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第28話 元童貞、デートする

「ここで良かったんだよな」


 僕はひとり、ランべルの街で贅沢品を扱う店が立ち並ぶ一角に来ていた。

 この街に辿り着いてから今まで一度も来たことのない縁のない場所である。

 現代日本で例えると銀座とか表参道とかだろうか。

 街並みが醸し出す高級感とオシャレ感はどうも居心地が良いものではない。


 なぜ、こんな場違いなところにいるのかというと朝起きたら部屋のドアの隙間に手紙が挟まれていたからだ。

 差出人の名前は書かれていなかった、というより忘れていたのだろう。

 でも誰が書いたものかはすぐに理解し、喜び勇んでやってきたのだ。


 男性向けの衣料品を取り扱う店のショーウインドウに映り込んだ自分の姿を見て手櫛で髪型を整える。

 そうしていると、


「櫛も使わず整髪料もつけずに何をやっているんだ」

「あっ、師匠。

 おはようござ————いっ!?」


 聞き慣れた声と予想外の装いのギャップに僕は一瞬固まった。

 夏の暑さを忘れそうになるくらい、眩い白雪のような色をしたワンピース姿。

 陽射しを嫌うように肩幅よりも長いつばをした帽子の影で身体を包むその顔貌は刻まれた傷を隠すかのように白粉が塗られていた。


「……師匠、オシャレですね」

「まあな。早く店に入るぞ」


 そう言ってレクシーは目の前の店に入ろうとする。


「あの、その店は男向け」

「だからだよ。

 お前のその格好ではあたしと釣り合いが取れないだろうが」


 しかめ面でそう言うと堂々と店に入っていく。

 僕は慌てて彼女を追いかけた。



 数十分後、服だけでなく帽子や靴までフルコーディネートされた僕は店を出た。


「なんかすみません。

 全部買ってもらっちゃって」

「大した額じゃない。

 これでも高給取りだからな」

「そりゃあAランク冒険者だからお金はあるんでしょうけど、命懸けで稼いだお金じゃないですか。

 自分のために使った方が」

「自分のためさ。

 少年を着飾らせて居心地よくしているのだから」


 光沢のある布で作られたジャケットとスラックス。

 中に着るシャツの着心地は雲を着ているような心地よさ。

 艶やかな黒光りを放つ革靴に全身のシルエットを整える冠のようなハット。

 僕の年齢では背伸びしている感は否めないが洒落ていて高級感のある装いだ。

 貴族夫人さながらの上等な美女と化したレクシーの隣に立つにはこれくらいじゃないと足りないだろう。


 だがまいったな。

 貴族令息時代の社交の場なんかではそれはもう着飾ったものだが、市井において着飾って行くべき場所なんて心当たりもない。

 レクシーとデートすることになったらここに行こう、とチェックしていたのは大衆向けの食堂や芝居小屋とかでこんな格好で行っても浮いてしまうのでは……


「よし。じゃあ行くぞ」

「へっ? あ、はい」


 悩む間もなくレクシーはスタスタと歩き出す。

 いつもの半分くらいの歩幅で楚々と歩いているにもかかわらず僕は後ろから追いかけっぱなしになった。



 レクシーに連れられて入ったのは実家を思い出させるような高級感が漂うお屋敷だった。

 外観もさることながら中も年代物の調度品が並び、僕らと同じように着飾った男女がお茶を飲んだりソファに座って語らったりしている。


「ここは、なんなんですか?」

「貴族の間では好事家が集まってサロンを開いたりするだろう。

 あれの真似事さ」


 テーブルに近づくと執事風の男が椅子を引いてくれた。

 レクシーが腰掛けるとこの屋敷の主人と思われる小太りな男がそそくさと現れた。


「これはこれはレクシー様!

 お越しいただけるなんて光栄でございます!

 普段の凛々しいお姿もさることながら着飾られると王族の姫もかくたるやというお美しさでございますな」


 なかなか目利きができるじゃないか、主人。


「そちらのお連れ様は?」

「あたしの弟子だ。

 たまには良い場所で良いものに触れる機会を与えてやろうと思ってな。

 これも修行のうちだ」

「なるほど今年の大会で優勝されたとかいうご自慢の。

 ぜひ、お師匠さまに倣って当サロンの会員に入れるようになってくださいまし」

「メンバー、ですか?」

「ええ。見てのとおり貴重な品を扱う場所でございますので品格、人格ともに優れており、また名声のある方とお連れ様のみをお招きしているのです。

 レクシー様はこの街で唯一冒険者でありながら会員に選ばせていただいたお方です」

「もっとも、ほとんど来ることがない幽霊会員だがな」


 帽子を取ったレクシーは白い歯を見せて笑う。

 めかしこんでいてもいつもの彼女であることが感じられて心がほぐれた。


「なんだかエスコートされっぱなしですね」

「当然だ。

 あたしは師匠で、少年とはひと回りも違う年上の淑女だからな」


 年長者を気取るレクシーだが、前世の寿命も加えれば僕の方が歳上だ。

 だが、そんなことを考えるのは野暮というものだ。

 年上のお姉さんに今まで触れたこともない大人の社交場に連れて行ってもらえるイベントなんだから余計なことを考えずに童心に帰って楽しめばいい。


 それから僕たちはお茶と軽食をいただきながら会話を楽しんだ。

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