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114 あの子は私が守ろう─千鶴の決心

「おばあちゃんお願い!」


 剣奈は千鶴に頭を下げていた。いきなりガラの悪い不良娘を連れてきたかと思うと、彼女を久志本家に住まわせてほしいと懇願してきたのである。

 見ず知らずの人を家に泊める?そんな非常識な。千鶴は困惑した。


「そない言うてもなぁ。剣奈も今日おうたばっかりなんやろ?よう知らん人なんやろ?」

「ボク、あの人と約束したんだ。次に生まれ変わったら友達になろうって」

「次に生まれ変わったらってなに?あの人の方がずっと年上やろ?」

「でも異世界でボクはあの人と闘ったんだ。あの人の意思じゃないのに閉じ込められて、岩に縛り付けられてたんだ。ボクは闘いたくなかった。けどあの人を解放するために倒しだんだよ。その時、男の約束をしたんだ」


 さっぱりわからない。千鶴は剣人語が理解できなかった。何を言ってるのか理解不能である。メチャクチャである。剣奈の真意がまったく理解できない。

 

「来くん、おばあちゃんに分かるように説明できる?」

『ワシも確信を持って言えぬ。じゃが剣奈は魂の色と匂いがわかるらしいのじゃ』

「えぇっと。それじゃあ、剣奈の思い込み?」

『いや剣奈の感覚は神がかりじゃ。おそらくおうておる』

「何?じゃあ過去行ってあの人の前世と闘うてきて、ほんで現世にもどってきたてこと?」

『いや、今回はそれとは違うじゃろう』

「来くん……。さっぱりわからんわ……」


『あの女の魂の片割れが人々の想いに囚われて縛り付けられていた。剣奈はそれを解放した。解放された魂は本体に合流したんじゃろ。本体は輪廻の輪を経て新しい生を掴んでおったようじゃがの』

「はあ。そんなこともあんねんな。やっとわかってきたわ。でもな、剣奈。あの人の人生はあの人のもんや。剣奈が背負うべきもんやない」

「背負うとかじゃない。あのお姉さんはボクと同じ勇者パーティの仲間なんだ。神様に選ばれたんだよ。魔眼スキルを持ってるんだよ」剣奈が勢い込んで言った。


「魔眼スキル?」千鶴は額を押さえながら尋ねた。

『あの女子(おなご)はこの世のものならざるものが見える。剣奈とワシを繋ぐ結紐(ゆいひも)も見られた。剣奈の神気の輝きも見えるようじゃ。現世に迷い込んだ邪気や怪異も見えるようなのじゃ。確信はもてぬが人の悪意も見えるやもしれぬ。あの女子がおったなら女性(にょしょう)として無防備すぎる剣奈の守りとなるじゃろう』

「あの人には悪意はないの?」

『本人はこの家の金目のものを持って逃げると(うそぶ)いておった』


 千鶴はずっこけた。

 

「あかんやん!」

 

『いや、あの女子が人の好意に慣れておらんだけじゃろ。早い話、照れ隠しじゃ』

「人の好意に慣れてないって、複雑な身の上なん?」


 来国光は牛城玲奈の半生、そして前世の話をした。

 

 千鶴は怒りに震えた。あの娘はそんな扱いを受け続けてきたのか。

 なんと嘆かわしい。おぞましい目にあっただけでなく、自分の魂を引き裂かれてしまったのか。しかも今生でも人の所業とは思えぬ扱いを受け続けて。この娘の尊厳は踏みつけられてきたのだ。

 それだけではない。魂をひき裂かれた。そして意識に上らぬままも片割れに引かれて何度も夫婦岩を訪ねてたのか……。無意識に神に縋って甑岩を何度も訪ね続たのか……


 自分の思いが踏み躙られた悲しさ、辛さは千鶴にはよくわかっていた。前世でも今世でも親に踏み躙られ、あまつさえ暴力を与え続けられるなど到底許されることではない。

 それだけではない。生き続けるために見知らぬ男に身体を与え続けねばならなかったのだ……

 

 辛かったろう、悲しかったろう……。無念だったろう……。

 女としての尊厳、人としての尊厳を踏み躙られ続けてきたのだ……。

 

 千鶴は気が付かぬうちに涙を流していた。それが同情の涙なのか、怒りの涙なのか、共感の涙なのか、それとも憐憫の涙なのか、本人にもわからなかった。

 ただ決意を固めた。


 あの子は私が守ろう。


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