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【7300PV感謝】剣に見込まれヒーロー(♀)に 乙女の舞で地脈を正します 剣巫女・剣奈 冒険の旅  作者: 夏風
プロローグ スーヴニール アンペリサーブル(色褪せない記憶)
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ボク、女の子の服着て学校行かなきゃダメ? 募る不安 揺れ動く心  スーブニール0

ボク、女の子の服着て学校行かなきゃダメ? 募る不安 揺れ動く心  スーブニール0


ぱち…… ぱちぱちぱち

じじじ…… しゅわ…

ちりちり……ちり…

ぽとり


◆線香花火

挿絵(By みてみん)


 浴衣姿の美少女が憂いを秘めた眼差しで線香花火をじっと見つめていた。


 宝塚の夜である。彼女、久志本剣奈は仲間たちと花火を楽しんでいた。つい先日、楽しみにしていた花火キャンプを開催したのだが、いろいろあって花火をし損ねてしまったのである。剣奈ははしゃいでいた。


 ひゅーーー ぱんっ

 

「た、ま、やー。にひひひ」


 打ち上げ花火に大喜びで歓声をあげていた。そして、


 しゅるるるるるるっ

 

「ひ、ひゃあぁぁぁ」


 剣奈は足元で動き回るねずみ花火に浴衣の裾を乱しながら飛び跳ねていた。飛び跳ねて浴衣の裾がひらりとまくれるたび、白く瑞々しい素足がのぞいた。その足をがん見していた藤倉が玲奈にみぞおちパンチを食らっていたのは内緒である。


 そして花火パーティもいよいよ終盤になった。みんなはそれぞれ線香花火を手に取って、美しくもしっとりとした火の華を見つめていた。剣奈もちりちりと華やかに開く火の華を見つめていた。


 ポトリ


 剣奈は儚く落ちた火玉をみて急に胸が締め付けられるような気分に襲われたのである。彼女は線香花火が火玉を落とした後もじっと先の無くなった焦げた手元のこよりを見つめ続けていた。


「どうしたの?剣奈ちゃん」藤倉が声をかけた。


「うん。ボク……秋から転校することになったんだ。それでね……女の子の服着て学校通うことになったんだ…… ボク……ボク……やっていけるかなぁ」


 剣奈はポツリと心細げに呟いた。彼女、久志本剣奈は小学校三年生である。この夏休みに不思議な体験をして身体が女性化してしまったのだ。


『そんなに不安ならワシは剣奈が学校に行く間は隠し部屋に入っていてもよいのだぞ?』


 邪斬(じゃぎり)の異名持つ来国光が剣奈の心に呼びかけた。邪斬は意思を持つ日本刀である。鎌倉時代に「地震を断て」との神託を受けた刀匠来国光によって打たれ、天土に奉納された。しかし地震は防げなかった。そして多くの人の命が奪われた。来国光は彼・彼女ら多くの人々の無念が自分に意思を持たせたと信じている。


「はっ。まだぐぢぐぢ言ってやがる。決心したんじゃなかったのか?」


 玲奈が吐き捨てるように言った。牛城玲奈(うしきれな)は複雑な家庭環境で性的虐待を受けながら育った。中学校卒業後に家を飛び出したあとも住まわせてもらう代わりに自らの身体を男たちに差し出さねば生きていけない、そんな人生を生きてきた。


「この娘は私が守る」


 そう決心した千鶴の好意により彼女は今、久志本家に居候している。それだけではない。玲奈は剣奈に魂を救われたのである。玲奈の魂の片割れは邪気に取りつかれて怪異化してしまっていた。そんな玲奈の魂を邪気から解き放ってくれたのが剣奈なのである。玲奈は口は悪いが剣奈のためなら命を投げ出そうと思ってる。玲奈は元気のない剣奈を見て励まそうと声をかけたのである。

 

「剣奈……」


 剣奈の母の久志本千剣破(ちはや)が心配そうな目で剣奈を見つめた。千剣破は思った。今ならまだ猶予がある。まだしばらくは男子として生活することができる。あとしばらくなら……。剣奈の戸籍は今のところ男のままである。

 しかし、しかしである。千剣破は知っているのだ。剣奈、いや息子剣人の男の体は遠からず朽ちていく運命にあることを。千剣破は朽ちていく(おの)が身体を悲しげにみる息子を見たくなかった。そんな思いをさせたくなかった。


「剣奈?勇者メンバーであり、剣奈の大事なパートナーの来くんをずっと隠し部屋に籠もらせていいの?来くんとずっと一緒にいられるから剣奈は女性として生きる決心をしたのじゃなかったの?」


 「息子の身体が生きながらに朽ちていく」。千剣破はそんな恐ろしいことは「剣人」には知らせたくなかった。そこで剣人ワールド(剣人の子供らしい空想)のストーリーに乗っかって「剣人」が「剣奈」として生きていくのがいいのではないか、そう説得していたのである。剣人も決心したはずだった。


「そうだけどぉ。ボク、スカートはいて学校行くの恥ずかしいしぃ……ボク、男の子でしょ?女子の服を着た男の子って変でしょ?ボク、変な奴に思われるのやだなぁって……」


 とんでもないことである。剣奈は道を歩けば彼女持ちの男すら振り返る絶世の美少女なのである。研究に没頭し、「彼女いない歴=年齢」の藤倉教授ですら彼女にメロメロなのである。

 自分が女に見えないなどと思っているのは世界中でただ一人だけである。剣奈自身だけなのである。


「まあまあ。そないな難しい話はおいといてスイカでもどや?冷蔵庫でヒヤッヒヤッに冷えとるで?」


 剣奈の祖母、千鶴が言った。千鶴も娘の千剣破から「剣人の身体が遠からず朽ちゆく」ことは聞かされている。剣奈が剣人として生きることはもはやできないのだ。

 選択肢が一つしかないのを知らされずに悩んでいる剣奈を見て千鶴は心を痛めた。憂鬱にふさぎ込んでいきそうな剣奈の気分を変えてあげようとしたのだ。千鶴は知っていた。剣奈の機嫌を一瞬で変える方法を。餌付けである。


「うわぁ!食べる食べる!」


 燃え尽きた線香花火をじっと見つめて憂いていた美少女が一瞬にして腹ペコ坊やに早変わりした。チョロ剣奈の目目躍如である。


 おいおい剣奈よ。それでいいのか?さんざん悩んでいたろ?もう忘れたのか?おめでたい奴だなー。まあいいか。それが君だ。


「テメェ、ほんとに食い意地はってんな」玲奈が揶揄った。

「腹が減っては戦が出来ぬだよ?ボク、お母さんからそう教わってるから」剣奈が頬を膨らませて玲奈に答えた。

「そうね。人はお腹がすくと変なこと考え始めるからね……。人はね、食べて寝て、そして陽の光を浴びて運動するの。そしたら大抵のことはなんとかなるものよ?」千剣破があっけらかんと答えた。

「ほうほう。おいひいものをはべはいはんて、ひんへいほっはいはいほ」剣奈がスイカをほおばりながらわけのわからにことを言った。


 ぱこんっ


 玲奈が剣奈の頭をはたいた。

 

「テメエはまず食え。アタイもつきあってやるからよ」


 玲奈が優しく剣奈に微笑んで言った。剣奈の足元に白蛇がそっと忍び寄った。そして剣奈の浴衣の裾から侵入した。


「し、白ちゃんっ。やめてよぉ。くすぐったいよ。あ、あん♡そんなところ入っちゃだめ!」


 剣奈がくすぐったがって声をあげた。藤倉のマグナムが力強く唸った。それを目ざとくみた玲奈が藤倉の股間にキックを食らわせた。


 ひくひくひく


 藤倉が地面にうつぶせになって痙攣しはじめた。


「このエロおやじが」玲奈が吐き捨てるように言った。


「か、かわいそうだよ」


 剣奈がおもわず自分の股間を押さえながら言った。剣奈のそこにはリトルボーイはもういないのだが……。なぜだろう。なぜか自分のリトルボールホルダーがきゅっと縮んだ気がした。


「はっ、どうせ藤倉だ。すぐまた汚ねぇ相棒をぶったてるだろうよ」


 三桁を超える男に犯され続けて男性に不振感のある玲奈が吐き捨てるように言った。


「う、牛城さん…… せ、生理現象は仕方ないんじゃないかなぁ…… 心で思う分にはいいって許可してくれたじゃないか……」


 いまだ股間に激痛が走る藤倉が玲奈に懇願した。


「はっ、仕方ねぇなぁ。どうしても我慢できなくなったらアタイが鎮めてやってもいいって言ってんだろ」玲奈が吐き捨てた。

「ちょっとちょっと。剣奈の前で生臭い話はやめてんか」千鶴が静かに、しかし凄みのある声でピシャリといった。


「すんすん。生臭い?白ちゃん全然生臭くないよ?」


 剣奈は浴衣の胸元から首を出した白蛇の頭に顔を近づけて臭いを嗅いだ。そしてぷぅっと頬を膨らませて言った。剣奈は白蛇の白ちゃんが生臭いと言われていると勘違いしたのだ。彼女は白ちゃんをかばったのである。


「あはははははは。悪かった悪かった。白は生臭くねぇよな。ついからかっちまったよ。わりぃわりぃ」玲奈が明るく言った。

「そうだよぉ。玲奈姉ひどいよぉ」

「ははは。悪かったて」

 

「そうね。この子はかわいい子……。ほらおいで?」


 浴衣を着た絶世の美女が言った。そしてにこりと玲奈を見た。


「怖えぇよ」


 玲奈は思わず後ずさった。つい先日、玲奈と剣奈はこの美女に殺されかけたのである。彼女の名は玉藻(たまも)という。剣奈たちと壮絶な闘いを繰り広げた相手である。


「すっかり馴染んだね。玉藻さん」


 復活した藤倉が声をかけた。


「ええ。おかげさまで。とっても良くしてもらってるわ」


 久志本家に居候している玉藻がにっこりと華の開くような笑顔を浮かべた。

 

「ついこの間のことだとは思えないよ……」


 藤倉はしみじみつぶやきながら彼女が仲間になった日を思い返していた。淡路島南岸から船に乗って一緒にみんなで夕日を眺めた時のことを。


 シュッ


 剣奈が再び線香花火に火をつけた。

 


 

 

――――――――――――


 初めまして夏風です。お立ち寄りくださいましてありがとうございます。

 本作は「剣巫女シリーズ」の本編にあたります。本話はシリーズ『奴隷貿易と赤い女の幽霊』終了後しばらくした頃のお話です。現時点(2025年7月)の本編はまだそこまでたどり着いていません。


 本話は本作プロローグとして登場人物たちの振り返りという形で本作の紹介的に数話挿入してあります。各登場人物について簡単に説明は加えておりますが、それでも「誰だこいつ」など思ってくださる方は、もう少し詳しい説明をシリーズの『水牢に沈む濡れ髪の女 奴隷貿易と赤い女の幽霊』「一話 はじめに」に掲載してありますのでよろしければ。


 『剣に見込まれヒーローに』本編ぜひお読みすすめいただければとてもうれしく存じます。また仲間を得たのちの活躍をシリーズで公開しておりますので、説明はいいからこいつらの活躍を詠みたいという方はそちらからお読みいただいて、さらに興味を持っていただければ本編で、こいつら何者だ、どうやって仲間になった、などお読みいただけましたら幸いに存じます。


 本作、すこし試行錯誤の過程がございます。例えば各段落の字下げについては、スマホで読むことを前提としてどのような形にするのか悩みました。その結果、本作前半部分で、「字下げ」、「会話文と地の文との間のスペースの有無」、「ある程度のまとまりごとにスペース入れるか否か」などで変遷がございます。いまのところ本話プロローグ0の形に落ち着いています。

 これらにつきましては、本作をまとめるありがたい機会を得ることが出来ましたら、全編通じて同一文体に訂正しようと考えております。現段階ではそれらの不統一がある段、ご容赦くださいませ。


 最後におねだりを。


 作者のやる気スイッチとして「★♡・コメント・レビュー」泣いて喜びます。どうぞよしなにお願い申し上げます。


 よろしくお願い申し上げます。


挿絵(By みてみん)

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