131 バーガー仲間?迷う学者と黒い本音 勇気ある別行動とは
「正直言って私は迷っている」
山木が切り出した。山木は思った。山木が藤倉の提案を受けた時に考えていたのは気軽な研究会だった。そのはずだった。まさかこれほど命がけとは思っていなかった。たとえ自分が銃を与えられたとしても、この歳になって自分が闘えるとは思えなかった。しかもあの銃は敵を怯ませるだけなのである。
「はっ。怖気づいたんならこっちで待ってりゃいいだろ」
玲奈が吐き捨てた。山木は考えた。その通りだ。確かにその通りではあるのだと。しかしそれだと私は何をしにここにいるのか。ただの地質説明係、そして宿泊予約代行係ではないか。
(いやいや、よくよく考えてみよう。ひょっとして自分は地球科学理論を大きく変える節目に立っているのではないか?もうすぐ退官だとしても、こんな大きなファクトファインディングを逃してしまっていいものか)
――さすが学者は研究バカである。文系理系の違いはあれ、命の危険と学術的成果、それを天秤にかけた。そして結局山木は藤倉と似たような結論にたどり着いたのである。命はいいのか!?いや、カッコいいこと言って藤倉は鼻水垂らして逃げてたっけ……。山木先生……大丈夫??そして山木先生はなにやらカッコいいことを言い出したっ!
「そうさ。怖いさ……。怖い。私は怖気づいてるよ。でもね。それ以上に心が高揚しているんだ。この年齢になってって笑うだろう?でもね。どうしようもなく心が沸き立つんだよ。学者のロマン?男のロマン?この歳になっても私は男なんだね。だから参加したい。でも。だからこそ。どうすれば剣奈ちゃんの足を引っ張らずに、剣奈ちゃんの役に立つことができるか。そこを悩んでるんだ」
――さすが大人である。山木先生うまいこと言い換えた!「命は惜しいけど、大発見には立ち会いたい」。それが山木の本音である。醜い大人の本音である。真っ黒な本音である。
しかしそのまま口に出してしまえば、ただ自分勝手なだけである。剣奈たちにとって何の役にも立たない。ただの野次馬野郎である。それだと玲奈のいうとおり、説明など役に立つことだけをやれ。その後は安全な現世で待ってろということになる。
山木は考えた。彼女らにとってはそれが最善だろう。しかしそれでは自分は一番大事なところを目の当たりにできない。学者としてそれは見過ごすことのできないことだった。
「ならLCP II買えばいいだろ。三宮に行けばすぐ手に入るさ。往復二~三時間もありゃあ余裕だろ?おい剣奈。あと二十発余計に剣気を込めれる余力はあるか?」玲奈が聞いた。
「うん。寝る前だったら大丈夫。昨日弾にMP込めたけど、今朝にはちゃんとMP回復してたと思うから」
――ゲームのように剣気ゲージがあるわけでも何でもないのである。剣奈には剣気の残量はさっぱりわからない。なにやら剣奈の頭では剣気=MP変換されているようだが……まあそれは剣人ワールドなのでよかろう。ただややこしいので基本的に地の文では剣気と統一しよう。
剣奈は考えた。剣気が減ってきたら結紐が細くなると来国光は言っていた。思い返してみると、今日の戦闘のあと、結紐がちょっと細くなっていた気がする。しかし巫女舞をやれば不思議と身体は回復する。そして剣気も補充されてる気がするのだ。なぜだろう。不思議である。
不思議なことではあるのだが、闘い終わって、乙女舞の神事を行えば身体は回復するのである。剣気も満タン以上に補充されるのである。
剣奈の感覚では今は剣気百二十%である。今晩BB弾に剣気を込めるのは全く問題ない。そして今晩剣気を使ったとしても、一晩寝れば自然回復で剣気は満タンになるのである。
剣奈はそう考えて先の答えを返したのである。考えていないようで意外と考えていた剣奈であった。
「なら決まりだ。まだ夕方だから今から行けば間に合うんじゃねぇの?さっさと三宮に行きやがれ」玲奈が言った。
「俺が買いに行ってきます」
藤倉が立ち上がった。先ほどの反省も込めてなるべくパーティに役立つことはやろうと藤倉は考えた。玲奈が怖くてこの場にいたくなかったわけでは全くない。男だもの。そんなことは全くない。本当だ!
藤倉は颯爽と立ち上がって部屋を出ていった。山木は返事をするタイミングを逸してなし崩し的に同意するのだった。
「すまんの、藤倉君」
「さて、順番から言えば次は真ん中か?」玲奈が尋ねた。
「そうだね。昨日の話だと明日は先山になるかな。今日ヘルメットを買いに行った場所からそう遠くない場所だよ」山木が答えた。
「ならいったん休憩しようぜ。そして藤倉が帰ってきたらまた作戦会議だ。剣奈、腹減ったろ?お姉さんにおごらせろよ」
「うん行きたい。行きたい。あ、でもタダちゃのお買い物中にみんなでご飯食べるのはかわいそうじゃない?」
「いや、今日は仕方ないだろ?アタシら剣奈パーティ強化には必要なことじゃねえのか?それは可哀そうとは言わない。むしろ勇気ある別行動じゃねぇのか?それにせっかくお使いで三宮行くんだ。藤倉には三宮でうまいもん食わしてやれよ」玲奈がうまいこと言った。
「そうだね!勇気ある別行動だね!三宮のごちそうはご褒美だね!」
あっさりごまかされたチョロ剣奈である。本当は玲奈は藤倉が大好きな剣奈と夕食をする機会を奪ってやりたくなっただけだった。不謹慎な童貞野郎へのちょっとした罰だった。
老獪な大人たちに囲まれた剣奈。あっさりコロコロ騙されるチョロ剣奈である。先行きが心配である。
剣奈たち三人はステーキハウスに行くことにした。マリンサイトから北上してすぐの場所にある海沿いの店である。
「うわぁおいしそう。ボクね、ハンバーガーと、淡路ビーフの握り寿司と、淡路ビーフのサーロインステーキ食べたい」
結構なお値段である。しかしまあ、人々を救ったことを考えれば全然割に合わないくらい安いのかもしれない。
「じゃあ今日は闘いに貢献できなかった私にごちそうさせてくれたまえ。大活躍した剣奈ちゃんと見事なサポートをした牛城さんに乾杯!」
「「かんぱーい」」
闘い終えた勝利の美酒ほどうまいものはない。いやノンアルコールだが……。
パクパクとおいしそうに食べる笑顔いっぱいの剣奈である。玲奈はその場のごちそうとおいしそうに食べる剣奈のフォトをライムグループに送った。
藤倉は楽し気な夕食の様子、剣奈の輝く笑顔、どことなくどや顔の山木を見て一人やさぐれた。
「あっちは剣奈ちゃんの笑顔を眺めながら豪華なステーキか……。こっちはそれをうらやましく見ながら寂しくマクド」
購入したばかりのLCP IIの入った紙袋を片手に一人やさぐれてバーガーをかじる藤倉だった。