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1章 4部 「会見 1」

  会見はシズクがどうするか決めた日から10日後に行われる予定となっていた。


 あくまで、ムタイという男とナリヤ将軍の会見なので、シズクは参加できるならしますか? 程度の提案だったようだ。


 会見までにこちらができることは特になくいつも通りの日々が流れる。


 ミコトはシズクから魔法の特訓を受けながら読み書きも習っていた。


 そんな彼女にユイトは、事務作業の合間を縫って、彼女を誘って近くの川で釣りや山菜取りをして遊ぶなどしていた。

 

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 「それでは、行ってまいります。シズク様」


 会見前日の昼過ぎ、出発する二人と使い魔として同行する子猫一匹は、シズクとミコトとカエデから見送りを受けていた。


 シズクは「ええ、気をつけてね。二人とも」と、カエデは「今日はムタイ様の屋敷でゆっくりしてきなさいな」と、それぞれ見送りの言葉をかけてもらった。


 「行ってらっしゃい、気を付けてね」


 ミコトも言葉をかけてきてユイトは「おう、行ってくる」と軽く返事した。


 ユイトの息抜きとミコトの寂しさを紛らわせる意味も兼ねて一緒に遊んでいたが、二人はすっかり打ち解けていた。

 その様子を見て、カエデはあらあらといった顔で見ていて、シズクはこれ、大丈夫か? といった複雑な顔をしていた。


 そのやり取りの後町へ向かって二人は村を後にした。距離は馬を走らせて三時間ほどだ。


 これだけ町の近くに拠点を構えられているのも、ムタイに匿われているからこそだろう。


 町に到着後は、ムタイの屋敷へ向かった。


 屋敷は人間の背丈ほどの塀に囲まれておりその中を見渡すことができない。

 それでも塀の長さだけですでに一般的な家が十軒以上まるっと入りそうな長さをしているので、豪邸であることは違いないだろう。


 入り口近くにいた門番へアカリが「シズク様の命で来た」と伝えるとすぐに屋敷へと通された。


 屋敷を進むと応接間へ通されて、少し待たされる。

 しばし沈黙が流れた。


 が、ユイトが手元にいる猫を撫でながらアカリへ質問を投げた。


 「なあ、アカリとナリヤ将軍ってどういう関係なんだ?」

 「なんだ急に」


 アカリはその質問を訝しんだ。


 一方のユイトは、そんなことを気にせず猫を愛でる。


 猫は気持ちよさそうな顔をしながら撫でられている。


 「単なる世間話さ。それに人となりを知っていそうだったからな。気になった」


 彼女は「はぁ」とため息をつきながらも答えた。


「ナリヤ将軍は、先々代の王から使えている将軍だな。

 王家への忠誠心も非常に高く、私にとっての槍の師匠でもある方だ」


 アカリは頬を少し緩ませながら、懐かしい顔をして答えてくれた。


「なるほどな、幼いころの師匠か。シズク様とのかかわりは?」


「ナリヤ将軍は武官ではあるが非常に教養がある方でもあってな。

 幼少期のシズク様や兄上殿下の教育係もされていたのだ」


 その言葉にユイトは少し驚いた顔をした。


「ナリヤ将軍って教育ができるほどの教養を持っているのか。すごいな」


 このことにユイトは驚いた。


 ナリヤ将軍は先の《覇》との戦争の緒戦で、防衛戦を指揮した将軍だ。


 防衛と撤退戦を粘り強く行った結果、こちらの《若き七将》が活躍できるだけの時間を稼ぎ戦争の勝利へと導いた名将だ。


 将軍には様々な才能が求められるとはいえ教育係をできるのは相当だろう。


「なるほど、名将ってのは武勇だけでなく教養まで兼ね備えるんだな」


「ああ、私たちは将軍から半分も学べないままこうして追われる身になってしまったんだ」


「そうか……」


 ユイトは変わらず猫と遊びながら返事をした。


 すると、今度はアカリから質問が帰ってきた。


「そういえばお前は《覇》との戦争時、何をしていたんだ?」


「どうした急に」


「私は質問に答えた。ならお前も答えろ」


 アカリはユイトがかわいがっていた猫を両手で抱えて奪い取り彼女の膝に乗せた。


 彼女も猫を可愛がりたいらしい。


「あの当時も変わらず反乱軍にいたさ」


「ということは、《覇》に協力していたということか?」


「そうなるな」


 アカリはやはりなという顔をしていた。


 ユイトが元居た組織は反乱軍で目的は現王政打倒。


 手段を問わないのであれば、外国勢力に打倒してもらうことでも目的は達成できる。


 ユイトがいた組織というのはそういう組織だ。


「戦争に勝って現王族を族滅させれていた場合、お前らの組織はどうするつもりだったんだ?」


 反乱を起こす動機はいいとして、その後どうするかの展望をシズクたちは知らない。


 以前二勢力が会見した際にそこははぐらかされたのだ。


「さあな、俺は伝令役だったから詳しいことは何も。上層部の先の展望はわからないままよ」


 アカリは猫の頭から背中にかけてをゆっくりと撫でる。

 子猫は彼女の膝の上で横になり、くつろいでいる。


「そうか、もしお前が傭兵でなければ一大事だったな」


「ああ、傭兵だからこそ組織がなくなった今、こうして売国行為を話せるわけだ」


 そうこう話をしていると、足音が近づいてきて戸の開く音が鳴った。


「お待たせして申し訳ない。ようこそお越しくださいました。」


 と、低姿勢な雰囲気で中年の小太りの男が入ってきた。


「ご無沙汰しております。ムタイ様」


 ムタイはアカリ達の正面に座った。


「アカリ様こそご壮健で何よりです。それで、隣にいる彼が?」


 視線がアカリからこちらに移る。


「ええ、今回私の目になってもらう護衛役のユイトです」


「初めまして、以後お見知りおきを」


 紹介されて挨拶をする。


「初めましてユイト様、ムタイです。明日はよろしくお願いいたします」


「こちらこそ」


 互いに軽く一礼したところでアカリが話を切り出した。


「しかしムタイ様、ナリヤ将軍が裏切るとはにわかには信じられません。 本当でしょうか」


「現王政に関する重要なことを内密に相談したい、という内容での非公式な接触でした。


 本当に王政打倒に傾いておられるのかは会って話さないとわからないです」


 アカリも「うむむ……」と考えている。


 見たもの次第では大きく動くことになるため、考えることは多いようだ。


 そんなアカリを見てムタイは優しく声をかけた。


「そう深く考えなさらずともよろしくのではないですかな」


「しかしそうはいかないでしょう……」


 ムタイはアカリの目を見て諭すように話を続けた。


「私は用件を伺い、話を合わせて情報を引き出します。

 その情報をそのまま持ち帰るのがアカリ様の仕事ではありませんかな。

 そうすれば、シズク様が判断なさいますとも」


 アカリはその言葉ではっとした。


 そして少し緊張が解けたようで雰囲気は和らぎ、声も少し明るくなった。


「そうですね、私の役目はシズク様の目となることですね。

 ありがとうございます。ムタイ様」


「礼には及びませんよ。明日はどうか見守ってくださいませ」


 こうして、ムタイは明日の準備といい席を外し、アカリとユイトは客人として一泊することとなった。

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