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153 切り開け!九尾の闇を裂く糸口を 霊脈気 神気と剣気の正体

――時間は少しさかのぼる。

 

 巨蛸との死闘を経て、剣奈たちは鶴甲大学マリンサイトに戻っていた。その晩、剣奈、玲奈、藤倉、山木は皆で港近くの漁師めし屋に夕食に出かけた。


「やった!今日の晩ごはん、生しらす丼があるよ!大盛!ボク、大盛ね」


 剣奈はメニューを見て、大きな声をあげた。相変わらずの食いしん坊である。死の淵に追いやられたのはもうすっかり剣奈の頭にはないようだ。

 さて、淡路島名物の生しらす丼は、キラキラとした新鮮なシラスが、これでもかとご飯の上に山と盛られている。そして黄身と薬味でふんわりと仕上げられ、醤油がかけられている。剣奈は生しらす丼の説明を眺め、瞳をキラキラと輝かせていた。

 

「俺のオススメは鯛の卵かけご飯だな。タイの切り身に淡路卵、それにだし醤油。うまいぞ」藤倉が得意顔で言った。

「アタイはタコ天丼にするわ。淡路のタコは絶品だからな!」と玲奈は即決した。

「僕は海鮮丼にしようかな。瀬戸内の鯛、ハマチ、サワラ、いくら。なんとも豪華だよ」山木が嬉しそうに注文した。


 ほどなくして皆の料理が到着した。


「いっただきまーす!」


 到着した大盛のしらす丼を見て剣奈は笑顔を輝かせた。生シラスのうま味が剣奈の口いっぱいに広がった。サイドメニューで頼んだ鯛の刺身やタコ天も平らげた。海の幸をもりもり食べて幸せそうな剣奈である。


「おいひい!」


 剣奈は大満足でその日の夕食を終えた。

 

 マリンサイトに帰着したあと玲奈が藤倉に向かっていった。


「藤倉ここに来い!」

 

 夕食後、マリンサイトに戻った藤倉は玲奈に呼び出された(130話)。


「正座!」

「なっ!」

「頭を、いや、その汚らしい股間を冷やしやがれ!」

「確かに俺も反省すべき点はあると思う。しかしこれは本能であって、頭の中だけで完結してるわけで……」

「ほざけ。汚らしいもんおっ立てやがって。何きれいごと抜かしてやがる」

「いや、でも自然の反応だし」

「どうしたの?」剣奈がひょっこり顔を出した。

「大人の反省会さ。子どもはあっち行ってな!」

「ちぇっ。はーい」

「け、剣奈ちゃ……」


 部屋を追い出された剣奈はしぶしぶと部屋に戻った。


「まったくもう。玲奈姉もお母さんもすぐにボクを子ども扱いするんだから。ぷんぷん」

『なにか大人の話し合いがあるのじゃろう。大事なことならあとで向こうから言ってくるじゃろうて』

「そうかもしれないけどさぁ。なんか仲間はずれにされてるような気もしていやなんだよ」


 来国光はわかっていた。藤倉が剣奈に劣情を抱いてしまったのでこれから玲奈にお仕置きを食らうのだと。そんなことは劣情を抱かれた当の剣奈に言うわけにはいかない。そもそも剣奈にそれを言ったところで理解できないだろう。そこで来国光は剣奈の意識を別に向けることにした。


『そういえば身体はどうなのじゃ?疲れてはおらぬか?』

「ううん。いつもの通りだよ。地脈を浄化する乙女舞の後はむしろ闘いの前よりもエネルギーが充実してる感じ」

『なるほどのぉ。ご加護いただいた神気が満ち満ちているのだろうのう』

「あーこの溢れるエネルギーを溜めておいて使えればいいのになぁ」

『そうじゃのう。それができればのう……』


 来国光はため息をついた。まさにそう。その通りなのである。実にもったいないと来国光自身も思ってはいた。

 

 浄化や闘いで使われなかった神気や剣気はどうなるか?それは静かに剣奈の身体から離れる。そして大地に還り地脈エネルギーとして循環されてゆくのである。

 神気とは何か。それは神々が持つ根源的な力であり、天地自然や万物の運行を支える聖なるエネルギー、「霊脈気」である。星を存在させる星命エネルギーとして地脈に満ち満ちているのも霊脈気である。邪気はまさにこの霊脈気を食らう存在なのである。

 

 霊脈気は山や川、木や石といった自然のあらゆる存在に満ちている。目には見えないが命や恵みを循環させる源となっているのである。

 神気は霊脈気をもととして神々がさらに神々しく変換させたエネルギーである。来国光の剣気ももとは霊脈気である。来国光は自然界に漂う霊脈気を取り込み、自らの存在エネルギーに変換しているのである。

 すなわち神気と剣気、それはほぼ同質のものである。いずれも霊脈気をもととする類似エネルギーなのである。

 

 剣奈が地脈を浄化する乙女舞の神事で神々から神気のご加護をいただく。それが剣奈の身体に満ちる剣気と反発しあわないのはこの理由による。

 また剣気の枯渇により来国光の存在が消えかかった時、来国光が復活できたのは、神々からのご加護による神気が剣気に変換されたからである。


 神気や剣気はもともと人の手に余る力である。神気や剣気の器、霊脈気の器として神々によって作り変えられた剣奈の身体である。しかし剣気や神気が過剰になると器に負担がかかる。

 風船と空気を考えるとよくわかる。風船は多くの空気を飲み込める器である。しかしあまりに多くの空気を風船に入れれば、空気は風船を破裂させてしまう。

 限度以上の量の霊脈気が長く人の身にとどまると身体への負担が大きい。身体にとって毒になってしまうのである。

 そのため身体の機構として過剰な霊脈気は徐々に大気に排出される。放出された霊脈気は世界にとって養分になる。霊脈気は良質で清らかなエネルギーである。地脈エネルギー、地力と親和性が極めて高い。

 剣奈が無意識に放出した霊脈気は土や木々を潤し、その地を豊かに育んでいくのである。

 

 来国光は思った。それが自然の摂理であろうと。それが霊脈気の器たる巫女の役割の一つであろうと。古から神々が育んできた自然の摂理なのだろうと。

 来国光は霊脈気を長く体内に止めることができないことを、納得していた。


「そっかぁ」

『うむ』

「えっっちょっとまて!」

『なんじゃ?』

「ボク、アニメとかゲームとかで知ってる方法がもしかしたら使えるかもしれない」

『なんじゃと?』


 剣奈は幼いころからやりこんだゲームや母と見たアニメを思い出していた。とあるゲームで主人公が剣や鎧を使い込むと、素材屋がその装備から結晶をとりだすことができるのである。冒険や闘いを通じて蓄積された力を、目に見える結晶アイテムに変換するのである。


 剣奈の頭にエネルギーの塊のイメージが湧き上がった。「魔法の珠」、「自然界の力を具現化したオーブ」、「属性エネルギーを結晶化したアイテム」、「魔法力の結晶」、「自然界のコア」、「魔素のストック」、「クリスタルな石」などである。これらが次々と剣奈の頭に思い浮かんだ。


「ふわふわとしたエネルギー体だから漏れちゃうんだよ!結晶化したらいいんだよ!それをクニちゃのお部屋に入れておけばいいんだよ!」


 神気や剣気を結晶化する。来国光の発想には全くなかったことである。あいからわらずの「剣人ワールド」、「剣人語」である。剣奈が何を言っているのか、その言葉は全然わからなかった来国光である。

 しかしさすが「剣奈検定特級」のスペシャリスト来国光である。剣奈の言わんとしている内容はしっかりと理解したのである。


 来国光は思った。


(地脈はどろどろとしたエネルギーの塊じゃ。それが地表に出て大地となり固定化される。であるならば。神気や剣気も固定化することができるのではないか?)

 

 来国光は改めて剣奈の天賦の発想力のすごさに瞠目した。


『なるほどの。試してみる価値はありそうじゃ』

「でしょでしょ!修行しよ!」


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