プロローグ4「17歳の少年少女」
「大丈夫、じゃないよな」
帰ってきたユイトは引き戸を閉めた直後、ミコトに声をかける。
ミコトは部屋の真ん中にあるいろりの前でこちらに向かって座っていた。
土間に上がりながら話をつづける。
「ミコトが置かれている状況は、簡単じゃないことはわかる。
そして、元の世界に帰るには姫様の悲願である反乱の成功が必須条件であるということも」
あの後彼は、姫様にミコトを元の世界に返す方法を聞いた。
シズクが言うには召喚することより、その人間を元の世界に返すほうが難しい。
召喚するには莫大な魔力と供物、そして触媒として姫様が持つ指輪の力でそれが叶う。
だが、召喚した人間を元の世界に返す際は条件が増える。
魔力や触媒はもちろん、一番重要な要素として地脈、つまり土地由来の風水術が必要となる。
その風水術を可能とする場所こそ、この国「月江都国」の王都だ。
当然王都で大規模術式を隠密に展開するのは不可能。
それに、そこまでしてミコトを元の世界へ帰すメリットもない。
非情だが不要ならその辺に捨て置けば済む話だからな。
少しの沈黙が流れた。
ミコトはこれからの不安を噛み殺し、ユイトはこれからできることを考えた。
そして、沈黙を破ったのはユイトだった。
「俺はな、物心ついたときには親がいなかったんだ」
すると沈んだ顔ながらも、伏せていた顔を上げながらミコトは話してくれた。
「なぜ、と聞くのは遠慮がないですか?」
ユイトは微笑みながら「いいよ」と答えた。
「俺は賊に攫われた子供だったんだ」
思わず驚いた顔をするミコト。ユイトは話をつづけた。
「その後、身売りされていろんなことをさせられたよ。雑用はもちろん、盗みや殺しなんかもね」
「けど、ある時に元居た場所を抜け出して傭兵をするようになったんだ。で数人の雇い主を経て今に至るってわけだ」
ここで、あるミコトには疑問が浮かんだ。
「あの、歳を聞いてもいいですか? 私と変わらない年齢に見えるので……」
彼は少し考え込んだ後こう答えた。
「歳はわからないんだ、攫われたことが原因でね」
思わず「あ、ごめんなさい」とミコトは謝った。
それに対してユイトは「ミコトは何歳なんだ?」と返した。
「えっと、今は17歳ですね……」
その返答に、すこし考え込むユイト。
そしてこう言い放った。
「じゃあ、俺も17歳ということにしとこうか!」
そういうとミコトは一瞬驚いた顔をした。がすぐに
「……ふふっ、いいですね。じゃあ今日からユイトさんは17歳です!」
と、笑いながら答えてくれた。
その笑顔は、先ほどまでの不安な顔ではなく年相応の少女の顔だった。
から元気だったとしても、今は前を向いて歩いてほしい。
そう思うユイトだった。




