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【15000PV感謝】剣に見込まれヒーロー(♀)に 乙女の舞で地脈を正します 剣巫女・剣奈 冒険の旅  作者: 夏風
第八章 鳴門海峡の封印

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157 空前絶後の偉業!しかし世界は滅亡危機!?解き明かされる結晶構造の謎


『剣奈っ!でかしたっ!』


 ついに剣気の、霊脈気の結晶が出来た。来国光が興奮して叫んだ。


『一体どうやったのじゃ?あれほど難儀しておったろうに!』

「えっとね。ボク、恥ずかしいんだけど……泣いちゃってさ、涙が目にあふれちゃってさ……」

『いや。涙は恥ずかしいことではない。ただの感情の発露と身体の反応に過ぎぬじゃろ』

「あは……。まあね……」

『涙と関係があるのかの?』


 来国光が不思議そうに尋ねた。剣奈が続けた。


「えっとね。朝日が眩しくて。それでキラキラ光ってさ」

『うむ?』

「それでお母さんとの話、思い出したんだ」


 ――――


 千剣破が嬉しそうに指輪を見ていた。綺麗だった。キラキラしていた。


「お母さん。その指輪とってもキラキラして綺麗」

「うふふ。そうでしょ。そうでしょ。これはね。ダイヤモンドっていう宝石なのよ?」

「うん。聞いたことある。とっても硬いんでしょ?たしかアダマンタイトの次くらい?あ、オリハルコンとどっちが硬かったかなぁ?」

「アダマンタイトが最も硬いわ?次がダイヤモンド。そしてオリハルコンね」

「そっかぁ。二番目に硬い素材なんだ」


 剣人はキラキラした目でダイヤモンドを見つめた。千剣破は剣人に合わせて説明を続けた。

 剣人の言う事は荒唐無稽である。しかし千剣破は剣人の純真な積極性を尊重した。

 せっかくの発想力である。つまらない常識でつぶしたくなかった。


「そうね。とっても硬いわ。でも……、武器には不向きじゃないかしら?」

「えー?とっても硬いのに?」

「日本刀がどうして優れてるって言われてるか知ってる?」

「もっちろん!切れ味抜群でかっこいいから!」

「さすが剣人ね。よく知ってるわね」

「えへへ」


 千剣破は剣人の発言を褒めた。そのうえで必要な知識を追加していった。

 

 否定しない。褒めて育てる。そして必要な知識を補う。これが千剣破流の剣人の育て方であった。

 

 チョロチョロのチョロ剣奈。調子っ乗りの常識知らず。見方を変えれば常識に縛られない豊かな発想力。

 剣人ワールドはこうして生まれ、育まれていったのである。

 

 千剣破渾身の子育て。それがまさに神様に目をつけられ、男子から女子に変えられてしまう大きな理由になろうとは……。

 千剣破はもちろん自覚していない。皮肉なものである。千剣破にそれを伝えるのは酷というものであろう。


「日本刀はね、確かに、強い、よく切れる。でも……、それだけじゃないの。折れず、曲がららない」

「うんうん!」

「玉鋼の純度から生まれる美麗な刃文!幾度にもわたる折り返し鍛錬による強靭さと粘り!鉄の武器なのに、軽く携帯性がある!」

「うんうん!」

「つまりね……。切れるのは当たり前。美しくも強い。硬いのに粘りがある。つまり強靭!これが日本刀のすごいところなのよ」

「なるほど!」


 千剣破は息子に日本刀の素晴らしさをとうとうと語った。


 この思い出話を聞いた来国光が千剣破への好感度を爆上げしたことは言うまでもない。


「ダイヤの剣はどうだと思う?」

「ダイヤは鉄より硬いよね?」

「その通り!でも……、粘りがまるでないわ。だから多分すぐ折れるわね」

「そうなんだ……」

「あと致命的な欠点があるの……」

「致命的欠点?」

「ダイヤはね、圧力をかけずに熱するとね……、多分……、炭になっちゃうわ?」

「そうなの?」


 千剣破は思った。ここだと。剣人に物質の物性に興味を持ってもらえるポイントになると。そして続けた。


「ダイヤモンドは鉛筆の芯と同じ成分でできてるのよ」

「えええええ!?」

「少し難しい言葉を使うけど大丈夫?」

「うん!ボク、難しい言葉、全然平気。だってお母さんいつも使ってるじゃん」


 千剣破、無自覚にかなり難しい専門用語を剣人に使っている。無意識のつぶやきも含めて。


「ダイヤモンドは炭素の結晶体なの。鉛筆の芯と成分は同じ。つまり炭素。でもダイヤモンドと鉛筆の芯は結晶構造が全然違うのよ」

「結晶構造?」

「炭素を構成する一番小さい粒、炭素原子の並び方のこと。原子が並んで形になった物質を結晶というの。そしてその並び方、配列を結晶構造というの」

「並び方?配列?」


 剣人は頭がこんがらがってきた。千剣破は知っていた。これは剣人の目がぐるぐるナルトになる直前の状態だと。もしそうなってしまうと待っているのは剣人の思考放棄である。

 そこで千剣破はわかりやすく噛み砕いた説明をはじめた。


「剣人。剣人はブロック遊び好きでしょ?」

「うん!もっちろん!」

「じゃあね。炭素の粒をレゴブロックと考えてみて?」

「わかった!」

「ひとつひとつのブロックを向きをちゃんとそろえて、きれいに積み上げるのを想像してみて?」

「したした!いつもやってるからすぐ想像できるよ!」

「ブロック同士がきれいに、しっかりと組み付いていれば、形がしっかりとして丈夫になるわよね?」

「うん!」

「例えばお城になるわね?この場合、お城が結晶なの」

「なるほどお!」

「ダイヤモンドはブロックを頑丈な立体構造に積み上げた形なの」

「頑丈で形が整ってるんだね?」


 剣人は立方体などわからない用語はたくさんあった。しかし頑丈で形が整っているというイメージはとても良くわかった。


「そしてね……、次は鉛筆の芯。鉛筆の芯はブロックを薄く平らに並べて板を作るのを思い浮かべて?」

「うん!」

「その板をね……、ただ重ねるの」

「ええ?組み合わせずに重ねたら滑っちゃうよ?」

「そのとおり!さすが剣人だわ」

「えへへへ」

 

「滑ってしまう。層がすぐ剥がれる。でもだからいいのよ」

「えー?はがれちゃダメじゃん」

「はがれないと紙に残らないのよ。字を書くたびに削れていく。だから崩れた墨、炭素の粒が紙に残るの。墨はバラバラのブロックね」

 

「なるほど!同じブロックでもくっつけ方によってお城になったり、板になったり、バラバラになったりするんだね!わかるよ!ボク、わかるよ!」

「さすが剣人だわ。お母さんの誇りよ」

「えへへへ」


 剣人、すっかり千剣破に乗せられている。さすがチョロ剣人。

 

「それでね。話を戻すと、ダイヤモンドは安定した状態ではとても硬いわ?」

「うん!カチカチだよね!」

「でもね。圧力をかけずに熱をかけちゃうと結晶が崩れるの。一番楽になれる形、黒鉛グラファイトになっちゃうのよ」

「なるほどお!よく鍛冶屋さんが「これは良い素材じゃが扱いが難しい」っていうのはそういうことなんだ!」

「さすが剣人!その通りよ」


 剣人ワールドの中で結晶構造の理解が定着した瞬間であった。


 ――――――


『うむ。よくはわからぬが、固まりやすさがあるのじゃな?』

「うん!ボク、朝日がキラキラするのを見てその話を思い出したんだ」

『なるほどのお』

「それでね。剣気を構成するつぶつぶが、きれいに順序よく並んでる様子をイメージしたの」

『うむ!』

 

「一番キチキチに並んでる状態を六方最密充填構造っていうんだって?」

『なるほどのう。で、それはどんな形なのじゃ?』

「それはボクにも分からない。でもきっと粒がすき間なくギチギチに詰め込まれた状態なんだ。でも無理やりじゃなく、きちんときれいに繋がってる状態なんだ」

『なるほどのう』

 

「それでボク、剣気の粒同士がしっかり手をつなぎあって、すごく近くに隣同士になって、場合によってはちょっとズレて。でもちゃんと結び付き合ってるような……、そんな感じをイメージしたんだ」

『うむ!』

「そしたらなんと!ホントに剣気の結晶が出来たんだよ!」

『剣奈の才能はとどまるところを知らぬのう!』

「えへへへ。すごいっしょ?」

『…………』


 来国光は唖然とした。言葉も出なかった。本気の感嘆であった。

 (ことわり)を言葉で説明できるのは素晴らしいことである。それができるだけで常人とは一線を画する。

 

 しかしである。剣奈は理をつかみ、その瞬間に誰も成し遂げたことのない途方もないことを成し遂げたのである。

 

 剣気の……、霊脈気の結晶化。それは夢の産物であった。それができれば素晴らしい。

 しかし剣気は流れる水のようなものである。固めるなど不可能。誰もがそう思っていた。それが常識であった。

 

 剣奈は今……、常識を打ち破ったのである。


 ドヤ顔の剣奈であった。朝日にキラキラ輝くその小憎たらしい顔。しかし来国光はその顔をとても愛おしく、そして誇らしく思い見惚れていた。

 

(ワシは剣奈を絶対手放すまいぞ!オメガバース?よくわからぬ。しかし我々はそうらしい。オメガバース……。何度も唱えてみれば確かにしっくりなじむ気がする……)

 

「オメガバース」。来国光はその言葉をしっかりと深く心に刻むのだった。


 ――カチリ。ナニカの音が世界に響いたようだ。

 バッドエンドルート「憤怒した千剣破に来国光が折られるエンド」の分岐が発生しました。

 ?えっ!これまずくね!?


 世界の滅亡危機が発生した。来国光はそのことにまるで気づいていない。

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