141 先山の邪気退治 剣巫女 祈りと浄化の乙女舞を奉納す
『さてと。そろそろ巫女舞の神事を行おうかの。聖なる先山に巣食う邪気を滅しようぞ!剣奈参ろうぞ!』来国光が呼びかけた。
「うん!」剣奈が元気よく返事した。
「テメエ剣気使い果たしてぶっ倒れたんじゃなかったのか。無理すんな」玲奈が心配そうに剣奈を見つめた。
玲奈の眼には見えていた。剣奈が神気満タンで光り輝く様子が。玲奈の人の見えざるものを見通す瞳には……ありありとそれが映っていた。
しかし。玲奈は思った。
(コイツ、ちょっと前に剣気が枯渇してやがったよな。アタイは冷たくなっていくコイツをアタイのももはしっかり感じてた……はず……)
剣奈は今、元気そうに見える。しかし……病み上がりのようなものである。玲奈は強く思った。
(無理はさせたくない)
玲奈は剣奈をいたわった。
「玲奈姉ありがとう。でもボク、すっかり元気だよ。ほらっ」剣奈が元気よく言った。
剣奈はその場で跳び上がった。そして空中で背中を弓なりにそらせた。そのまま華麗なバック宙を決めた。
玲奈はあきれた。その気になった剣奈をとめるのは無理だと判断した。そして口を開いた。
「かーっ。若けぇってのはうらやましいもんだぜ。アタイにも半分くらいその元気を分けてほしいよ」玲奈が冗談めかして言った。
「うん!」
剣奈は元気よく返事した。そして玲奈の手を握った。
剣奈は繋いだ手を大きく振りながら山道を歩いて行った。やがて剣奈たちは先山の山頂にたどり着いた。茫洋と美しく、蒼い大阪湾が広がっていた。
剣奈は思った……
(浄化された芝右衛門の念は奥さんに会うことができただろうか?浄化された猪は再び仏様に戻れただろうか?)
剣奈はしみじみ考えた。目を固くぎゅっとつむった。そして眉根を下げてしばし黙祷した。
剣奈は服を脱いだ。上半身裸になった。藤倉と山木は玲奈に睨まれてあわてて回れ右をした。
剣奈は背中からペットボトルを取り出した。上半身裸の肌が、瑞々しく陽に輝いた。傷跡はどこにもなかった……
剣奈は来国光と自らを清めた。タオルで来国光と自らを拭った。そして新しい服を身につけた。
それから剣奈は四方拝を行った。そして跪いて大地に深く敬意を払った。
伝承は言う。ここが日本列島の始まりの地であると。この世を……、大地を……、我々を……、産み育んでくださった全ての大神。剣奈は深く頭を地面につけ、神々に感謝の念を捧げた。
そして祈った。
(狸さんと猪さん、そして全ての魂が……邪気のくびきから解き放たれますように……。みんなで幸せに仲良く暮らせる世の中になりますように)
そんな願いも込めて祈りを捧げた。
剣奈は立ち上がった。来国光を頭上に掲げた。そして緩やかに舞い始めた。旋舞だった。ゆるやかな旋舞だった。
来国光は頭上から徐々にらせんを描いて大地まで下げられた。剣奈の舞いにより、その場がどんどん清められるのを玲奈は見た。
来国光が大地まで下げられた。すると、剣奈は小刻みに虚空を斬り始めた。その場のすべての邪気が浄化された。
剣奈は両膝をついた。そして来国光を地中深く突き立てた。瞳を閉じた。しばし黙祷をささげた。
この地の産土の大神たち。国づくりを行った伊弉諾命と伊弉冉命。伊弉冉命は黄泉津大神として剣奈を黄泉から連れ出してくれた。そしてこの地の綿津見命。岩戸神社の天照大神。癒しの神。荒ぶる神。地震の神。山の神。火山の神。そして祓戸の神様がたにことわけて深く祈りと感謝をささげた。
剣奈は瞳を開いた。そして祝詞を奏上し始めた。
掛けまくも綾に畏き天土に
神鎮り坐す
最も尊き 大神達
ことわけて
伊弉諾尊
伊弉冉尊
綿津見命
大日霊命
少彦名命
素戔嗚尊
武甕槌命
大山祇命
迦具土命
瀬織津比売命
速開都比売命
気吹戸主命
速佐須良比売命
の大前に
慎み敬い 恐み恐み白さく
今し大前に参集侍れるものどもは
高き尊き御恵みをかがふりまつりて
辱み奉り尊み奉るを以って
今日を良き日と択定めて、
禍事の限を
祓清めむと、
根の国、地のもとに持ち込まれたる
諸々の禍事・罪・穢・邪の気、有らんおば、
持ち去りて
祓ひ給ひ 清め給えと白すことを、
聞こしめせと
恐み恐み白す
剣奈が白黄の輝きに包まれた。地面からも白黄の輝きが放出された。
剣奈は来国光を地面から抜いた。そして両ひざをついた。先山に上半身を伏せて、深々とお辞儀をした。
剣奈は立ち上がった。そして少し歩いた。リュックをもって。山頂から少し外れたところにたどり着くと、剣奈はリュックからペットボトルを取り出した。水を来国光に注ぎかけて、布で丁寧に来国光を拭いた。そして来国光を鞘に収めた。
(この聖なる地に住み着いた邪気。ボクはちゃんとそいつらを滅せられただろうか……そうならいいな。そうあってほしいな……)
剣奈は柔らかく微笑んだ。
風は柔らかく剣奈を暖かく包んでいた……
【第七章 おのころの島 完】
――――
こんにちは夏風です。苦闘の先山の邪気退治、ようやく終わりました。ものすごい死闘でした。剣奈……お疲れ様です。
本話を持ちまして「第七章 おのころの島」完となります。いや、淡路島編、まだつづくんですけどね……ちょっと次のラスボスがとんでもないので……今時点でも161話まで行っちゃってるんですよ…… なので、ちょっと長さ調整です。
「第七章 おのころの島:淡路島北部・中部」
「第八章 鳴門海峡の封印:淡路島南部」
としました。
先山を平定(?)ん?浄化か?したところで第七章完となります。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。また引き続き、なにとぞよろしくお願いいたします。
先山で死をくぐり抜けた剣奈です……
よろしければ剣奈ちゃんの死闘をたたえて、★★★などいただけましたら剣奈……舞い踊ります (あ、いや夏風か……w)
あ、それと、剣奈シリーズもいつの間にかたくさん書いてます。ぜひそちらもお読みくださったら幸いです。
さて、更新頻度についてです。本作、2025年のGWから開始いたしまして、これまでずっと毎日更新してまいりました。そしていつの間にやら141話。
ちょっと一区切りの本話にて更新頻度を考えなおしてみようかと……
水曜日、土曜日、日曜日。
ひょっとすると 水曜日、金曜日、土曜日、日曜日がいいのかな?
にしてみようかなと思います。
休日は読んでいただけることを願って公開日とするかもしれませぬ。
これから剣奈は淡路島南部へ。地脈の関係から、北部と中部がクライマックスか、と思いきや、まさかの南部にラスボスです。
ぜひ今後とも、本編・本作『剣に見込まれヒーローに(♀)乙女の舞いで地脈を正します』(剣巫女)、そして剣奈シリーズ、ご愛顧くださいますよう、伏してお願い申し上げます。
2025年9月9日 夏風