4章 1部「本当の俺」
川を駆け抜けるように渡河し、街道に出てからは馬よりも早く駆ける船は、追っ手を容易く振り払うことができた。
しかし、検問で包囲網を固められるのを避けるため、逃げる速度は変えずに逃げ続けていた。
ミコトは安心したのか横になって寝ている。
セッカも一息ついたところで、ユイトに質問を投げかけた。
「いいかしら」
「どうした、シズク様」
そう問い返すと、セッカは笑いながら「セッカでいいわよ、あなた知ってるでしょ?」と返してきた。
ユイトは、「そうか」とだけ返し質問の続きを促した。
「まずは、私たちを助けてくれてありがとう。
あと一歩で、敵の手に落ちていたわ」
感謝の意を述べたセッカであったがユイトはぶっきらぼうにこう返した。
「今回はあんたのためではない」
その言葉に、セッカは少し眉を吊り上げる。
「どういうことかしら?」
「言葉の意味のままさ。あんたを助けたのはミコトを生かすためだ」
その言葉にセッカは違和感を覚える。
ミコトを生かすために、セッカを助けた。
これはなにを意味するか。
「世界の守り、だったよな」
その発言に一瞬目を丸くするセッカ。
しかし、すぐに冷静になり質問を投げかけた。
「あなた、相当調べたようね」
「調べた、というより知っていたと言った方が正しいな」
「どういうことかしら」
ユイトは少し黙り込んだようも考えているようにも見えた。
「詳しいことは後で話そう。ミコトにもかかわりのあることだ」
「ミコトにも……? まあ、いいわ。ただ今、一つだけ聞いておきたいのだけど」
「なんだ?」
「これからどこに向かうのかしら?」
不安とも、畏怖ともとれる目をしながら聞くセッカに、ユイトははっきりと答えた。
「ひとまずは俺が確保している待避所に向かってる。だが、最後には」
ここで一つためて放った言葉に、セッカは理解が追い付かなかった。
「王都、だな」
***
「ミコト、起きろ。ついたぞ」
やさしく声をかけながら体を軽くゆする。
やがて、目が開きミコトとユイトは目が合う。
数秒見つめあっていたが、突然顔が真っ赤になると飛び起きた。
後ろに手をつき、倒れかかっている体を支えている。
顔を真っ赤にしながらもユイトを見続けていた。
「拠点についた。ここなら安全だし、衣食住は用意できるぞ。だからその……」
と、言い目を逸らすユイト。
しかしチラチラとこちらを見ており、その視線は体の方に向いているように見えた。
ふと、その視線の方向へ目線を落とす。
服は駐屯所でビリビリに破かれ、かろうじて局部が隠れている状態。
冷静に考えて破廉恥な格好そのものであった。
思わず声にならない声を上げるミコト。
手で隠そうとするが隠しきれていない。
「と、とりあえず、風呂とご飯行ってこい!」
と、この場を離れる理由を示してみるも、ミコトは動かなかった。
その様子に少し心配になりながら恐る恐る「ミ、ミコト?」と、聞くと震えながら聞くと
「ど、どこにお風呂とかあるの…?」
と聞いてきた。半分泣いている。
「あ、すまん。聞いてくる!」
と、慌ててユイトは走ってその場を離れていった。
***
ミコトとセッカに湯浴みとご飯を用意した後、ミコトとセッカはご飯を食べた家の隣宅へ案内された。
「御二方含め、女子衆はここで寝てもらいます」
そう案内してくれたのは、奪還時にはいなかったがこの拠点のお守りをしてくれていた、イノリの言う女の子だった。
戸を開け、中に入ると、奥に人影が1つ横たわっていてた。
布がかけられていて枕を置いてる様子から寝ているようだ。暗くて顔までははっきり見えない。
その姿を見ながら靴を脱ぎ、家に上がった。
が、突然ミコトが固まったかと思うと、寝ている人影へ飛びついた。
「アカリ!」
と、寝ていたアカリに覆い被さるように飛びついた。
その言葉に思わず「えっ」と声をあげるミコト。
アカリは飛びつかれた衝撃で流石に目を覚ましたようで
「……シズク……様……? 」
寝起きだからか、頭が回っていない様子だった。
「アカリ……よく……生きていてくれたわ……」
「シズク様こそ……よくぞ……ご無事で……」
と、二人は再会の涙を流していた。
「アカリさん……」
ミコトもアカリの近くまで寄って座り込んだ。
その様子を見て「ミコトか……無事で何よりだ……」と声を掛けた。
ミコトも声が出ないのか口元を押さえていた。
***
「んん……」
ユイトは窓からこぼれる朝焼けで目を覚ました。
あくびを噛み殺しながら、体を起こす。
付近には、数人が雑魚寝している。みんな奪還劇を手伝ってくれた仲間たちだ。
男衆はこっちで寝て女の子たちは隣の別宅で寝ている。
しばらくぼんやりしながら、昨日のことを振り返る。
(なんとか、間に合ったな)
最初に頭に浮かんだのはその一言だった。
ミコトたちと別れてから、今回の救出までの出来事が思い返される。
我ながら、中々の無茶をしたものだと思いふけっていると、一人の女の子が台所に立ちながら朝食を作っているのが目に留まった。
その姿をぼんやりとみていた。が、ユイトが起きたのに気が付くと深々とお辞儀をしながら挨拶をしてきた。
「おはようございます。主様」
「おはよう、イノリ。悪いな、手伝うよ」
「いえ、大丈夫ですよ。それより、別宅のみんなも起こしてきてもらえますか? 朝ごはんができましたので」
「なら、起こしてくるわ」
そう言い台所兼玄関を出て、別宅へ向かった。
別宅の戸を開けると、すでに全員起きており談笑していた。
ユイトが入ってくると、すぐにユイトに挨拶をした。
「「「おはようございます。主」」」
ミコトとセッカ、アカリ以外は全員が主とユイトのことを呼んだ。
ミコトとセッカはいつも通り、「ユイトさん!」「ユイト」と挨拶してくれる。
アカリは気まずそうに「おはよう」とだけ言ってきた。
「みんなおはよう。イノリが朝ごはんを作って作ってくれている。隣に集合だ」
そう言うと、ユイトの私兵の女の子たちは「はーい」と言いながら隣宅へ向かった。
しかしセッカは、その場を動かずにいた。
その様子に、ミコトもその場を動かずにいた。
「どうした? 朝ごはん、食べないのか? 」
と、声をかけると、「いえ、私も行くわ」と言い立ち上がった。
「どうかしたか? 」
「いえ、朝ごはんをいただいてから聞くわ」
そう言い残し、セッカは隣宅へ向かった。
ミコトとユイト、アカリもそのあとに続いた。
***
セッカは隣宅へ入ると、イノリが全員へ朝ごはんの粥をよそって配っていた。
ユイト達もそれを受け取り、部屋の一角に座り朝ごはんを食べた。
ユイトの私兵たちも、それぞれ思い思いの場所に座り、それをおいしそうに食べていたが、セッカは借りてきた猫みたいに居心地が悪そうであった。
それを誤魔化すためか、それともお腹が空いていたのか、朝ごはんを黙々と食べていた。
イノリが声を掛けたので、おかわりもしていた。
全員が朝ごはんを食べ終え、イノリは後片付け。
他の人間は円を囲むように座り今後について話そうとしていた。
最初に発言したのは、セッカだった。
「まずは皆さん、私とミコト、そしてアカリを救ってくれてありがとうございました」
そう言い、深々と頭を下げた。
そして、こう質問してきた。
「ただ、私たちはあなたたちが何者なのか。まだ教えてもらってないわ。
助けてもらった身で言うのも憚られるのだけど、あなた達を信用していいのか、わからない。
まず、何者なのか。教えてもらえないかしら」
その質問に対し、回答したのはユイトだった。
「誤魔化さず、正直に言えばこいつらは俺の元部下であり、工作員として活動できる訓練を受けた兵士だ」
「そう、ならあなたはやはり」
「ああ、そっちがつかんだという情報は結果から言えば正しい。
俺は軍直轄の諜報員の一人であり、先の【覇】との一戦では特殊工作隊を率いて戦った」
セッカはその言葉に、こめかみを押さえながらこう答えた。
「じゃあ、裏切者はカエデの他にあなたもいた、というわけね」
「そこは違う」
はっきりと否定するユイト。
「俺は軍属ではあるが、別任務の際に、消息を絶った。ということになっている」
「どういうこと? 存在を消す必要があったから、消えたということ?」
と聞き返したセッカ。
しかし、ユイトの回答は違った。
「いや、文字通り任務中に行方不明となっている」
セッカは疑問が拭えない顔をしながらも「なぜ、そんなことを?」と問うた。
それに対し、ユイトはこう答えた。
「過去をすべて捨ててでも、得たいものがあったのさ。当時の俺には」
そう、懐かしむような眼をしながら答える。
「ここから先は、俺の生い立ちから話した方が状況を理解できる。
少し長くなるが、聞いてくれ」
そういうと、ユイトは昔話を始めた。




