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106 姿も花の甲山 聖なる山を犯し喰らう邪気(マップあり)

「あ、えーっと、剣奈ちゃん」

「はい。先生」

「あ、私のことは先生じゃなくて「忠くん」でどうかな?私の名前、忠恭(ただゆき)っていうんだ。これからパートナーだし、一緒のパーティーで冒険するわけでしょ?先生だとちょっと他人行儀かなーって」


 藤倉、苦しい言い訳である。正直に言え!「俺、君に名前を呼んでほしんだ」と。しかし疑うことを知らない剣奈である。


「確かに!ボクと先生はパーティメンバー。先生は賢者でボクが勇者。勇者パーティの仲間同士だよね。うん、そうだよ。他人行儀はおかしいよね。わかったよ、先生、これから先生はタダちゃだね」


 斜め上の愛称をつける剣奈である。しかし藤倉はニヤニヤしていた。


「タダちゃか……。悪くない。じゃあ剣奈ちゃんこれから俺はタダちゃだ」


 剣奈にタダちゃと呼ばせる藤倉。千剣破が見たら絶対引く。キモがる。キモおじである。いいのか藤倉。


「クニちゃ、どうする?」

『うむ。あの兜の様な山から邪気の気配がする。あの山に向かうぞ』

 

「甲山だね。昔から色々と信仰の対象となった山だよ。今は真言宗甲山大師神呪寺(かんのうじ)が建立されている。淳和天皇のお妃さんが山に登ったら女神様とお会いしてね。彼女がお寺を作る決意をしたんだ。その時八二八年(天長五年)。彼女は如意尼さんとしてここに住み神呪寺を開いたそうだ。邪斬さんよりもかなり前だね」


 藤倉が甲山について知っていることを伝えた。

 

「すごいね。神様とお会いになったんだね。ボクと同じ巫女さん?」

「いや、ここはお寺さん。仏教だよ。そういえばどうして女神様なのに仏様になったんだろうね。お寺の名前に「神」がつくしね。まあこれは真言の「じんじゅ」から「神」に変わったんだけどね。ご本尊は仏様、如意輪観音様だよ。御詠歌はね」


 「来てみれば すがたも花の かぶと山 寺もわが身も 薄雲の中……」


「お妃さまが神様に合われた風景が目に浮かぶようだよ」

「うん。素敵な歌」

「甲山は行基さんが昆陽池を作った時の土でできたという話もあるよ。さすがにそれはちょっと違う気がするけどね。あと興味深いお話としては気長足姫命おきながたらしひめのみこと神功(じんぐう)皇后)が国家平安守護のために如意宝珠、金甲冑、弓箭(きゅうせん)、宝剣、衣服などの宝物を埋めた宝の山とも伝えられているよ。実際銅戈(どうか)が出土してるから祭祀の場であったことは間違いないね」藤倉が蘊蓄を披露した。

「いろいろ信仰の山だったんだ」


 剣奈は理解できずにぼーーとしながら答えた。藤倉は剣奈に感心されたと思い、得意げに話をつづけた。


 いや、藤倉よ。剣奈にそんな難しい話はむりだから。

 

「そうだね。昔から信仰の対象だったようだよ。近くの山からは弥生時代の出土品が見つかってるよ。あとね、天照大御神の荒御魂を祀る広田神社の神奈備(かんなび)山ともいわれているよ。西宮神社や越木岩神社との関連を言う人もいる。色んな信仰が混じり合って兜山は霊的な清らかさに満ち満ちているはずだよ?そんな神聖な山に邪気が宿るのかなぁ?」


◆甲山周辺地図

挿絵(By みてみん)

 

『いや、逆なのじゃよ。そこまで霊的な場所だからこそなのじゃ。神聖な場所だからこそ、そこを汚し、汚された霊力を喰らう。神聖なる霊力あふれた場所は、地脈の地力と共に奴らの大好物なのじゃよ』

「それはまたタチが悪いね。人の想いを繭に怪異を生み出し、神聖な霊的エネルギーを汚して喰らうなんてね。なんてバチあたりな」

『邪気じゃからの。悪辣じゃよ。それにしてもじゃ。確かに神聖なる強い霊力をあの山から感じるのぉ。しかもそれだけではない。強い地脈の地力も感じる。地脈と関連ある場所ではないのか?』

「その通りだよ。そんなことまで感じ取れるなんて、邪斬さんは凄いね。確かにね、甲山は地脈と縁が深い場所なんだよ。昔ここらは海だったんだんだ。それが八千万年前くらいに海底でマグマが隆起して陸地になった。六甲花崗岩群だね。そして千二百万年前、その花崗岩を貫いてさらにマグマが噴き出した。そのマグマによって出来たのが甲山なんだよ。つまり甲山は地脈エネルギーの塊だと言えるだろうね」

『なるほどのぉ。二重の意味で奴らの大好物というわけじゃ。ますます浄化せねばならぬ。放置しておれば地震(なゐ)をおこし噴火を呼ぶやもしれぬ。捨ておけぬ』


 剣奈には二人の話はさっぱり分からなかった。しかしわかったことが一つ。甲山にボスがいる。そのボスを倒さねばと。剣奈は二人に真剣な顔を向けていった。

 

「わかった。甲山に向かおう」

「ああ」藤倉が同意した。

『いや、先生は後ろに下がっておれ。来るぞ』来国光が警告した。

「え?まだ怪異が!?」藤倉が驚いて聞いた。

『うむ。剣奈まいる!』

「はい!」


 一瞬にして剣奈が臨戦態勢に入った。きりりとした横顔。凛としたたたずまい。藤倉はすべてを忘れて剣奈に見入っていた。

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