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2章 4部「昔話」

 シズク達は、早々に第二拠点としていた村をその日のうちに放棄し別の待避所へと移動を開始した。

 ミコトは何が何だかわからないまま荷車に乗せられ、何が起きたのかを質問できたのは、村を出て1日が経ってからであった。

 山道を荷車が一列になり進む。

 アカリとカエデは前に並んで前方を警戒している。


「シズク様」

「何かしら?」


 シズクは物腰柔らかく話してはいるものの、何か警戒した様子で返事を返してきた。


「昨日起きたこととユイトさんが言ったことです。教えてもらえませんか?」


 その問いにシズクは黙り込み、しばらくは答えなかった。

 しかし、少し経って口を開いた。


「どこから話したらいいのかわからないけど、そうね。

 まずは、ユイトについて話しましょうか」


 と核心から話題を逸らすように話し始めた。


「さっきも言ったけれど、ユイトは現王政の間者だったわ。

 それもよく訓練されたね」

「間者……」


 気兼ねなく接してくれて身近だった人が実は敵だったことは容易には信じられない様子だった。


「で、尋問を行ったけど口を割らなかった。

 だから、処刑したわけだけど、そこにいたのは本人ではなかったのよ」

「本人ではなかった……?」


 確かにあの場でユイトと話をしているのに本人ではない、と言われ困惑するミコト。


「魔法としては相当特殊な魔法、あるいは精霊魔法でしか再現できない。

 自身と瓜二つの体を作成し、操れる魔法。といったところね」

「じゃあ、あの場にいたのは偽物……?」

「そうね、動かせる偽物。と考えていいわね」


 その言葉に少し安堵するミコト。

 しかし、別のことが頭をよぎった。


「けど、ユイトさんが敵だったなんて……」

「にわかには信じられないでしょうけど事実よ」


 ミコトはとても複雑な心境を抱く。

 最初に山賊から救ってくれたことも、気遣って釣りなど気分転換に連れて行ってくれたことも、すべて腹の下に一物を隠していたというのは裏切られた気がしていた。

 しかし、同時に別れ際に聞いたことも気になっていた。


「それじゃあ……ユイトさんが言っていた、隠していることって何ですか。

 死ぬ前に……死んでないですけど、死ぬ前に言っていたセッカ姫……って誰ですか?」


 この問いに、思わず体をこわばらせるシズク。

 そして、何かを隠していると感じたミコト。

 しばしの沈黙が流れた後、


「そうね。少し昔話をしましょうか」


 と、シズクは語り始めた。


 ***


「私には兄弟姉妹が数人いたわ。けれど、そこに数えられない姉妹が一人、いたわ」

「その人がセッカさん……なんですね」

「ええ、彼女だけは他の兄弟と違い母親が農民の娘だったので正式な王族には迎え入れられなかったの。

 王宮にも出入りできない庶民として育てられたわ」


 まるで小説で見たかのような話に圧巻されてしまうミコト。

 そんなことはつゆ知らずにシズクは話をつづけた。


「けれど、セッカはある時、王宮に召し抱えられたの」

「急にですね。どうしてですか?」

「一つは魔法の才を見込まれて、もう一つは私と似ていたからよ」


 その言葉で、ミコトは察した。


「影武者……ですね……」


 その言葉にシズクはんーと首をかしげながらも


「あなたの世界では替玉のことをそう呼ぶのね……。その影武者としてセッカは召し抱えられたわ。

 それ以降は存在を隠されつつも私は姉妹としてセッカに接してきたわ。」


 懐かしそうに思い出を語るシズク。しかし、その結末をミコトはなんとなく察しながら話を聞いていた。


「セッカの最後は……察しているとは思うけれど、王都脱出の際に、替玉として討たれたわ」

「そう……なんですね」

「ユイトがそこまで知っている、ということはセッカを殺した。あるいはそれに近い働きをしていたのでしょうね」


 その言葉にミコトはユイトの言葉を思い出す。


「ユイトさんが言っていた、隠していることがあるって言っていたのは……」


 その問いに少し考え込んだシズク。


「思い当たる節は……ないわ。少なくとも、あなたを元の世界に戻す方法には嘘はないし」

「なら、なんでそんなことを……」

「彼は間者だった。その時点でこちらを欺くための世迷言だったのじゃないかしら」


 ここで会話は途切れ、ミコトは考え込むこととなった。

 ユイトは間者だった。それには違いないだろう。

 しかし、彼との別れ際に聞いた言葉は、嘘には感じられない。

 どうしても信じようとしてしまう。

 そのことで、この気持ちは一体何かと考えてしまう。

 しかし、その思考は別の形で打ち切られることになる。


「シズク様、検問です」

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