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プロローグ3「英雄召喚」

  そこからは歴史を教えるように、今の状況を姫様は話し始めた。

 

 「私たちが今いるのは、《月江都国》(つきのえのとくに)で東が海、西に大国《覇》(は)」、南に《焔丹賜国》(ほむらのえんたんのくに)という国があるわ」


「私は月江都国現王の妹である皇族、シズクよ。どこで聞かれるかわからないからこれからは姫様じゃなくてシズクって呼ぶようにね」


 ユイトは「わかった、シズク様」と言い、ミコトも頷いた。


「私たちの国は二代前の王の時代までは、精強な国として同盟国である《焔丹賜国》と共に《覇》を退けていたの。

 けど、父上である先代王の失政と、五年前に即位した現王による圧政で国力は疲弊しているわ。

 そこへ三年前にあった《覇》との戦争も加わり、民は見るからに疲弊しているの」


 彼女は少し悲しそうな顔をしながらも話を続ける。


「このままでは、日を増すごとに侵攻の野心が見えてきている《覇》にいずれ攻め滅ぼされてしまうわ。

 そこで決起した勢力が二つ、あったわ」


 シズクはユイトを見据えながらそう言った。


「ああ、一つは俺が参加していた現王政を打倒することを目標にしていた集団だ。

 俺はそこで雇われた傭兵だったんだよ」


 ミコトにもわかるようにハッキリ言った。


「そしてもう一つは私たちよ。現王を退位させて私が王になることを目標にしているの」


 シズクも同じようにハッキリと言った。


 そして、少しの間沈黙が流れる。


 ユイトはシズクを、シズクはユイトを互いに見つめていた。にらみ合いとも取れなくはないこの沈黙を破ったのはミコトだった。


「あの……、シズク、様」


 恐る恐るミコトがそう呼びかけ、二人はにらみ合いを解いた。


「何かしら?」

「シズク様はどうしてこの村にいるのですか? 皇族ならもっと豪華なところにいるものだと……」

「そうね、それも話しておかないとね」


 そうしてシズクは話を再開した。


「私には兄弟姉妹が何人かいたのだけど、ある時を境にみんな病気を患って死んでしまったの」


「病気、ですか?」


 ミコトはまさかという顔をしながらも話の続きを促す。


「実際には毒を盛られてみんな殺された、と私は思ってるわ」


 ミコトは悪い予感が的中し、若干気分が悪そうな顔になった。


「残るは兄が一人と弟が一人、そして私の三人だけとなって、役人たちはみんな兄と摂政の言いなりになったわ」


「敵だらけ、ですね」


「そう、敵だらけだった。だから弟と私はそれぞれ王都から脱出したの」


 そこでシズクの表情も暗くなった。


「多くの人間が殺されたわ。護衛の者はもちろん。私の影武者も。弟も」


「じゃあ残ってるのは……」


「ええ、兄弟は現王である兄と私だけ。そして兄の凶行は私が止めなければならないわ」


 王族としての使命から来ているのか、はたまた兄弟姉妹の復讐心から来ているのかはわからなかった。

 ただ、シズクの放ったその言葉にミコトはとんでもない重みを感じた。


「と、私が今置かれている状況はこのような状態よ」


 と、シズクはさっき一瞬放ったとんでもない重い雰囲気から一転、元のやさしい顔になる。


「二つ質問がある。いいか」


 そんな姫様にユイトが話しかける。


「内容によるけど聞くだけなら」


 警戒した面持ちながらも許可を出してくれた。


「では遠慮なく。一つ目はシズク様、あんたが本当に王女なのかということだ」


 全員がぎょっとした顔をした。当然だ。本物であれば失礼極まりない。


「おいお前、今度は遠慮なく(はらわた)を引きずり出すぞ」


 武人の女の子がガンを飛ばす。その反応は当然であろう。


「あんたらはこのシズク様を、王女であると疑わないだろう。だが部外者の俺はそれがわからない」


「……先に二つ目の質問を聞いてもいいかしら」


「二つ目は、なんでミコトを欲しがるんだ。私兵で奪還するほどの人物なのか?」


 ユイトの質問に対して、シズクの反応は返答ではなく質問で返してきた。


「答える前に聞きたいことがあるわ。あなた元居た場所はどうしたの?」


 それは、ここから先の情報はタダでは出せないと暗に促している。


「……どこから情報が漏れたのかわからない。しかし、潜伏拠点を夜襲され主要な構成員は殺されたか捕縛された」


 姫様はすこし険しい顔で疑問をぶつけてきた。


「彼らを助ける気はないの?」


「俺は奴らの思想に賛同したわけではない。金で雇われていた傭兵だよ」


 平然と言い切った。


「なら、なぜあなたは生き残ったの?」


 姫様は次の質問を投げてきた。質問の本命はこちらだろう。


「俺の任務は本部から各地へ指令の伝達をするのが任務だったからな。たまたま拠点から離れてる際に襲撃を受けたから、こうしてここにいれるわけだ……

 以前姫様とあった際は、各地を歩き回って得た情報を持っているから同行した」


「なるほど……」


 少し思案を巡らせた後、口を開いた。


「あなたは私たちに雇われるため、ここに来た……という認識で合っていますか?」


「相違ない」


「そうですか、であれば質問に答えるとしましょう。良いですね? 四人とも」


 老人は「望むままに……」と異を唱えることはなかった。

 他三人は無言のまま姫様に目くばせした。


「王女である証はこれよ」


 そう言いながらくびから下げているひもを引っ張った。

 するとひもが通されている指輪が出てきた。

 薄い青色をしているが、青銅とは違う輝きを放っていた。


「以前の会談であなたも見たと思うけど、もう一度見せてあげるわ」


 そういいながら指輪を左人差し指をつけると、澄んだ青い光を放ち始めた。


「王家の血を引くものが持つ《血の指輪》だな」


「血……」


 ミコトは驚いた顔をしつつ恐る恐る話を聞く。


「特殊な金属と王家が持つ血を使って作成される指輪。この指輪が光るってことは王家の人間であり、この指輪の持ち主であることの証明になる。

 確かに、あんたは王女様だ。失礼なことを聞いた」


 ユイトは素直に非礼を詫びる言葉を述べた。

 一方、ミコトは「なんというか、きれいな色の指輪ですね」と、思わずつぶやいた。

 姫様はふふっと微笑みながら「ありがとう」とミコトに優しく言った。


「で、もう一つの質問にも答えてもらえるか?」


 と、次の質問への回答を促した。


「ええ、あなたは禁呪魔法について知っているかしら」


「名前だけなら聞いたことがある、程度なら」


 禁呪魔法は世界をも滅ぼす可能性のある魔法がこれに該当する。

 噂では、大量に人を殺したり制御不能の怪物を呼び出すこともできる、らしい。

 子供がいうことを聞かないときに、この禁呪魔法で呼び出されるとされる伝説上の怪物がお前を食べにくる、と脅し文句に使われる。

 言わば、伝説みたいなものだ。


「私は戦力を欲していたの。そこで覚えていた禁呪魔法の一つ、英雄召喚を実行したの。

 私が異世界から召喚した者こそ彼女、ミコトよ」


 そこで、しばらくの沈黙が流れた。

 ミコトは呆然としながらも唇を震わせて、ユイトは複雑な表情をしていた。


「えー、つまりなんだ」


 ユイトは何を言うか考えた後


「つまりミコトは異世界から召喚した英雄様?」


「そうよ」


 平然と言ってのけたシズクに対して、ユイトは怒った。


「いやどう見ても英雄じゃなくて、一般人じゃないか。元の世界に返せないのか?」


「私たちの目的を達成しないと無理ね」


「呼ぶだけ呼んどいて、返せないって無茶苦茶だろ! ミコトが何かできるとは思えない!」


 そう言い合いをしていると、ミコトが急に動き外へ駆け出してしまった。

 慌てて、巫女服の女の子が後を追って飛び出していった。

 その後は、部屋は静寂が流れお通夜の雰囲気になった。


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 部屋を飛び出してからどれくらい経っただろう。


 さっき飛び出したはいいものの、どこに行けばいいかわからず、ユイトさんが起きるまで寝ていた家に戻ってきた。


 さっきの話と、直近の出来事を総合すると私は異世界に召喚された。

 よく創作物とかだとここから冒険が始まる。なんてストーリーが待っているが私はそんなこと望んでいなかった。



 普通に暮らして、家族とご飯を食べて、学校に行く。



 そんな日常を、奪われた。



 お父さんとお母さんは絶対心配してる、けどこのまま帰れないかもしれない、ここで死ぬことになるかもしれない。



 そう考えるだけで、心を握り潰され、涙も、声も、止まらない。 息が、苦しい。



 そうこうして大泣きしていたら、巫女服のお姉さんが来てくれて慰めてくれた。



 巫女服のお姉さんは私の話を聞いた後、お姉さんの過去についても話してくれた。


 お姉さんはカエデと言って生まれてから姫様にお仕えしてきた。


 もちろん、王宮脱出の際にもお供し、影武者が殺されてしまったものの無事に逃げ延びた経緯も教えてくれた。


 そしてカエデさんのせいじゃないのに謝罪もされた。


 そして、できうることはしてくれるとも言ってくれた。


 その気持ちはすごくうれしい。けど、心はやっぱり晴れない。


 けど、元の世界に帰れない現実はどんな言葉をかけてもらっても何の慰めにもならない。


 いっそ一思いに……と思っていたところにユイトが引き戸を開けて帰ってきた。


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