3章 1部「虜囚の姫の末路」
捕らわれたミコトとセッカは、日没までに最寄りの駐屯地へと護送されていた。
二人は手に縄をかけられた上に、魔法が発動できないよう拘束具となる腕輪をはめさせられ、建物の一室に入れられた。
寝床や机が用意されているところを見るに、客間か将校用の部屋を利用しているようだ。
牢屋ではないのは、おそらくここには囚人を入れるための牢屋がないのであろう。
その代わり、扉や窓の前には常に番兵が付いて監視しており、目を盗んで逃げることはできない。
二人は、床に座るが重々しい空気が流れ、会話できる雰囲気ではなかった。
それでも、先に口を開いたのはミコトであった。
「あの、シズ……セッカ様」
「何?」
「これから私たち、どうなるんでしょうか……」
ミコトは恐る恐るといった様子でセッカに聞いた。
セッカはしばらく沈黙した後、こう返した。
「私はどうあっても死罪でしょうね。
それも、苦痛を与えるべく簡単には死ねないようにね」
その言葉を聞いて同じ末路を辿ると悟り、ミコトは青ざめる。
しかし、セッカの次の言葉は、ミコトの予想とは違うものだった。
「けどあなたは違うかも……しれないわ」
その言葉に、藁にもすがる思いで「どうしてです?」と聞き返すミコト。
「あなたは召喚された異世界の人間ですもの。
利用価値は十分あるでしょうね」
「利用……価値……?」
「魔法の実験台か、あるいは洗脳して戦力として置いておくか。
どちらにしても、召喚魔法で呼ばれただけで優秀な素体ではあるのだから、簡単には殺さないでしょうね」
その返答を聞き、ミコトはある疑問をぶつけた。
「セッカ様と一緒にいる時点で反逆者として処刑……されるんじゃないんですか?」
「その可能性もあるけど、カエデから召喚の話は筒抜けになっているわけだし、その素体を簡単には殺しはしないでしょうね」
その言葉に若干の安心を覚え、大きく息を吐くミコト。
しかし、セッカの次の言葉で、凍り付くことになる。
「けど、私が殺されれば、あなたも無事ではいられないわ」
「どうして……ですか?」
「私が死んだら、あなたも遠からず死ぬからよ」
ミコトはその言葉の意味が分からなかった。
「さっき簡単には殺されないって言ってましたよね。
それなのに、なぜ死ぬんですか……?」
その問いに、少し間を開けてセッカは話し始めた。
「私が召喚魔法を使ってあなたを召喚した。
けど、召喚魔法も万能じゃないの。
いえ、これも織り込み済み。なのかしら」
ミコトは意味が分からない様子で、セッカを見ていた。
そして、セッカはある事実を話した。
「この世界に生まれた人間というのはね。生まれながらにして一種の加護のようなものがあるの。
私たちは、これを【世界の守り】、と呼んでいるのだけれど」
「世界の守り……」
「けど、召喚魔法で呼ばれた人間には世界の守りが発揮されないの。
結果、どうなるかというと、あらゆる病気や悪霊に取りつかれて死ぬ。と言ったことになるの」
その言葉を聞いても、いまいち理解が追い付かなかったミコト。
その様子を見て、セッカはもう少し要約して再度告げた。
「要するに召喚された人は、すぐに病気や悪霊に取りつかれて死ぬのよ。本来は」
その言葉を聞いてミコトは疑問を投げた。
「けど、私は死んでない……ですよね」
「ええ、私が生きている限りは、召喚した縁を使って【世界の守り】をあなたへ付与することができるもの」
「付与する……ということは、まさか」
「ええ、私が死ねばその付与が無くなる。ということね。
無くなった後どうなるかは、さっき話した通りよ」
どうあがいてもこの先に待つのは死だと悟り、生気を失うミコト。
「一応、後天的に【世界の守り】をあなたへ付与することもできるのだけれど」
「どうすればいいんですか!?」
思わず、食い気味に問うミコト。
「それは……」
と、若干言いよどみながらも答えようとした時だった。
勢いよく戸が開かれ、中に男数人がぞろぞろと入ってきた。
各々の顔は不敵な笑みを浮かべており、ロクなことは起きない予感がしたミコト。
セッカは、この後何が起きるのか薄々察したようで青くなった。
「へへ、上玉だぜこりゃ」
「ついてるぜ、楽しませてもらうかぁ……」
ひそひそと話をしている兵士たち。
そして、兵士達がこちらに近づいてきたかと思ったら二人それぞれを座っている状態から力でねじ伏せるように押し倒してきた。
「きゃ!?」
「ひゃあぁ!?」
思わず声を上げるセッカとミコト。
覆いかぶさるように押し倒してきた兵士は、手を頭の上で押さえるようにしており、身動きが取れない。
「おい!こいつの手を押さえとけ!」
「嫌!!」
「何するのよ!!」
セッカとミコトは抵抗しようとするが、多勢に無勢。おまけに体格差もある。
手足を押さえられた上に足も掴まれて身動きが取れなくなる。
さらに、何かを切り裂く音がミコトには聞こえた。
その方向を見ると衣服を小刀で切って無理やり脱がされ半裸状態になっているセッカが目に映った。
「危ないから、おとなしくした方がいいぞ……?」
と、小刀を持った男がこちらにも来て、服に手をかける。
「嫌……やめて……」
と、儚い声で懇願するも無視され、同じように衣服を切り裂かれる。
「お前らしっかり押さえておけよ」
切り裂かれた後は、さらに引きちぎるように衣服をはぎ取られる。
こうして、全裸に近い状態まで服をはぎ取られた二人。
もぞもぞと抵抗しようとするも、男の力で押さえつけられる。
それでも、抵抗しようとセッカは、胸を触ろうとしてきた兵士の手に嚙みついた。
「いでっ、いででででででで。何しやがる!」
と、噛みつかれた兵士は、お返しと言わんばかりにセッカへ渾身の拳を顔面へ数発叩きこんだ。
「っっ!!……」
顔面を殴られたセッカは急に大人しくなり、何も言わなくなった。
「そんな……いやぁ……」
ミコトは、もはや恐慌状態で手足を震わせ、抵抗する腕にも力が入らなくなっていた。
胸を触られても何もできず、ただただ、されるがままだった。
そして、目の前にいる兵士はもぞもぞとしかたと思うと、おぞましいものを下腹部から取り出した。
「嫌……ぃやぁ……」
その光景を見ても、何も抵抗することはできず、恐怖で失禁してしまう。
が、そんなことはお構いなしに、下腹部のおぞましいものを手にミコトへ覆いかぶさった。
目の前には鼻息を荒くした兵士、おぞましいものが今まさにミコトを蹂躙しようとした。
「誰か、助けて……助けて!」
涙で歪む視界。諦めか、絶望か。その瞼を閉じ、蹂躙される。
顔に生暖かい液体の感触がかかり、ミコトは目を閉じながらも泣き続けた。
しかし、先ほどまで騒いでいた兵士たちが突然静かになった。
恐る恐る、涙でにじむ視界を開けると、目の前にあったはずの兵士の顔が消えたいた。
消えたというのは比喩表現ではなく物理的に消えて天井が見えたのだ。
やがて、力なくミコトに覆いかぶさって倒れる兵士。
ただ、兵士には頭がなく、その頭はミコトの右に転がっていた。
そして、兵士たち全員はミコトの左側にいる、何かを見ていた。
全員が、ポカンとした表情をしていたが、やがて事態を理解したのか青くなっていった。
ミコトも恐る恐る左側を見てみるとそこには
一体の骸骨の兵士が立っていたのだ。




