123 淡路島の地脈 神域に潜む邪気の隠れ家を暴け
「さて、話を続けよう。この図をみたまえ」
山木が映像を指し示した。スクリーンには中央構造線と内帯、外帯が書き込まれた西日本の地図が映し出されていた。
そして次のスライドでは大阪湾、瀬戸内海、淡路島が拡大された地図が映し出された。
「内帯のなかでも中央構造線のすぐ上の地質体を領家帯という。中生代後期から形成された低圧型の変成岩と花崗岩が主な構成岩だね。わかりやすく言うとマグマが冷えて固まったものだよ」
「マグマの塊……地脈の塊……」藤倉がつぶやいた。
「ふむ。君たちはマグマやマントルのことを「地脈」と呼ぶんだね。君たちのテクニカルターム(専門用語)がだんだんわかってきたよ。そうだね。君たちの言葉を使うと、淡路島北部は地脈の残滓で構成されているといったところか。そして淡路島の北東部から南西にかけてたくさんの活断層が見つかっている。君らの言葉に即して言うと「地脈の裂け目」かな?」
「クニちゃ!地脈の塊!地脈の裂け目!邪気だよ、邪気の巣だよ」剣奈が興奮して叫んだ。
『うむ、そうじゃ。そうとしか考えられぬ』
「おぉ元気がいいね。小さいのに地質に興味を持つとは有望だ。私がもう少し若ければぜひうちの研究室に来てほしいところなんだがね。残念なことに君が大きくなるころには私は退官してしまっている。いや、まてよ。逆に大学に縛られず、自分の老後を君のような若人たちと語らうことで過ごすというのも悪くないかもしれないね」山木が言った。
「先生、まだまだその話は早いですよ。先生の退官まであと七年もあるじゃないですか。ただまあ、剣奈ちゃんの大学入学はぎりぎり先生の退官には間に合わないですね。剣奈ちゃんがうちを選んでくれたとしても」藤倉が言った。
「はっ、まず入れるかどうかを心配しな。滅多に入れねえんだろ?」
玲奈が吐き捨てた。鶴甲大学は京阪神の雄である。国立関西難関大学の一角である。しかし剣奈の母は鶴甲大学出身である。そして父は日本の最高学府、龍岡門大学出身である。それを知っている藤倉は剣奈が鶴甲大学に入れることを前提に考えていた。
「大学はよくわからないけど、ボク、山木先生を尊敬します。先生のおかげでクニちゃの宿敵、凶悪大魔王の居場所がわかったんです。ここの小ボスか中ボスの居城も見当つくかもだし……」
剣人語が出た。せっかくお偉い先生が将来有望な若人を見つけたと喜んでいたというのに……
いきなり出てきた剣人ワールドに目を白黒させた山木である。藤倉と玲奈は剣人語に慣れている。
「ふむ。いや、ゲーム用語かな?最近の若人らしくて良いね。うちの孫も今の君ぐらいになったらそんな感じになるかもしれないね。ぜひ良いお姉さんとしてうちの孫と遊んでやってくれたまえ」
山木、ただの孫バカだったか。
「さて、話を戻すとだね、淡路島は北部が海を越えて北東の六甲山地に連なっているんだ。細長く山がちの地形になっていてね。溶岩質の地質になっているんだ」山木が話をつづけた。
「溶岩……地脈……」
剣奈がわかった風なことを口にした。山木は反応を示した若い剣奈に気分を良くして話をつづけた。
「ははは。興味ありそうだね。じゃあもう少し詳しく言うよ?淡路島はね、北東から南西に山地が伸びていてるんだ。その東に妙見山があり、南に摩耶山がある。妙見山は標高五二二mで谷が深く険しい地形をしている。妙見山の頂上には妙見宮があるよ。一方の摩耶山は標高三五九.八m。浸食小起伏面特有の丸みを帯びた柔らかな形をしてるよ。ここには鷲峰寺がある」
『地脈に神域。邪気が好んで巣食いそうな場所じゃの』
来国光が興味を示した。山木が話をつづけた。
「北部の話はこんなものだよ。細かくはもっとたくさんあるけどね。さて、では次は淡路島中央部の話をしよう。淡路島中央部には先山を中心として南北方向にのびる先山山地がある。先山は標高四四八mと高くはない。しかし富士山のような美しい形をしていているんだ。淡路富士と呼ばれているよ?。そして地質は花崗岩質だよ。君たち流に言うと地脈の一部って感じかな」山木が話を合わせた。
「クニちゃ、地脈だよ!地脈!」剣奈が興奮して叫んだ。
『うむ。実に地脈に縁のある島じゃの』
興奮する剣奈を見て藤倉は山木の話を引き取った。剣奈が興味を引きそうな話をして尊敬の目で見つめられたい。そんな思いも相まって藤倉は興味深い伝承を付け加えた。
「先山の名前には興味深い話があるんだよ。伊弉諾命と伊弉冉命が淡路島を作った時にこの山が最初にできたとね。最初の山だから「先」の「山」。先山と名付けられたのだそうだよ。頂上には高野山真言宗の先山千光寺が建立されている。すぐ近くに天照大神をお祀りする岩戸神社もあるよ。面白いことに千光寺を守るのは狛犬じゃなくて猪なんだ」
「猪さんなの?」
剣奈がキラキラと目を輝やかせて藤倉を見つめた。藤倉、目論見大成功である。