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145 砕かれし暗黒核 大人の山木 妄想の藤倉 奇跡の玲奈

「山木先生、俺は残念です」


 剣奈と玲奈が幽世に旅立つのを見送った藤倉が無念を噛み締めながら山木に言った。山木は自分の臆病が藤倉の足を引っ張ったことを申し訳なく思った。そして少しでも藤倉を元気づけようと思った。


「藤倉くん。剣奈ちゃんは神がかりな力を持った戦闘巫女だ。牛城さんは不思議な目を持っている。二人の足を引っ張らずに存分に闘わせてあげる。それもまた大人の男。男の甲斐性だと私は思うのだよ」

「ええ。まあ」

「しかしそんな二人も完璧ではない。剣奈ちゃんは正義感と武力に突出しすぎている。社会性と常識にかけるところがある。牛城さんは剣奈ちゃんを守る意識が強すぎる。あまりに余裕がない。狭量と言える。意固地だ」

「そうですね」

「我々は大人だ。そんな二人を否定せず、大らかに見守る姿勢が大切ではないか?そう思うのだよ」

「はぁ。まあその通りです」

「一方で我々しか出来んこともたくさんあると思うのだよ。例えば我々が学び、蓄えてきた知識。その最たるものだ。そして彼女らの心の平安と安寧をもたらす。それもまた大人たる我々の役割ではないかね?藤倉くん、想像してみたまえ。輝く海を船で疾走する。君と剣奈ちゃんが並んで夕陽を見ながら語り合う。実に楽しみじゃないかね?」


 藤倉はドキリとした。それは、美味しすぎると。

 

 藤倉は妄想した。闘い疲れた剣奈が藤倉の肩に頭を乗せるのを。そして激しかった闘いのことを藤倉にポツリポツリと話すのを。海に沈む夕陽を眺めながら疲れた剣奈の肩をそっと抱くのを!

 

(俺は留守番していたのだ。流石に牛城さんもそれくらいは許してくれるだろう)

 

 そもそもだ。よく考えてみると、危険な闘いなしにあの神々しい乙女舞を見ることができるのだ。剣奈も約束してくれた。乙女舞を終えた神々しくも艶やかな剣奈を独り占めできるのだ。それはそれで美味しいのではないかと。

 

 藤倉は思った。

 

(闘いの時に俺は何してた?黒犬に追われてバイクで逃げ回っていただけじゃないか?それで黒狸を引っ張り出して剣奈に迷惑をかけたじゃないか。巨猪の時は遠く離れていた。闘いの詳細はあまり見えなかった)


(あれ?現世で待っててもあまり変わらなくないか?いや、むしろ安全地帯にいれて美味しいところだけ味わえるじゃないか!)


 藤倉はあまりに身勝手なことを考えた!そして口を開いた。


「山木先生。俺は意地になってました。よくよく考えれば戦闘の時に役に立った記憶がありません。我々は戦闘の時は足を引っ張らずにいるべきなのかもしれません。そして疲れた剣奈ちゃんを、いや牛城さんも含めて、闘った彼女たちを癒すのが大人としての我々の役目なのかもしれません。剣奈ちゃんにとっては折角の夏休みです。船に乗ったり、夕陽を眺めたり、バーベキューしたり、美味しいものを食べたり、花火したり。闘い以外の思い出も一緒に作らないと」

「そうだね。そうしよう。まずは彼女たちの思い出づくりと癒しのために船を出そうじゃないか。なんなら延泊できないか聞いてみよう。藤倉君は今後はどんな予定かね?」


 …………


 剣奈と玲奈は風の吹き荒ぶ幽世の海岸にいた。不穏な雰囲気が漂っていた。禍々しい気が大気に満ちていた。剣奈は藤倉と山木を連れて来なくてよかったと思った。

 玲奈は左足にLCP IIと弾倉を装着した。左足装備の剣気弾は計二十発である。さらに右足にワルサーP38と弾倉を装着した。右足装備の剣気弾が合計二十四発。左脇にはM92Fと弾倉を装着した。左脇装備が四十四発である。最後に右脇にフル装填のLCP IIを装着した。全装備の剣気弾合計が九十八発である。過去の闘いから考えても十分な弾数である。念のために残りの剣気弾二発もミニチャック袋に入れてポケットに突っ込んだ。

 

 玲奈は闘い抜くために藤倉と山木の全装備を取り上げた。そしてそれらを全て装着したのである。


 「流石に重めぇな。ちゃんと筋トレしねぇとな」玲奈は体を鍛える決意をした。


『来るぞ。北じゃ』


 来国光が警告した。北に十の黒い塊が見えた。黒猿だった。黒震獣猿は雁行陣で迫ってきた。雁行陣の先端四匹はダイヤモンド型の陣形をとっていた。

 玲奈には見えた。黒猿の中にひときわ禍々しく(よど)む塊を。黒いオーラを放つ塊を。玲奈はM92Fを構えた。

 

 バシュ、バシュ、バシュ


 ブローバックの間隔を開けて三発の剣気弾が撃たれた。一発目は黒猿の毛皮と身を削った。二発目は邪気の暗黒核に食い込んだ。そして三発目。


 バキン

 シュン


 見事に暗黒核を爆裂させた。先頭の黒猿が消滅した。残九匹。


「玲奈姉すごい!黒震獣をやっつけた!?」


 剣奈が興奮して叫んだ。来国光は瞠目した。剣気を蓄えた巫女ではない「タダビト」が黒震獣を滅したのである。滅したのが剣奈の気を込めた剣気弾だったとしても……

 

 来国光は思った。

 

(いや、玲奈は牛女の魂を持つ存在。人の見えぬものを見通す(たぐい)ならざる目を持つ彼女もまた「マレビト」か)


 その時、


 バシュ、バシュ、バシュ


 再び三発の銃声が響いた。右最前列の黒猿が消滅した。


 バシュ、バシュ、バシュ


 左最前列の黒猿も消えた。二匹の黒猿が消滅した。残七匹。

 

 ここにきて黒猿は玲奈への警戒を高めた。これまで剣奈にだけに向けていた意識を、玲奈に移した。

 

「ん♡」


 ヒュン

 シュン


 樋鳴りの音が鋭く響いた。剣奈は跳んでいた。抜刀左逆袈裟斬りの刃閃がきらめいた。左先頭の黒猿は跳躍した剣奈の抜刀斬りで黒塵と消えた。残六匹。

 

 「ん♡」

 タッ


 剣奈は着地した右足を踏ん張り跳躍した。左足は曲げられ右足から右手はスラリと一直線に伸びた。そして伸びた右手の先には黒猿。


 ヒュッ

 シュン


 刺突。中央にいた黒猿は胴体を貫かれ消滅した。残五匹。


 十匹いた黒猿はあっという間に半数に数を減らしていた。黒猿は一旦後退して一塊になった。そして群れを二つに分けて迫ってきた。前方の剣奈には三匹。後方の玲奈には二匹。


 玲奈に向かった二匹は右から大回りに迂回して猛スピードで駆けてきた。二匹の黒猿が玲奈に迫る。

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