109 甲山の神事 剣奈の清らかなる肌 藤倉マグナム暴発疑惑(イラストあり)
『それでは巫女舞による地脈浄化の術式を行う。藤倉どの、すまぬが遠くに下がってもらって良いかの。剣奈、禊を行おうぞ』
藤倉は来国光に言われるままに剣奈から遠く離れた。と、剣奈が背中を向け、いきなり服を脱ぎ始めた。
「えっ!?」
あまりに破壊力のある攻撃だった!藤倉のマグナムが臨戦態勢に……
剣奈は上半身裸になった。美しい裸身だった。すさまじい闘いを繰り広げたとは思えぬきゃしゃな背中だった。可憐な背中に浮き出た肩甲骨が天使の羽根を思わせた。
剣奈はリュックからペットボトルを取り出し来国光に注ぎかけた。そして両手にかけた。口をゆすぎ、最後に頭と両肩に水を注いだ。簡易の水垢離である。剣奈の背中にしたたり落ちる水が太陽の光を受けてキラキラと輝いた。
藤倉はマグナム臨戦態勢のまま目を離せないでいた。美少女のあまりにもの清らかさに全身で打ち震えていた。マグナムも……
剣奈はタオルで体を拭った。白い裸身が清らかに輝いた。そしてリュックから新しい服をとりだし身につけた。
藤倉は……藤倉は……、その一部始終を魂に焼き付けたぁ!
剣奈ぁ!男の前で服を脱ぐなぁ!
いや、まてよ。脱がないと禊はできないか。……とすると……諸悪の根源はガン見した藤倉にあり。バコンっ! 目をそらせ藤倉ぁ!
そんな中、来国光の声が重々しく響いた。
『浄化対象は甲山、四方拝から巫女舞、乙女舞の神事を執り行う』
「……うん。姿も花の甲山……。古くからみんなが大切に想ってきた場所……。こんな……こんな大切な場所を汚すなんて許さない!」
『うむ。そのとおりじゃ。邪気を滅してここの地脈を正すことにより、あの牛女の魂も鎮魂するじゃろう』
「うん…… ボクは……、ボクは……、この山を清める!」
『うむ!』
剣奈は甲山に向かって深くお辞儀をした。そして北東南西に向かい深いお辞儀を繰り返した。再び甲山に向かい、深いお辞儀を二度行った。
剣奈は両手を胸の前にあげ、少し手をずらして柏手を二回うち、手を合わしなおして黙とうした。最後に甲山に向かって深い一礼をして四方拝を終えた。あたりの気が清冽な雰囲気になった。
剣奈は来国光を抜いて頭上に構えた。そのまま時計回りの方向に緩やかに舞った。舞いながら螺旋の動きで来国光を徐々に下げた。
その場の気がどんどん清められて浄化されていった。剣奈は空中に来国光を押し当てるような動作から軽快に動かし始めた。
あまりにもの清らかさに見惚れていた藤倉であった。そして厳かで強く神聖な気配を感じ、深く頭を垂れた。剣奈の魅力には抗えなかったようで頭を下げつつも上目遣いで目を輝かせて剣奈を見つめ続けた。
剣奈は来国光を地面に突き立て、朗々と祝詞を唱え始めた。広田神社主神の天照大神、山の神、火の神、西宮神社ゆかりの恵比寿様、越木岩神社の女神、神功皇后、そして祓戸の四柱の神々に次々と祈りを捧げていた。
剣奈は右手で来国光の柄を握り、左手を柄頭に添えていた。剣奈の声が響く。幼くも、高く澄み切った厳かな声だった。
掛けまくも綾に畏き天土に
神鎮り坐す
最も尊き 大神達
ことわけて
大日霊命
大山祇命
迦具土命
蛭子命
市寸島比売命
気長足姫命
瀬織津比売命
速開都比売命
気吹戸主命
速佐須良比売命
の大前に
慎み敬い 恐み恐み白さく
今し大前に参集侍れるものどもは
高き尊き大御恵みをかがふりまつりて
辱み奉り尊み奉るを以って
今日を良き日と択定めて、
禍事の限を
祓清めむと、
根の国、地のもとに持ち込まれたる
諸々の禍事・罪・穢・邪の気、有らんおば、
持ち去りて
祓ひ給ひ 清め給えと白すことを、
聞こしめせと
恐み恐み白す
剣奈が白黄の輝きに包まれた。来国光が突き刺された地面からも輝きが漏れた。刀身全体から、地中に神気の光が放れた。
甲山に巣食う邪気は、完全に浄化されたのだった。
◆剣奈イラスト 甲山浄化
剣奈は来国光を地面から抜き、甲山に向かって来国光を捧げ、深く一礼した。そして来国光を右腰に添えて端によった。リュックからペットボトルを取り出し、来国光に注ぎかけた。刀身から水がしたたり落ちた。剣奈はリュックから布を取り出し、来国光を丁寧に拭き、静かに鞘に収めた。
巫女舞の神事を終えた剣奈はうつむき、寂しげに微笑んだ。
この地に縛られた哀しい娘は戒めから解かれただろうか。平和を祈って捧げられた聖遺物は清められただろうか。さまざまな信仰を集める聖なる山は正しく浄化されただろうか。この地の地脈は正されただろうか。
目を伏せ憂う剣奈は儚げだった。
剣奈は顔を上げ、振り向いて藤倉を見た。怪我を心配する慈愛のほほえみだった。藤倉は汚れた自分まで浄化されて消滅させられてしまいそうな思いに囚われた。
風が吹いた。幾筋もの風が剣奈を取り巻いた。
「ん♡」
剣奈の身体が淡い白黄の靄に包まれ輝いた。美しくも神々しい輝きだった。