3章 10部「迫る騎馬」
だが、現実は非情で残酷であった。
「ミコト様、セッカ様、こちらに騎馬が接近中です。」
精霊が話しかけてきた。
「数は?」とセッカが質問すると
「数はおよそ100。騎馬してこちらへ向かっています」
その言葉に、ミコトはセッカの様子をうかがった。
「戦闘はしていないでしょうね」
「はい、ですがこのままでは間もなく視認されます」
二人の受け答えは淡々としていながらも、何か察しあっているような雰囲気をミコトは感じた。
「ミコト、そこの木の陰に来て。不可視化の魔法で隠れてやり過ごすわよ」
そう言うと、近くの木を指さした。
「戦闘は避けたので、おそらく素通りされるかと思います。それが良いかと」
「時間がないわ、早く」
と、急かされ、言われるがまま木の陰に隠れた。
そして、セッカが魔法を唱え、二人は大きな泡に包まれた。
「不可視化の魔法を張ったわ。大きな声とか出すとさすがに気が付かれちゃうからじっとね」
セッカが小声でそう言うと黙って頷くミコト。
そうしていると、馬の足音が聞こえてきた。
接近してきた騎兵たちは見るからに屈強で、その体は鎧に覆われおり、槍を持った兵士が先頭にこちらへ走ってきていた。
近づいてくるので足音は大きくなり、同時にミコトは見つかるまいと息を殺した。
騎馬たちはミコト達の横を小走りで駆けていく。
その様子を隠れて見守る二人。
そして、最後尾が真横を通り過ぎた。
二人は安堵し、思わずため息を漏らした。
そして、最後尾が見えなくなるまでは隠れているつもりで様子をうかがっていた。
が、最後尾は少し離れたところで止まり、何やら話始めた。
中心には、屈強な兵士の中であってもさらに筋骨隆々の屈強な男がいた。
おそらくこの小隊を率いている隊の将だとミコトは思った。
が、セッカの方を見ると少し違うようだった。
目を見開き、恐怖と焦りの色をにじませていた。
何かを知っていて、それに畏怖する表情に見えた。
集まっていた兵士たちはしばらく話し込んでいたが、突然全員がこちらを見た。
その瞬間、ミコトは凍り付いた。
反射的に逃げないと、と思ったがそれより早く反応したのはセッカだった。
手を前に掲げ、魔法の詠唱を始めた。
同時に、騎兵の一人がこちらに向かって詠唱しているのが見えた。
そして、二人はほぼ同時に魔法を放った。
双方が放った魔法は、互いにすれ違い敵に向かって突進し命中した。
互いの着弾点では砂埃が舞う。
が、砂埃が消えると、お互いに相対する敵の姿を視認することになった。
「私の部下の目を搔い潜るほどの魔法、見事な腕前だな。何者だ」
と、相対する敵将はまるで褒め称えるように聞いてきた。
だが、二人は何も答えることができなかった。
「名乗る名がないのか、名乗れぬ事情があるのか。あるいは両方。といったところか?」
と、問いを投げてくる敵将。
「いえ、前方より騎馬の音が聞こえました故、邪魔になってはいけないと隠れていただけです」
と、なんとか誤魔化しにかかるセッカ。
「ほう、その気遣い。ありがたいが、貴殿ほどの技量になるともはや脅威になるな」
と、敵将は言うと、少し沈黙した後、
「余計な問答は不要。おとなしく牢に戻ってもらおうか、姫」
敵将は騎馬して見下ろしながらそう言った。
「残念だけど、そうはいかないわ。私にはやることがあるもの」
それに物おじせずに言うセッカ。
「では、少々痛い目を見てもらいましょうか」
そして、突撃の号令をかけようとした。
が、ミコト達の周りに立ち込めだした霧に気づき号令はかからなかった。
霧からは骸の兵士が湧き出てミコト達の周りを囲む。
それも、10や20ではない数に敵兵も若干おののいていた。
「ミコト様、そのままお聞きを」
耳元で精霊の声がした。
「われらが足止めします。すぐにお逃げを。
ミコト様の魔力をかなりお借りしますが、どうかご辛抱ください」
この状況にあっても、まだ活路を見出さんとしている精霊だったが、どうにかなるのかと不安を抱える。
が、その思考を遮るように精霊はミコトとセッカにこう叫んだ。
「走って!」
その言葉に、二人は全速力で騎馬が来た方向へ走り出した。
「仕方ない。生死は問わん!追え!」
敵も敵将の檄により、こちらへ向かって騎馬で突撃してきた。
騎馬がまともに突撃してきたら数秒もかからずに殺される間合いであったが、
骸の兵士たちは捨て身の攻撃のおかげで、騎兵の突撃は止まっているようだった。
が、隙間から騎兵が抜け出してきて、殺さんと襲い掛かってくる。
それを骸の兵士が必死に抑えるいたちごっこ。
そんな逃亡劇が始まった。




