9 約定
『さて小僧何がしたい?』
「もとの道に戻れなくて困ってる。このままじゃ、、そ、そうだ!スマホ!」
リュックからスマホを取り出して、警察に電話しようとするケント。けれど電波の旗は1本も立ていなかった。
「電波来てないかー、、通話は、、ダメだ電話できない。このままじゃあここから出られないよ。ダムから飛び降りようにも、ずいぶん高いし、、」
正直この状況でケントは詰んでいた。数日後には、連絡が途絶えたことを心配したケントの親は、警察に捜索願を出すだろう。目撃情報からこの辺りも捜索されるだろう。
川である。水はある。人は、水さえあれば数週間からひと月は、生をつなげられるという。
しかし街で生まれ育ったケントに、山の中で一人で生き抜くサバイバル能力など、備わっていなかった。
暖を取る事が出来なければ、夜にもなれば体温は失われ、一夜で凍死してしまうだろう。
考えなしの無謀な冒険の末、ケントの命の火はいとも容易く、吹き消されようとしていた。
『ふむ、助けてやろうか?』
「え?できるの?」
『うむ。しかし力を使うには、ワシと縁を結ぶ必要がある』
「えにし?」
『うむ。小僧とワシの魂を繋ぐ契約を、結ぶっということじゃ』
「むすぶ?」
『神々に認められ、縁を結ぶことができば、力を授けられよう』
「そしたら助かるの?」
『そうじゃな、助かるじゃろう。ただし物事には釣り合いがある。ここで潰えるはずだった小僧。貴様の命の糧として、少しばかりやってもらいたいことがある。もともとワシの責なのじゃがな、ワシだけではなし得ぬ。そこで、少々手助けがしてほしいのじゃよ』
「わかった!恩返しは必要だもんね!やるよ!お手伝いするよ!」
『うむ、よし!言葉は言霊。口より出でし、意味ある言の葉。その響きは、糸となり織りなされる。織りなされた霊力の布は、やがて中心に向かう。霊力に乗せられた想いは、約束として結実す。我とそなたとの約定、ここに成れり。
さて、
それでは術式をはじめようか』