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112 越木岩神社 甑岩と豊臣秀吉(イラストあり)


「ねえタダっち。このお姉さん悪い人じゃないと思う。邪眼スキルもちの特殊能力者だし、この人も神様に選ばれた勇者仲間じゃないかな?ゲームでもよくあるじゃん。知り合ったはじめはギクシャクしてたけど、あとで仲間になって一緒に魔王を倒しに行くって」


 さすが剣人ワールドである。謎理論である。そして剣奈は確信していた。この人に悪意があるなら来国光がとうに警告してきているはずだと。岡山の電車(ディーゼル車)では来国光はトナラーの邪な心を剣奈に警告してきてた。剣奈は思った。念の為に来国光に確認してみようと。剣奈は念話で来国光に尋ねた。


『クニちゃ、この人に悪巧みはある?』

『いや、ない。この娘は全部本心で言うておる。あと多分コヤツは……』

『うん。ボクもそんな気がする。だっておんなじ匂い感じるもん。きっとあの人は解放されて、先に生まれ変わってた魂と合流できたんだよ』

『そうかもしれぬ。で、どうする?』


 来国光に尋ねて確信が持てた剣奈は藤倉に言った。

 

「タダっち。ボクにはわかるんだ。この人は悪い人じゃないって……。クニちゃも同じ意見だよ。だからちょっとだけ乗せてもらうね。タダっちも一緒に行こ?」


 藤倉は考えた。剣奈がここまで固執するのだ。彼女には何かがあるのかもしれないと。

 この不良娘に剣奈の神気や剣気が見えてるのは確からしい。この不良娘に悪意がないというのが来国光と剣奈の統一見解。なら俺も彼女を見守るか。ただし何かあったら俺が絶対守る。


 なにやら一人で盛り上がっている藤倉である。そんな中、剣奈は、


「うわーい。かっこいいバイク。大っきいなぁ。うわぁ、シートもフカフカ。背もたれもあるんだ!」


 これである。いや、お前。ただバイクに乗りたかっただけだろう!このバイクどこかに凹要素があるのか?

 はっ!V型エンジン!凹である。まさかの凹エンジンである。さすが凹ホイホイにすぐ捕らわれるチョロ剣奈。歩く凹吸引機。そして、


「うわぁ風が気持ちいい。お姉さんカッコいいね!」

「そうかよ。気に入ったら何よりだ」


 玲奈は夫婦岩から海に向かって大沢西宮線を南下した。山あいのワインディングを抜け、カーブを曲がったところで視界が広がった。

 吹き抜ける風が心地よい。そしていきなり海の景色が広がるのである。絶好のツーリングロードではなかろうか。

 剣奈は絶景にはしゃぎながらタンデムライディングを満喫していた。しかし目的地は近かった。海が見えてすぐに玲奈はバイクをとめた。そして剣奈に手を差し伸べてバイクから下ろした。


「着いたぞ。アタイの好きな神社だ」


 玲奈がバイクを止めたのは越木岩神社である。夫婦岩からバイクでわずか5〜8分ほど南に位置する。北山公園のちょうど南端あたりである。

 緑豊かな森に囲まれた神社で、御神体は巨岩甑岩(こしきいわ)である。甑岩は周囲四十m、高さ十mの大きな岩である。


「また意味深な場所だね。この岩は守護岩であり、また祟り岩でもあるんだ。その昔、豊臣秀吉が大阪城を築城した時、この立派な岩に目をつけたんだ。石垣にすればさぞや立派だろうとね。村人は神聖な岩を石垣にされると聞いて大反対したんだ」藤倉が語った。

「そりゃそうだよ……」剣奈が同意した。

「ところがいつの世もお役人は庶民の声をなかなか聞き入れてくれない。この時もそうだった。お役人は人々の声を黙殺したんだ」

「ひどい」

「やがてお役人は石切職人たちがを連れてきた。村人が嘆く中、職人たちは岩にノミを当てて鎚をふるい始めた」

「割れちゃうじゃん」

「そう。岩に切れ目が入った。村人たち大いに悲しんだ」

 

「大切なものに酷いことするなんで、ボク、そんなに嫌い」

「世の中には大切にされてると聞くとわざわざそれを汚す行為をする人も多いんだ。いじめなんてまさにその典型だよ」

「ボク、いじめ嫌い……」

「俺もだよ。村人たちはまさに為政者からいじめにあったんだ」

「ひどいね。ラノベだったらここでザマァ展開になってスカッとするのに……」

 

「それがね、ここでザマァ展開になったんだ」

「えっ!?そうなの?」

「ああ。岩が割られたとき、突然大きな音がしたんだ。そして岩の亀裂からもくもくと煙が吹き出し始めた」

「岩が怒っちゃったんだよ」

「そうだね。そして煙に巻かれた石切職人たちは手足を震わせ、苦しみ悶えだしたんだ。そして職人たちは斜面を転がり落ちて絶命したんだよ」


「岩はたとえ割られても、歯を食いしばり、仇なす奴らに思い知らせる。アタイもそうありたい。仇なす奴らなど苦しみ悶え息耐えればいい……」


 玲奈が忌々しげにつぶやいた。


◆剣奈イラスト 越木岩神社(兵庫県)

挿絵(By みてみん)


 悲壮な玲奈の様子に剣奈は言葉をなくした。軽口をきいてはいけない。そう思った。

 そこで剣奈にできることをすることにした。剣奈は手水舎で禊をおこなった。


「わあ綺麗な石が敷き詰められてる!」


 越木岩神社の手水舎の水盤には色とりどりの玉砂利が敷き詰められており、とても涼やかである。

 剣奈は龍の口から流れ出る禊水を柄杓に取り、両手を清め、口をすすいだ。本当は着衣を脱いで禊たかったところだがさすがに場所柄をわきまえた。

 

 えらい!剣奈っ!さすがにここで美少女が着衣を脱ぎ始めたら大ごとだ。スマホで撮られまくってデジタルタトゥーになること請け合いだ。

 そして来国光を出さなかったこともえらい。銃刀法違反で警察に連絡されること請け合いだ!

 さすがに千剣破に厳しく言い含められているらしい。千剣破ナイス。


 禊を済ませた剣奈は神様にお祈りをすることにした。ここの主神は市寸島比売命いちきしまひめのみことである。仏教で言うところの弁天様である。

 甑岩自体が女性守護の力を持っており、安産の神・子育ての神として昔から信仰されている。割れ目を持つ岩は女性の大切な場所に例えられる。すなわち凹である。剣奈はまた知らず知らず凹に引き寄せられていたのである。さすが凹ファイター。


 剣奈は御神体にご挨拶のお辞儀を一度した。続けて二度深く頭を下げた。そして手あげて、少し手のひらをずらして二度柏手を打った。そのまま手を合わせ直して合掌した。

 風が吹いた。剣奈の神が風に揺れた。突然の微風に剣奈はほほ笑み、祝詞を奏上し始めた。高く澄んだ声だった。


()けまくも畏き(かしこ) 

越木岩の神社(かみのやしろ)に住まいたる

|この土地の産土(うぶすな)の神様方、

ことわけて市寸島比売命いちきしまひめのみこと

大前(おほまえ)(かしこ)(かしこ)

(まお)さく

大神おほかみの高き(たふと)

大神威(おほみいつ)

(あがめ)(たふと)(まつ)りて、

今日の良日に(おろが)(まつ)(さま)

見そはなし給ひて、

大神(おほかみ)大御幸(おほみさち)を以て、

諸々の禍事(まがごと)無く、

夜の守 日の守に

恵み(さきは)へ給へと

(かしこ)(かしこ)

(まお)


 風が舞った。剣奈たちは風の中に取り込まれた。爽やかで優しい風だった。そして剣奈、藤倉、そして玲奈は風に溶けて消えた。




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