1章 1部「彼女たちの日常 1」
「やあぁ!」
ミコトは先端に宝石が埋め込まれた大杖を掲げ、勢いよく振り下ろした。
すると風が吹き荒れ、狙いを定めていた氷柱にかまいたちが命中する。
氷柱は人の腕ほどの直径があるのでそう簡単には折れない。
それでも表面は、何度もかまいたちをぶつけた影響で凹んでいて傷だらけになっている。
シズクは満足げにミコトが放った今の一撃を褒めた。
「うん、いい感じに魔力の収束ができてきているわ」
「やっと形になってきた感じがします!」
ミコトがこの世界にやってきて約一ヶ月、彼女はシズクから直々に魔力を扱う訓練を受けていた。
今日は風魔法でかまいたちを射出し氷柱に打ち付けていた。
目的は魔力の収束、制御の練習だった。
氷柱がある程度ダメージを負ったらシズクが氷柱を再生して、再び氷柱にかまいたちをぶつける。
「しかし、魔法ってすごいですね。魔法で水や氷を生成できるなんて……」
いくら魔法があれど文明のレベル自体は、ミコトの元居た世界のほうがレベルは高い。
しかし、魔法という超常的な現象を起こすことはできない。
「魔力を使って魔法として行使できる人はそう多くないわ。それに適正もあるから私みたいに簡単にはできないわよ」
そう言いながらも、シズクは一瞬のうちに切り傷だらけの氷柱を、鏡のようにキレイな円柱に戻した。
「王家の人間は魔法の才に優れている人が多いの。
私は派生系統の氷魔法が得意だけれど、血族の多くの人は水魔法を得意としているわ。」
シズクは持ってる大杖を小さく揺らしながら、得意げに語る。
「どうして水魔法を得意な人が多いのですか?」
「王家の血統もあるけれど、この指輪と地脈というのがかかわってくるわね」
姫様は視線を胸元にひもで下げてある指輪に落としながら手を当てる。
「指輪はなんとなくわかるのですけど、地脈はどういうことですか?」
「そうね……少し長くなるけどいいかしら」
前置きしつつ、彼女は語り始めた。
「私の先祖である初代女王陛下は、この地で暴虐の限りを尽くしたとされる悪魔を倒したのよ」
「悪魔、ですか?」
「そう、悪魔。人の手足を引きちぎりそこから出る生き血を啜りながら人の叫び声で悦に浸る。そんな悪魔だったそうよ」
ミコトはうげぇという顔をしつつ「絵にかいたような悪魔ですね」と返した。
「けど、実際にいた悪魔よ。そしてその現状を憂いた《ある存在》によって初代陛下に力が与えられたの」
「《ある存在》、ですか?」
「その存在というのは、この土地に古くから存在した地脈の龍神様よ」
地脈の龍神。前までのミコトなら風水的なオカルト話だと一蹴していただろうが、今は実際にあるものと認識していた。
「龍神様は初代陛下に力を与えられ、陛下は悪魔を倒したわ。そして、その功績でこの地に住んでいた民から求心力を得てこの地に国を造ったのよ」
ミコトは一呼吸考えてから、彼女の世界のことを話した。
「私の世界でも似たような話はありますが、どれも創作かそれに近いものとしてみんな聞かされます。
ですけど、この世界では本当に起きた話なんですね」
ミコトの言葉に対し、シズクは笑いながら
「実際に起きたことではあるのでしょうけど、もう何百年も前の話だから私も似たような気持ちで聞いてたわよ」
と返してきた。
「ただそれでも、私たち王家の一族は龍神様の加護で今も魔法の才を授けられているのだから本当にあった話なのでしょうね」
と遠い目をしながら話をした。それは何か昔を思い出すような表情だった。