1章 2部「彼女たちの日常 2」
「はあぁぁぁぁ、事務作業は嫌いなんだよ……」
魔法訓練を受けるミコトに対して、ユイトは作業小屋で事務処理に追われていた。
何をしているのかと言うと、シズクの部下を使い元居た反乱軍の残党が生き残っていないか確認。無事ならそれら残党を吸収する処理に追われていた。
しかし、ほとんどの残党が投獄、処刑されていた。
それでも、一部物資や人員を引き継げるだけでも助けになるのは間違いないので、こうして作業している。
「私も好かん。だがお前がいなければ集計ができない。早く終わらせたければ手を動かせ」
そう言いながら、手を動かしているのはユイトと一戦交えた武人の女の子だった。
「そうは言うがアカリさん。報告のほとんどが人員、物資行方不明じゃないですかぁ」
反乱軍の物資のほとんどは王都近郊の山々に隠されていたが、おそらく捕縛された者の自白によって接収されていると思われる。
人員は王都近くにいた同士、「覇」国境付近にいた同士、そして協力的だった地方豪族が根こそぎ粛清された。
その数、約四万人。
特に「覇」国境付近に三万人近くいたため、村一つが消滅するなんてことは珍しくなかったみたいだ。
シズクも、各地の豪族や有力者に協力を取り付けてはいるものの数は少ない。
実際に事を起こすにしても現状の兵力は1万程度だろう。
しかも各地に散っているため王都を攻め落とすとなれば相当厳しいだろう。
「それでも、これだけの人員と物資は貴重だ。いざというとき大きな力になるだろう」
そう言いながら、集計した内容を紙にまとめていくアカリ。
すると、引き戸を開く音がして、視線をそちらに向けると普段着姿のカエデが入ってきた。
「お使いから戻ってきたよー」
「ああ、おかえりー。カエデ」
アカリは手を動かしながらもカエデにあいさつをする。
カエデは土間には上がらず、玄関口においてある桶から柄杓で水をすくい飲み一息つく。
「シズク様はミコトと一緒に特訓?」
「ああ、いつもの場所でな」
「そう。アカリ、いつもの面々を招集してもらえるかしら」
そういうとアカリは作業の手を止め、カエデのほうを見る。
「何かあったの?」
「ムタイ様の提案である人物との会談の提案があったわ」
「ムタイ様って誰だ?」
ユイトの問いにはアカリが「この近辺を取り仕切られてるお役人様だ」と答えた。
「提案、と言うことはこちらの存在は伝えたのか?」
「いえ、まだ伝えていないそうね。けど、内容が内容なだけに話を回してくれたわ」
相当込み入った話のようだった。
アカリはふうと一息ついた後、持っていた筆を置き立ち上がる。
「わかった。みんなを集会所に呼ぶからカエデはシズク様を」
「わかったわ」
そう指示を出し作業小屋を後にした、アカリとカエデ。
ユイトは二人が出る前に「あなたもすぐに集会所へ」と言われた。
書類を一度片付け、集会所に向かおうとした時、頭をよぎったことがあった。
それは、シズクとミコトのことだった。
シズクはミコトが現実を落ち着いて受け止められるような状態になってから、彼女を召喚した時のことを語ってくれた。
召喚時、術式が完全じゃなかったため、離れた場所に召喚してしまい山賊に攫われる原因を作ってしまったこと。
今は才能がなくても召喚に耐えているので素の力はあること。
なので訓練を積ませ英雄に育てることも話してくれた。
ミコトは修練に励み、笑顔を見せるようにもなっている。
元々はただの小銭稼ぎでここに来たユイトにとって、彼女は無視できない存在になっていた。
彼女がどう行動するのか、どうなるのか。可能であれば元の世界に返してあげたい。
ユイトは柄杓で桶にある水をすくって飲みながらそんなこと考えていた。