み)が悲鳴をあげたのである。剣奈ちゃんに危険がせまっているのかもしれない。

 藤倉の鼓動はドキドキと早くなっていた。嫌な予感がした。


 ジュ


 藤倉の持つオイルランタンの火が消えた……


 「ちっなんだ前に進めねえ」


 ゴンッ。玲奈が立ちふさがる見えない壁を殴りつけた。

 カチャ。玲奈は太もものホルスターからワルサーP38を抜いて前方に構えた。


「待つのじゃ…… いや、待ってください」


 何処からか声が聞こえた。


「はぁ?誰だてめぇは」


 玲奈には見えた。壁の向こうから現れた何かが。それは女だった。犬を連れていた。しかし玲奈は女の中にさらに何かを見た。


「妾はここを守るただの蛇。この子は私と暮らすお友達……」


 女が答えた。

 

「そうかよ。お友達同士仲良くて何よりだ。ところでアタイは仲間のところに急いでんだ。さっさと道をあけな」

「あの娘は良い子。懐かしい風をまとっている。いとおしい風……」

 

「はぁ?何わかんねえこと言ってやがる。通さねえとこの壁ぶち破るぞ」

「あの娘は大丈夫。あの娘に害を及ぼすものは、ここにはいないわ」

「じゃああの悲鳴はなんだ?」

 

「おほほほほほ。ちと妾の知り合いがびっくりさせちゃったみたい。まあ、あの娘が勝手にびっくりしただけなのだけれど……」

「手前勝手なことほざいてんじゃねえ。ぶっ殺すぞ」


 玲奈の殺気が高まった。

 

『まあ待つのじゃ。玲奈殿よ。おぬしにも見えているんじゃろ?あの白蛇…… いやあるいは白龍かもしれぬが、神の眷属じゃと』

「神様の眷属だって?」


 藤倉がびっくりして目の前に現れた女性を見つめた。美しい女性だった。「美しい女性」「白蛇」「白龍」「神の使い」。

 

 藤倉の心に稲妻が走った。


「あなたはもしかして「美女池」の主様ですか?」

 藤倉が尋ねた。

 

「あの池の主?違うわ?ちょっと前、あの池で水浴びをしていて、それで男に見られて騒がれたことはあったわ。でもあそこはただこの場所と位相が繋がっていただけ。あそこの主じゃないわ……」


(江戸時代が「ちょっと前」、さすがに神の眷属は時間の感覚が違うな……)

 

「ひょっとして安乎岩戸信龍神社あいがいわどしんりゅうじんじゃにお祀りされているのはあなた様ですか?」


 安乎岩戸信龍神社あいがいわどしんりゅうじんじゃは淡路島洲本市安乎町にある神社である。洞窟の中に小さな祠が祀られ不思議な雰囲気を持つ。祠から振り返ると鳥居越しに美しい大阪湾がのぞめる。

 洞窟の祠、美しい展望。神秘的な空気が感じられるパワースポットとして知る人ぞ知る神社である。

 

 もとは岩戸神社の祠が建てられていたのだが、すっかり廃れてしまっていた。鳥居には一八四九年(嘉永二酉年)の文字が刻まれている。二〇二一年に地元関係者が龍神を祀る神社として再興した。

 

 新しく建てられた神社由来の看板には次のような内容が刻まれている。

 

 かつてこの地には岩戸神社という小さな社があり、そこに少彦名命と一匹の龍が仲良く暮らしていたと。しかし時が経ち社は廃れ、村人たちは神様が寂しくないように近隣の安乎八幡神社へ神様を遷座させたという。

 その時一緒に暮らしていた龍は神様のおつかいで社を留守にしていた。お使いからもどった時には神様が移られた後だった。

 一人(匹?柱?)ぼっちになった龍は、神様がいつか戻ってくると信じて、今もこの地で待ち続けているのだという。

 

 切ない話である……


「いや、ないない。移動したと言ってもすぐそこじゃろ?それで分からないなど、妾はどれほど愚かなのじゃ?カッカッカッカッカッ」

「そりゃそうか」


 藤倉が答えた。

 

「まあ少彦名様と一緒におった時期があったのは本当じゃがの。しかし妾はここの守り主じゃぞ?あの洞穴には立ち寄ることはあっても住み着いてはおらぬわ」

「一緒に暮らしていた時期があるんだ…… 立ち寄ってはいたんだ……」


 藤倉はじとっと美女を見つめた。話し方が女性らしい話し方から、地が出てきたのか「のじゃ」に変わってきていた。

 

(もしかして、ポンコ……、残念美じ…… いやいやいや、神様の眷属様に恐れ多い。この件にはこれ以上触れないほうがよさそうだ……)


 藤倉はそう考え、いったん黙った。

 

 淡路島にはヘビにまつわる神社や神事は少なくない。「蛇供養」を行う安住寺、蛇神様をお祀りするという八王子神社や岩上神社。淡路弁財天の厳島神社も蛇と(ゆかり)がある。


(このうかつ…… ゲフンゲフン。フットワークの軽そうな白蛇様が淡路島中で出没していたとすれば…… いろんな話の辻褄が合うな……)


 藤倉は女性の話から、女性の素性と淡路島の蛇神様にまつわる話がすべて繋がった気がした。そこで彼女の拠点と立ち位置について確認することにした。


「ところでここは幽世ですよね。貴女はこちらに住んでおられるのですか?」

「うむ。こちらは静かじゃからの。あちらは何だかんだと騒がしい。とはいえ誰も来ぬと寂しいしの。まあ風の吹くまま、気のおもむくままじゃ」


(さすがは神様の眷属だな…… どうやら彼女は自由に、幽世と現世を行き来できるようだ。とすると……)

 

 藤倉は一人で納得して頷いた。そして藤倉、結構失礼なことを考えていた。


(彼女のことはだいたい理解した。すべて繋がった。彼女のことはもういいだろう。それにしても、この白蛇様はかなりうかつで口が軽そうだ。ならついでに彼女の連れている犬についても確認しようかな……)


「分かりました。貴女はここを守っていらゃったのですね。素晴らしいことです。そして淡路各地にお出ましになられていたと。淡路の民はさぞかし心強かったことでしょう」

「カッカッカッ そうじゃろ、そうじゃろ」

 

「大変素晴らしいことです」

「うむうむ」


「ところでもう一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「うむ。くるしゅうないぞよ」


「ありがとうございます。では…… そちらのお連れ様、どのような成り行きで、一緒におられるのですか?」


 藤倉は考えていた。


(白蛇様(白龍様)の連れている犬…… ただの犬であるはずがない……)

 

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