4章 5部「交渉」
ユイト、セッカ、ミコト、アカリの四人と、奪還作戦に参加してくれた兵士達はある場所へ向かっていた。
馬車の荷車に揺られながら、シズクはつぶやく。
「あなたを信じるしかないとはいえ、よくもまあこんな大胆な策を思いつくわね」
それに対し、ユイトはどうということはないといった雰囲気で答えた。
「奴は王都で仕事があるからな。長い間、留守にするわけにもいかんのさ。
どちらにしても、あいつの協力なしでは、目的を達成できない。
俺も賭けるしかないのさ」
と、軽く言う。
こうして馬車に揺られながら旅を続けた。
道中、検問もあったが、ユイトの仲間の身分で難なく通してもらえた。
こうして一行が向かった先、それは、
王都だった。
***
「まさか、こんな形で帰ってくるとはね」
シズクは周りを懐かしみながら、そう言った。
一行は王都に入り、交渉場所へ向かっていた。
「シズク様の計画だと、最悪ここが廃墟になってることだってあり得たわけで。
それに比べれば、幾分かいい結果ではあるでしょうね」
と、ユイトが返した。
「我々だってそうならないようにいろいろ考えていたさ」
と、アカリが割って入ってくるが、「それもすべて霧散したわけだろ?」とユイトに言われ「ぐぬぬ……」と押し黙ってしまう。
その様子にふふっと笑いながらも
「おしゃべりするのもいいけど、あまりその話はここではしないようにね」
と、くぎを刺すシズク。
「しかし、我々を王都に入れるとは、やることが大胆すぎるというか、無謀というか」
アカリは周りを見渡しながらそう言った。
「俺が話を持って行って、伸るか反るか、どちらにしても奴に話の重要性をわからせるにはシズク様がいることは大事だからな」
ユイトも周囲を流し見しながらそう答えた。
「だが、話が決裂したらどうするつもりだ。そもそも我々をおびき出す罠との考えもまだ拭えていないのだが……」
「おびき出す罠かどうかは会ってみるまではわからん。だが、俺が指示した範囲内では罠や情報は渡していない」
最大限の警戒度を示しているアカリにユイトはこう語りかけた。
「そもそも、俺は初めから裏切ってはいなかった。加えて、事切れる寸前のお前を助けたのは俺たちだ。
もう少し、信用してくれもいいと思うけどな」
「そうだな、最初に軍在籍歴ありと明かしてくれていれば、信用はしただろうな」
と少しいがみ合うユイトとアカリ。
「少なくとも今は協力者よ、過去のことは一度おいておきなさい」
とたしなめるシズク。
「どちらにしろ、私たちの命運は今日決まる。
全力を尽くすのみよ」
そう、全員へ告げる。
その言葉に、各々が覚悟を決める。
こうして、一行は、旅の目的地であった、王都内の一区画にある場所に着いた。
周りは、塀に囲まれており、兵舎や簡易的な執務所が建っている。
馬車が、執務室前の建物に着くと、一人の男が待っていた。
ユイトは真っ先に馬車を降り、その男の元へ駆け寄ると、
男は、片膝をつき拱手の姿勢で、「よく……ご無事で戻られました……」と涙を流していた。
そんな姿にユイトは何かを話しかけながら、男を抱きかかえ立たせていた。
「それよりも、中に入れてくれ。立ち話でする話でもないだろう」
ユイトがそう言うと、男は涙を拭いながら「そうですね」と返し、
「皆様、こちらに」
そう言われ、三階建ての建物へと通された。
***
「まずは改めて、ユイト様。よくお戻りになりました」
「ケンタも、よくこの組織を守ってくれた」
ユイト達は通された会議室で改めて対面となった。
こちらは、ユイト、ミコト、シズク、アカリ。
そして、ユイトの正面には先ほど出迎えてくれた男、ケンタが座っていた。
「あなた様が教えてくれた、特殊任務の知識は我々の存在価値そのものです。
そして、王政はその知識と経験を欲しているので、あなたの後任に私を据えて残してるわけです」
「そうか……。そうだな。念のためだが、俺が生きていたことや、戻ったことは内密にしているか? 」
と、ユイトが話題を切り替えた。
「ええ、このことを知るのは私以外にはごくわずかですし、その者たちにも口外無用の命を出していますが」
「今日俺が戻った理由、そして、ほかに人を連れてきた理由は、公にするわけにはいかない理由があるからだ」
その言葉に、ケンタは眉を吊り上げ、真剣な眼差しになる。
「伺いましょう。その理由とやらを」
「その前に、今日連れてきた者を紹介しよう。シズク様とアカリ、そしてミコトだ」
各々がケンタと儀礼的なあいさつを交わす。
「そこのシズク様が、今日一番の本題なのだが……、シズク様、例の物を彼に見せてもらえますかな」
そう、シズクに指示を出したユイト。
だが、シズクはすぐには動かず質問を返した。
「その前に、この部屋は盗聴透視対策をされているのかしら」
「事前に指示があった故、魔法はかけてあります。がそれほどのことで? 」
と、訝しむケンタ。
「それほどのことよ。見なさい」
そう言うと、胸元からひもで通してある指輪を取り出すと、左手の人差し指につけた。
そして、指輪は澄んだ青い光を放ち始めた。
「そんなはずは!? それは、王家の持つ《血の指輪》!? 」
驚愕のあまり、立ち上がってしまうケンタ。
「そして、その名……あなた。いや御身は!? 」
「そう、かつて王都を追われ死んだと言われているシズク姫、その人だ」
そうユイトが言うとケンタは固まった。
そして五秒ほど固まったのちストンとその場に座り込んだ。
「ユイト様、あなたはなんてことをするんですか……」
「そう言うな、照れるだろ」
「褒めてません!! 」
と、怒っていた。
「これ見て聞いてしまった以上、私はシズク様を捕縛して連行しなければなりません。
しかし、そのために連れてきたわけではないと見えます」
ケンタは大きく息を吐きながらもこう言った。
「今度は何をするつもりなのですか……」
その問いに、ユイトはこう答えた。
「前は偵察と称して、敵将校の首を狩って回ったが、今度の得物は大きいぞ」
「ま、まさか……」
「ああ、現王の首だ」
その言葉にケンタは文字通り白目をむいていた。
「私と部下に、この国を裏切れとおっしゃられるんですね」
「ああ、そうだ」
「あなたって人は……全く……」
と、片手でこめかみのあたりを押さえながら答えるケンタ。
「それで、素直にはい喜んでと言えるわけがないじゃないですか……」
「わかっている。指揮命令権は今の俺には無いし、お前の立場もあるしな」
「なら、なぜこの話を私のところに持ってきたのですか……?
そもそも、なぜあなたが現王政を打倒せんとするのかもわかりません」
と、心底いやそうな顔で質問してきた。
「そうだな。まずはそこから話そうか。
長い話になるが聞いてくれ」
***
こうして、ユイトはこの世界に来た時のことから、何から何までを話した。
召喚されたこと、【覇】との内通、すべてを語った。
その間、ケンタはすべて黙って聞いていた。
すべてを語り終えると、ケンタはこう言った。
「つまりこの国に未来はないと。そうおっしゃるのですね」
「ああ、現王は悪魔そのもの、そしてその影で暗躍する摂政も同時に殺さなければならない」
「つまり、私は今、二択を迫られていると」
ここで、ケンタはふーっと一息吐いた。
「ああ、俺たちの話に乗って未来を変えるか」
「ユイト様の話を虚言を断じ、皆様を現王政へ差し出すか、ですか」
「ああそうだ」
「これ以上ない、ひどい二択ですね」
と、呆れ笑いを浮かべるケンタ。
「けど、お前が持っている見識と今の情報を聞いて、どう思った」
「どういうことです?」
表情が引き締まる。
「俺が、択を迫るのは簡単だ。だが、強制でやらせるのはいざというときに不安が残る」
無言のままのケンタ。
「俺が去って、隊長代理含めて二年か。
この隊は戦時には敵地に浸透し偵察や破壊任務をした。
だが今は、敵味方問わず各地の情報を吸い上げる組織だろ?
お前の目で見て、どうだ」
「確かに、隊長代理についてから色々なものを見聞きしました。
各地に散った隊員達の情報から、この国の疲弊や不満がかなり高いところにあると理解できます」
そう話す声は、若干震えている。
「加えて、現王政の汚職の多さ。見るに堪えません」
シズクたちの口角がほんのわずかだが緩む。
このまま、協力してくれるのではないだろうか。
「しかし」
ケンタのその一言で緩んだ口角は再び引き締まる。
「我々には仲間がいます。同胞たち全員があなたに引きずられながらも各地を駆け回った、
楽しかったあのころとはわけが違うのです」
「戦争なら仕方ありません。ですが、これは明確な反乱です。
家族ができたものもいます。
そんなやつらに連座で愛する者の首をも一緒にかけてまで協力しろと言うのは……正直、苦しい」
その言葉で無言になる。
だが、最初に言葉を紡いだのはシズクだった。
「確かに、今の平和を享受するのも一つの手とも言えるわ。
けど、現王は魔王そのもの。さらには【覇】の侵攻で国が滅びれば、民は奴隷になるしかない」
まっすぐ、ケンタを見据えながらこう言った。
「将来の子の世代に望みをつなぐためにも、力を貸してほしいの」
そう優しく言った。
そして、しばらくの沈黙の後、ケンタはこう言った。
「現在、隊の者は王都に六百名ほどおります」
少しためらうような間の後、覚悟を決めたのかこういった。
「志願できぬ者は王都より脱出させる。
これが、私が出せる条件です」
「つまり……? 」
ミコトがそう言うと、ケンタはハッキリ言った。
「兵士全員に会っていただき、直接言葉をかけてあげてください。
ユイト様のお言葉なら賛同する同志も多いはずです」
その言葉に、シズクとアカリ、ミコトは少しだけ表情をやらわげた。
「ああ、会おう。そして話して、納得してもらう」
こうして、全員ではないにしろ新たな協力者を得ることができたユイト達であった。




