143 玲奈のWALTHER P38 おじ&頂き女子 三宮を闊歩す (フォトあり)
翌々日、剣奈たちは朝食後、マリンサイトをチェックアウトした。荷物は山木の車に積み込んだ。車はマリンサイトの駐車場に止めておいた。本日は淡路島南東部の諭鶴羽山地に向かう予定である。
昨日全員、それぞれ自由行動をとった。昨日朝、剣奈は諭鶴羽山地の邪気退治をする気満々だった。
しかし玲奈。
「テメェは今日くたばりかけたんだ。明日は闘いは許さねぇ。休養日だっ!」
すごい剣幕で怒られた。しかたなく言われた通り休息日にした。やることがなくて暇だったので来国光と新たな必殺技について熱く語り合った。
山木は自分の身は自分で守らなければとの強い意志が芽生えた。藤倉から借りた魔改造した東京マルイ製のプロターゲットを使って部屋で一日射撃訓練にいそしんだ。
周りから見れば、いい歳した教授が突然ガスガン(LCP II)を持って必死の形相でひたすら的あてをしているのである。あやしさ満点である。明らかに変である。
周りが山木のその姿を見て眉をひそめた。そして囁き合った。ひそひそとささやかれるうわさ話。
「そういえば山木先生、学生への「合理的配慮」の提供でずいぶん悩まれてたみたいよ?」
「ああ、難しいわよね」
「そうそう。どこまで学生の言い分を聞くのか。公平性はどうするのか。ずいぶん悩んでたみたいよ?」
「私はゼミの学生が卒論をさぼってたくせに、「卒業できなければせっかくの内定が流れてしまう。後生だからなんでもしますから単位をください」って体育会の男の子に泣きつかれてるのを見たわよ」
「そんなことを言うならはじめから授業に出ればいいのにね。明らかに計画的犯行じゃない?」
「どうして必死になって頼めば何とかしてくれるって思うのかしら?ただのさぼりじゃない」
「でも山木先生まじめだから……学生問題で相当ストレスがかかっているのでしょうね。だからあんなおもちゃにのめりこんで……。お気の毒に……」
通常であれば。それを聞いた山木は照れながら話に加わったであろう。今日の山木は違った。あまりに必死であった。必死すぎて……全然耳に入っていなかった。
後日……、まわりの職員がやけに山木に優しく声をかけるようになった。(なぜそんなに優しくしてくれる?)首をひねる山木であった。
玲奈は藤倉を連れて(財布係にして)三宮に出かけた。玲奈が「これじゃだめだ。もっと威力のある銃がいい」と藤倉に詰め寄ったからである。
「銃の威力は関係ないよ。剣奈ちゃんの剣気がこもってれば弾の威力がなくても黒震獣は嫌がるからね」藤倉は諭した。
「テメェはそれでいいだろう。でもアタシはもっと剣奈の手助けをする方法をみつけたんだ。四の五の言わずにさっさとアタシにもっといい銃をよこしなっ!」
こうして玲奈は藤倉を強引に連れ出したのである。藤倉はガスの消費を考えるともっとガスボンベを追加購入する必要があると考えていた。そして実際、黒巨猪討伐で玲奈がいなければ自分たちが全員惨殺されていたこともわかっていた。そこで玲奈に言われるままアッシー&ミツグ君になったのである。
藤倉と玲奈は三宮と元町のホビーショップを回った。十代後半の玲奈、五十路の藤倉。あからさまにPJ(パパ活女子)に見える玲奈。まわりは眉をひそめて「おじ&頂き女子」カップルを胡散臭げに見つめた。そして囁き合った。
「見て、あの「おじ&頂き女子」カプ……カモられてるし」
「あのオジ、チョロそう。金巻き上げられてるわよね」
「お金でしか若い子に相手されないタイプね、ああいうの」
「私も次にカモろうかしら」
玲奈はさえずる女子をじろりとにらんだ。
「睨まれちゃった。ライバル扱いされた?」
「はいはい。そっちはあんたの「定位置」ってやつね?」
「必死すぎて笑う。自分だけの金ヅル守りたいって?」
トアロード女子らは頂き女子玲奈と藤倉を揶揄し続けた。そして足早に遠ざかっていった。
玲奈と藤倉は様々な「ミリタリーショップ」、「エアガンショップ」を巡った。そしてさまざまなガスガンを手に取った。重さ。威力。扱いやすさ。様々な観点から手に取り、試していった。
最終的に玲奈はマルゼン製のワルサー P38と替えの十二連スペアマガジンを購入した。マルゼンのワルサー P38は全長二百十五mm、重さ七百二十g。女性の玲奈にもギリギリ扱いやすい重さ・大きさである。
ワルサー P38の初速は七十m/sであり威力は 0.5Jである。LCP IIは初速五十三m/s、 威力は0.28Jである。実際に撃った感覚とターゲットに当たったときの威力がまるで違った。
LCP IIはパシュ、パシュと軽快に的に飛んでいく感じである。一方ワルサーP38はバシュ、バシュと的に突き刺さる感じなのである。
(これなら確実に剣奈の手助けになる)玲奈は確信を持った。
玲奈は藤倉を顎でしゃくりながらマガジンを装着できるホルスターを二つ買わせた。左足のホルスターにはLCP IIと予備マガジンを装着する。右足のホルスターにはワルサーP38と予備マガジンを装着するのである。これで剣気弾を合計四十四発所持できるようになる。
◆剣巫女 ワルサーP38 マルゼン
藤倉は対抗するように東京マルイのM92Fを購入した。藤倉の選んだホルスターはショルダータイプである。左わきにM92Fと予備マガジン、右わきにLCP IIを装着した。M92Fはフル装填で二十二発である。藤倉はM92Fが四十四発、LCP IIを二十発、合計六十四発の剣気弾を撃てることになる。
玲奈より二十発多い。剣奈の小さな手での一握りがBB弾五十発である。藤倉、明らかに欲張りすぎである。
◆剣巫女 M92F 東京マルイ
その夜、剣奈は二回、合計百発の弾に剣気を込めた。あと一回剣気を込めようとして、剣奈は来国光との結紐が細くなっているような気がした。
「ごめんなさい。ボク……、今日クニちゃと修行してさ。その修行で剣気をけっこう使っちゃったんだ……」
「そうなんだ」
「うん。今のでクニちゃとの繋がりの紐が細くなった気がして……。剣気なくなっちゃうとクニちゃ消えちゃうからさ。少なくてごめんなさい……」
剣奈が申し訳なさそうに言った。
ドゴォ!
玲奈の回し蹴りが藤倉の尻にヒットした。
「テメエ、役に立たねぇくせに弾使いすぎなんだよ。剣奈の弾込めは百発まで!アタイが四十四発。山木先生が二十発。藤倉っ、テメエは三十六発だ」
「そっ……」
藤倉はショボンとうなだれた。そして自分の銃に弾を込めた。使いやすいLCP IIと予備マガジンにそれぞれ十発で計二十発。残り十六発をM92Fに込めた。M92Fの予備マガジンは込める弾がなく、空のままだった。
玲奈の言うことはもっともなのである。藤倉の撃つ剣気弾は黒犬を怯ませる効果しかない。藤倉は玲奈のように連発してダメージを与えられるかとも思った。しかしその効果は未知数である。
――いや、無理である。玲奈には敵の弱点が見えているからあんな芸当が可能になったのである。弱点に集中的にあてるからこそである。
さすが頭のいい藤倉である。すぐにそのことを思い至った。
(ハッ!牛城さんは戦力になる!俺や山木先生のように怯ませて逃げ回るだけではない!ひょっとすると牛城さんは黒犬を消滅させられる可能性はないか?)
藤倉は玲奈を見つめた。それが嫉妬なのか、期待なのか、羨望なのか、藤倉にもわかっていない。
ドゴォ!
玲奈の回し蹴りが再び藤倉の尻にヒットした。
「テメェ、なに睨んでやがる。きめぇんだよ。役に立たねぇくせに欲張ってんじゃねぇ!」
――玲奈、それ……誤解。まぁ玲奈には藤倉の考えは読めないので仕方ないか……
来国光は誤解された藤倉に憐憫の思いを描いた。そして改めて知恵袋としての藤倉の有用性を強く思った。
一方藤倉は戦力になれない自分のふがいなさを改めて思い知らされた。肩を落としてしょんぼりする藤倉であった。