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100 甲山しか勝たん! 不可侵の聖女と甲山 2つの断層にはさまれて 芦屋断層と甲陽断層 (マップあり)

「じゃあ剣奈、また来るから。お母さん、剣奈のことすいません。よろしくお願いします」


 日曜日の夜、千剣破は実家をでて新大阪に向かった。千剣破は新幹線に揺られながら今回の帰省を振り返った。母は性別の変わった剣奈を快く受け入れてくれた。また剣奈との冒険を目の当たりにして母は剣奈の置かれている立場をすべて受け入れてくれた。

 恩師藤倉への相談は実り多いものだった。来国光の現世での落としどころはひとまずの解決を得られた。どうしても無届の状態を受け入れられなければ、その時は竜岡門大学に寄贈すればいい。藤倉は寄贈にあたって適切な窓口を探してくれると約束してくれた。来国光の法律上の扱いについて頭を悩ませていたこの数日間だったが、藤倉に相談して千剣破は心が軽くなった。

 

 剣奈の冒険の保護者と移動手段ができたことも大きな成果だった。剣奈の冒険は傍から見れば女児の一人歩きに他ならない。ありがちなナンパやつきまとい、心配した警察の保護や補導、親の呼び出しの心配がなくなるのだ。ありがたいことこの上ない。

 戸籍問題については近いうちに婦人科クリニックか宝塚第一病院の小児科で検診を受けさせようと考えている。まずは剣奈が女性であると医学的お墨付きを得るのことが大切である。

 

 しかし医学的検査を行うにあたって不安もある。来国光によると剣奈は子宮を持っている。千剣破はお風呂場で剣奈に膣や尿道口があることを確認した。しっかりと陰核もあった。しかし身体内はどうなっているのかまでは確認していない。それをするには剣奈に、はしたない格好をさせる必要がある。

 未だ心が男子の剣奈は案外気にせずに大きく足を開いてくれるかもしれない。しかしそれをしてもらったところで医者でない千剣破に確認できるのはせいぜい処女膜の有無ぐらいである。

 処女なんて……ほんとどうでもいい……。いやまてよ?そうでもないか。もし剣奈の処女膜が破られるようなことがあれば地球が滅ぶのである。一大事である。

 いやいやいやいや。今はそこじゃない。千剣破はグルグルナルトになった目を固く閉じた。

 そう今はそこじゃない。問題は卵巣などの女性特有の器官があるかどうかである。

 剣奈は男性とまぐわれない宿命である。汚してはならない絶対的不可侵の清らかなる聖女なのである。不快な生理を引き起こす器官など邪魔でしか無い。しかし医学的に男女の判別として、その有無は大切なのである。

 

 また遺伝子的にはどうなのかも気になるところである。ひょっとすると男性のままXYかもしれない。

 来国光は言った。「巫女は処女の「女性」に限る」と。しかし遺伝子まで女性である必要性を求められるのか。案外子宮と膣があれば神様が良しとするのではなかろうか。

 ましてや神様が染色体まで気にするのか?案外XYのままではなかろうか。あるいはきちんとXXに変わっているのか?ひょっとするとXXYだったりしないか?

 そう考えると剣奈に検診を受けさせたくない気もする。しかし医学的に「女性」であるとのお墨付きは重要である。これをクリアしなければ戸籍の変更はできないのではなかろうか。それとも膣と子宮がある時点で女性への戸籍変更は可能なのだろうか?

 剣奈の身体が医学的にどうなっているのか怖くもある。しかし千剣破も真実が知りたい。

 

 いろいろ考え直してみると、解決に近づいた問題もあれば、まだまだこれからの問題もある。けれどこの週末の帰省は千剣破にとって非常に意味のあるものになった。


 さて一方の剣奈である。


「あー楽しい週末だったなー。明日は藤倉先生が迎えに来てくれるんだ。バイクに乗って冒険だ。テレビのヒーローそのものじゃん。ワクワクするなぁ。にひひひひ」


 これである。いつものことながら剣人ワールドである。のんきなものである。


 さて、剣奈たちの明日の目的地は甲山(かぶとやま)に決まった。

 甲山は六甲山地の東端に位置する小山である。宝梅からは南南西方向およそ2.5kmほどである。

 甲山はお椀を伏せたような山でこの辺りで住民に親しまれている山である。山の基底部分半径はおよそ三百m、標高三百九mの小さな山である。周辺の土地からの比高はおよそ二百mである。

 

 甲山は古い火山である。最後の噴火は千二百万年前とされている。地質はオーソパイロキシン質安山岩が多い。

 甲山の形成は独特である。まず地脈のマグマが冷えて固まり岩頸部が形成された。そしてそれが徐々に長い年月をかけた浸食によって周囲が削られていった。そうして今の形が残ったのである。

 かつては鬼山と同じく溶岩ドームとの説もあった。しかし今日では多くの学者により溶岩ドーム説は懐疑的に考えられている。

 

 このように甲山は地脈起源であり、邪気が好みそうな場所である。それでは断層はどうであろうか?

 甲山の周囲にはあるのである。山の西に芦屋断層(あしやだんそう)があり、東に甲陽断層(こうようだんそう)がある。つまり断層に挟まれようとする形になっている。

 実に邪気の気配を感じさせる場所である。邪気の臭いがプンプンするではないか。藤倉と来国光は意気投合して「甲山しか勝たん!」などと盛り上がっていた。


 ん?来国光、きみ、現代語つかえるの?


◆剣奈・甲山の闘い 甲陽断層と芦屋断層 剣巫女マップ 

挿絵(By みてみん)

 

 さて、甲山をにらむ二つの断層のうち南西から甲山を睨んでいるのが芦屋断層である。芦屋断層は六甲・淡路島断層帯に属する活断層である。

 この断層は西宮市と神戸市の間を北東から南西方向に約七km続く。右横ずれ変位が顕著である。

 芦屋には有名な高級住宅地、六麓荘(ろくろくそう)がある。そこにもこの断層が伸びているのである。ん?危なくないか?

 この断層の断層面はかつて夙川上流の香雪記念病院(現西宮協立リハビリテーション病院)近くで見ることができた。大阪層群が花崗岩層に沈み込む断層面で、硬い花崗岩が粘土上に粉砕されていたという。残念ながら今は見ることはできない。


 南東から甲山を睨むのが甲陽断層である。この断層は六甲山地の南東山麓の北東から南西に位置する。そしてこの断層は大阪盆地と六甲山地の地質構造上の境界にあたる。

 甲陽断層の断層面は一九七一年に西宮市高塚山町で発見された。逆断層型の運動によって、六甲山地側の大阪層群が断層にそって大阪平野下に沈み込む形態であり、露出した地層は断層面に向かって急角度で傾斜し、場所によってはほぼ直立している。

 今でも見ることができるので興味のある方は是非見に行くとよいだろう。そのうち剣巫女の聖地になるのではと妄想しているのは……おそらく夏風だけである…… くすん。

 

 藤倉は甲山が地形的に怪しいと目星をつけた。そして来国光自身はこの地に到着して以来、甲山の方向から実に慣れ親しんだ邪気の気配を強く感じとっていたのである。

 邪気は両断層に根を張っている可能性が高い。そして甲山を侵し、山の地脈エネルギーをもりもり貪り食っているのであろう。


 剣奈は盛り上がる二人を見て「あっという間に二人は仲良くなったなぁ。先生はもうすっかりパーティーに馴染んだよ」とニコニコしていた。

「先生とクニちゃとボクとで三人でバイク戦隊サンレンジャーだね」とニンマリしながらいつの間にか深い眠りに落ちていた。

 


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