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125 世界平和大観音 剣奈勇者チームいざ幽世へ

 翌朝九時、朝食を終えた四人はバイクと車で国道二十八号線を海沿い南西方向に走っていた。

 山木の剣奈パーティへの参加が決まったのである。パーティは幽世ではバイクで移動しようと考えていた。そのため山木のヘルメットとグローブなどを買わなければならないと藤倉は考えた。そうしたわけで一行はまず洲本にあるバイク用品店を目指したのである。


「うわぁ。風が気持ちいいね。太陽がきれい」


 淡路島の朝である。朝の国道二十八号線では大阪湾側に太陽が見える。太陽の光が青い海にキラキラと反射する中でのライドである。実にさわやかな海沿いのツーリングなのである。

 バイク用品店に少し早めに到着した剣奈たちは午前十時の開店を駐車場で待った。そして開店と同時に山木らは店に入り、ヘルメットとグローブを購入した。


 剣奈たちは国道二十八号線を北東方向に戻って妙見山へ向かうことにした。


「かなり戻ることになるけどいいのかね?ここからだったら先山がかなり近いよ?」山木はバイク用品店の駐車場で藤倉に尋ねた。

「はい。剣奈ちゃんらと話し合いました。まずは北から邪気を探していこうかと。今回浄化を試みる邪気はすべてはぐれ邪気だとは思うんですが、北の邪気の方が阪神淡路大震災で地脈エネルギーを消費して弱体化してると思うんです」藤倉が言った。

「ふむ。一理あるか」山木が言った。

「剣奈ちゃん一人ならどこから行っても大丈夫と思います。ですが我々という足手まといがいます。また、試してみたいこともいくつかあるので」藤倉が付け加えた。 


 昨日の山木の講義の後、剣奈たちは四人(一振りと三人)で邪気討伐について意見を交わした。今回は未経験者が二人もいる。玲奈と山木である。

 藤倉は思った。実際に黒震獣を目の当たりにしないと、あの恐ろしさはわからないと。

 藤倉は過去の自分を思い出していた。甲山の闘い。あの時の自分がそうだった。いざとなったら逃げればいい。剣奈の足手まといにはならない。そう思っていた。

 ところがである。闘いの最中に藤倉はあっさりと黒震獣に追い付かれた。そして子供のごとく鼻水垂らして泣き怯えてしまったのである。醜態であった。しかしだからこそ黒震獣の恐ろしさが心身に刻み込まれたのであった。


 藤倉は思った。玲奈と山木はまだ黒震獣を見ていないのだ。彼らは口では気を付けると言っている。まるで過去の自分を見ているようだった。

 だからこそこの二人に自分の二の舞をさせるわけには行かないと。剣奈ちゃんの足を引っ張らせるわけにはいかない。藤倉は強くそう思ったのである。

 前回、身を守る手段を何も持たずに異世界に移転してしまったことを藤倉は深く反省した。だからガスガンLCP IIを準備したのである。今回用意した剣気弾。その使用は初めてである。はたして剣気弾に効果があるかどうかまるで未知数なのである。

 そしてLCP IIを持っているのは藤倉と玲奈だけである。今の山木は身を守るすべを一切持たない。先山と諭鶴羽山の黒震獣は力を蓄えている可能性があると藤倉は思った。

 距離的に考えるとバイク用品店から近いのは先山である。効率を考えると先山を初戦の相手として選ぶ選択肢も考えられる。

 しかし今のわれわれの状態を考えると、先山の敵を初戦の相手にするにはリスクが大きい。そこで往復の移動時間を多くとったとしても妙見山を初戦の場所とした方がよい。藤倉はそう考えたのである。

 藤倉の妙見山から探索する提案に対し、


「わかった!」剣奈は元気よく答えた。

「好きにしろ」玲奈は反対しなかった。

 

 そういうわけで藤倉たちは国道二十八号線を一時間ほどかけて戻ったのである。やがて一行は妙見山の麓近くに到着した。八幡寺近くの駐車スペースに車を止めた。


「昔はこのあたりに大きな観音様が立っていたんだ。淡路島のランドマークになっていて、たくさんの人が訪れた。けれど建立した方が亡くなられて、遺族は相続を放棄したんだ。しばらく放置されてたんだけど、そのうち老朽化で危ないと言われ始めた。そこで取り壊されることが決まって今はなくなったんだよ」藤倉は言った。

「おのころ丸で大阪湾に調査にいくとき、船からよく見えていたよ」山木はしみじみ返答した。

「わぁ。そんな大きな観音様がいらしたんだ。ボク、見てみたかったなぁ。跡地どこ?」


 藤倉は剣奈に跡地の方角を示した。剣奈は手を合わせて頭を下げた。そこから剣奈たちは八幡寺にお参りした。その後一行はいったん駐車場に戻った。


「で、どうすんだよ」玲奈が尋ねた。

「ボクが呪文を唱える前にバイク二台のハンドルを掴むよ。そしたらみんなボクにつかまって?」

「アタシが剣奈を後ろから抱く。ジジイ二人は剣奈の右腕と左腕につかまれ。腕以外のとこ触りやがったらぶっ飛ばす」玲奈がすごんだ。

「ははは。怖いお姉さんだね。剣奈ちゃんのボディガードかな。わかったよ。腕以外には触れないよ。私が左腕、藤倉君は右腕を掴んでくれたまえ」山木が答えた。


 剣奈はリュックからペットボトルを取り出して禊を行った。そして四方拝を行った。最後に妙見山に向かって深く一礼した。

 剣奈は皆を見てバイクを両手に掴んだ。三人はそれぞれ剣奈に触れた。移転の祝詞が始まった。


()けまくも綾に(かしこ)

天土に神鎮(かむしずま)()

(いとも)も尊き 大神達の大前(おほまえ)

慎み敬い (かしこみ)(かしこみ)(まを)さく

今し大前に参集侍(まいうごなは)れる

剣奈と来国光と玲奈姉と藤倉先生と山木先生を

幽世(かくりよ)に送りたまへと

(おろが)(まつ)るをば

(たひら)けく(やすら)けく

聞こしめし(うづな)(たま)へと

白すことを聞こしめせと

恐み恐み白す


 一陣の風が吹いた。剣奈たちは風に溶けた。気が付いた時、四人は妙見山のふもとの野原に立っていた。バイクは二台とも幽世に来ていた。


「やった」剣奈はどや顔でほほ笑んだ。

「さあ準備しよう。怪異が出てくると思います。山木先生は絶対に俺のそばを離れないでください。いざとなったらわき目も降らず逃げてください。牛城さんも気を付けて」藤倉が指示を飛ばした。

「はっ。テメエこそ足手まといになるんじゃねぇぞ」玲奈が吐き捨てた。


 玲奈はバッグからホルスターを取り出してベルトに装着した。そしてLCP IIの弾倉を確認し、ホルスターにセットした。

 藤倉もそれに続いた。剣奈は来国光をリュックから取り出し、刃を天に向けて左腰に履いた。そして静かに鯉口を切った。


「ははは。ずいぶんものものしいね」山木が言った。

「ジジイ、余裕かましてんじゃねぇ。剣奈の足をひっぱりやがったらアタシがテメエを殺す」玲奈が絶対零度の視線を山木に向けた。


 山木は異世界に移転したことで驚いた自分を落ち着かせようと軽口をたたいたのであった。みんなのピリピリした雰囲気に昨日話していた内容は冗談ではなかったのだと実感した。とんでもないところに来てしまったかもしれない。山木の心臓は大きく鳴り響いていた。


『さっそく察知しおったな。来たぞ。黒犬八匹』来国光が警告した。


 黒犬は鋒矢の陣形で剣奈に向かって斜面を駆け下りてきた。妙見山の闘いが始まろうとしていた。

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