66. さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい、良いのが揃ってますよ~
「さて……と」
「顕現せよ!あらゆる災厄を防ぐ至高の盾!」
四人中三人を撃破したダイヤは、当然残りの一人もターゲットにする。
「顕現せよ!顕現せよ!顕現してえええええ!」
最後の一人は魔法職。
ここまで残っているのだから体術もそれなりかもしれないが、勇を一蹴するようなダイヤに対抗できるレベルのはずがない。
しかも慌ててミラクルメイカーの奇跡を行使したけれど、運悪く失敗してしまう。
「いや……こないで……」
「ぐへへへ」
「いやああああああああ!誰か助けてええええええええ!」
「(何か楽しんでない?)」
良い反応をするものだから思わず揶揄ってしまったのだが、本気で怖がっているように見えるのに何処となく怯える動きが演技臭い。お化け屋敷のように怖がりながらもスリルを楽しんでいるのではないだろうか。
「木夜羽 奈子さんだよね。僕のハーレムに入らない?」
「いやああああああああ!ロックオンされたああああああああ!犯されるうううううううう!」
「(やっぱり楽しんでる気がする)」
試しに誘ってみたら号泣しながら拒絶されたのだが、やはり何処となく動きが演技臭い。とはいえ本気で怖がっているのも間違いなさそうだ。ダイヤの勘でも彼女の真意がまだ分からず、攻めるべきか止めておくべきか非常に悩ましい。
「とりあえず、今はこのくらいにしておくね」
「!?」
じっくりと考えたいところだけれど、時間が勿体ないため諦めることにして、素早く移動してハチマキを奪い取った。
「じゃあね。音によろしくね~」
心の中のメモリーに彼女のことを刻みつつ、ダイヤは次の戦場を探す。
すると一人のクラスメイトが誰とも戦わずにポツンと立っているのを発見した。
「桃花さん、まだ残ってたんだね!」
「貴石君!」
それは暴走特急のブーストに大いに役立ってくれた桃花だった。能力的には低い部類に入る彼女がまだ残っていたことに驚きつつも喜んだ。
「あの、やってみたい作戦があるんだけど……」
「分かった、そっち行くよ!」
ここで堂々と説明してしまったら他の人に聞かれてしまう。幸いにも周囲は彼女を無視して戦いに熱中しているため安全だろうと判断し、ダイヤは彼女の元へと向かった。
「(あれ、何か違和感がある)」
それが何なのか分からず、警戒を強めながら桃花の元へとゆっくりと進む。
「(桃花さんが戦いに参加してないのは、戦闘ペアの都合上偶然ってことだよね。確かに皆は互角の勝負をしているから桃花さんに手を出す余裕は無さそうだけど、そもそもこんな偶然ってある?)」
あるか無いかと言われればあり得る話なのだが、どうにも釈然としない。
「(誘いこまれてるってのは考えすぎかな)」
もしその予感が正しいとすると、桃花がダイヤを誘うエサであるということになる。
「(まさか偽物?)」
スキルで姿形を変えた偽の桃花を用意し、ダイヤを罠に嵌めようとしているのではないか。
確証は無いが、疑っておくに越したことは無い。
「桃花さん!今日のパンツの色は?」
「突然何言ってるのおおおおお!?」
いきなりのド変態発言に真っ赤になって叫んでしまう桃花。
「(素の反応だ。偽物の線は薄いかな)」
変身系スキルの中には対象の記憶や性格まで読み取るものがあるが、それは新入生が覚えられるレベルのものではない。ゆえに中身が彼女のままなら偽物では無いということになる。
「ごめんごめん。桃花さんが本物かどうか試したくってさ」
「意味わからないよ!?」
謝りながらダイヤは桃花の所まで辿り着いた。
「…………」
「…………」
一瞬。
傍から見ていたら誰もが気付かない程にあまりにも短いその時間、ダイヤと桃花の視線がぶつかり合った。
「そんな恥ずかしいことを言う貴石君にはお仕置きだよ!」
「え?」
突然、桃花の手がダイヤの方に伸びて来た。
柔らかそうな頬を抓るのでもなく、頭を叩こうとするのでもなく、その手は真っすぐにハチマキへと向かっていた。
「!?」
とっさに反応出来たのは桃花を疑っている気持ちがまだ残っていたからだろうか。
慌ててバックステップでそれを躱した。
「ごめんね、貴石君」
「どうして!?」
だがその疑問の答えを考える余裕など与えてはくれない。ダイヤが動揺している隙を狙い、周囲で戦闘していた生徒達が殺到して来たのだ。
「(やっぱり罠だったのか!)」
素早さに特化した新入生達がダイヤのハチマキに向けて手を伸ばすが、それをダンスするかのように軽やかなステップで躱し続ける。
「クソ、あんだけ走り回ってたのに何で疲れてねーんだよ!」
「掠りもしないとかどうなってんだ!?」
「(そりゃあそれだけ鍛えてるからね。スタミナだけは誰にも負けない自信があるよ)」
躱されても飛び掛かり、躱されても飛び掛かり、逆に彼らの方に疲れが見えてしまう。ダイヤが最低限の動きだけで避けているとはいえ、無尽蔵とも思えるスタミナに彼らは苛立ちを隠せない。
「(罠ってこれだけかな。ううん、違う。どこかに誘導されている気がするし、これもまた誘いなんじゃ)」
自由に避けていると自分では思っているが、特定の方向に進まされているような気もしていたのだ。スピード自慢達は襲い掛かる角度を調整し、敢えて逃げやすい方向を生み出し、ダイヤの進行方向を固定させようとしていた。
そうして誘い込まれた場所で何が起きるのか。
「炎壁!」
「氷壁!」
「風壁!」
「土壁!」
「何これ!?」
突然、ダイヤの四方に四つの壁が出現した。
炎、氷、風、土。
いずれも力任せに突破できるものではなく、ダイヤは完全に閉じ込められてしまった。
「この高さの壁をもう作れるだなんて、やるぅ」
壁系スキルの硬度や高さや厚さなどはスキルレベルに応じて決まる。ダイヤの背よりも高い壁を生み出せるということは、四月の間にかなり修練を積んでレベルを上げたという証だった。
「でもまだまだだよ!」
完全に閉じ込められたわけでは無く、脱出経路は残されている。
「ほっ、ほっ、ほっ!」
ダイヤは土壁と氷壁を交互に蹴り、壁ジャンプをして壁の上に登ったのだ。
「もらったあああああああ!」
「!?」
壁の上に着地した瞬間、なんと男子生徒が真横から真っすぐ宙を飛び襲いかかってきた。浮遊系スキルはかなり経験を積まなければ覚えられないはずなので、ダイヤはこのイベントでは上空からの攻撃はほとんど無いと思い込んでいた。
完全に虚を突かれ、今度こそ対処が間に合わない。
「まだまだ!」
ダイヤは咄嗟に体を大きく後ろに逸らし、足を壁の上に乗せたまま上半身を壁囲いの中に入れた。
「なにぃ!?」
そのため男子生徒はダイヤの身体の上を通過し、ハチマキを手にすることなく飛び去ってしまった。
「ふん!」
それを確認してから上半身を一気に起こして壁の上にしゃがむ形になった。全身の筋力がかなり鍛えられていなければ出来ない芸当だ。
「まだよ!」
ほっとする隙すら与えられない。
今度は背後から別の女子生徒が飛んできた。
「しつこいなぁ」
先ほどは虚を突かれたが、今回は心にゆとりがある。背後から攻めて来たのならば壁をそのまま前に降りれば簡単に避けられるのだ。
ダイヤは足に力を入れ思いっきり跳んだ。
後ろへ。
「え!?」
飛んできた女子の上をバク宙で越えながら反対側の壁の上に着地する流れは、大道芸やサーカスを見ているかのようだ。ダイヤはそのまま今度こそ壁を降りた。
「(あのまま前に降りたら罠がありそうだったからね)」
その嫌な予感があったからこそ、彼らの裏をかくために敢えて襲って来た背後方向へと逃げたのだ。
これで裏をかけたので、今度はダイヤの反撃のチャンス。
だがまだそうは思わせてくれなかった。
「待ってたぜ!」
「え!?」
ダイヤが裏をかこうとすることを読まれていたのか、壁の下には体育会系と思われるがっしりした体つきの男子生徒が待ち受けていた。
「捕まえた!」
着地した瞬間に腕を掴まれてしまい身動きが取れない。絶体絶命だ。
「終わりだ!」
パワー系男子は力任せにダイヤの身体を引き寄せ、ハチマキに手を伸ばす。
流石のダイヤもこれで終わりか。
脱落したギャラリー達の多くがそう判断して息を呑んだ瞬間。
「うわ!?」
ダイヤを掴んでいた男子生徒が地面に倒れた。
「惜しかったね!」
腕の拘束が解け、その場から脱出するダイヤ。
「なんて力だ!」
倒れた男子生徒が自らの身に起きたことが信じられないといった風な表情で驚愕する。
掴まれたダイヤは力任せに彼を地面に倒したのだ。
合気道的な技では無く、純粋な力技でパワー系男子に力勝ちした
「(だから鍛えてるんだってば)」
スピードも力も、何もかも圧倒している。
そのことを思い知らされた彼らは、ダイヤを囲っていて有利な状況のはずなのに攻撃を躊躇ってしまう。
これで今度こそようやく一息つくことが出来た。
しかしなんと、それすらも彼らの狙いだったのだ。
ダイヤを恐れ躊躇している風を演出することで、ダイヤを安心させて隙を生む。
いつの間にかスキルで姿を隠した生徒がダイヤの背後まで忍び寄っている。
「(貰った!)」
襲撃者は勝利を確信した。
明らかにダイヤは自分の存在に気付いていない。
この手は確実にハチマキを奪いとれる。
「貴石君!」
「え!?」
「なにぃ!?」
だがなんと彼らの間に桃花が体を滑りこませ、盾となったではないか。
「くそ!」
「きゃ!」
襲撃者は予定を変更して桃花のハチマキを奪い逃げ去った。
「桃花さん!」
「ごめんね貴石君。私、私……」
「何も言わないで。唆されたんでしょ。あいつに」
ダイヤが視線を向けた先には、袴を着用した一人の男子生徒が立っていた。
「ほう、気付いてましたか」
「まぁね。こんな詰将棋みたいな攻めをしてくるなんて、『英雄』クラスの知光君くらいしか思い当たらないし」
ダイヤの行動を読み切り、僅かにでも判断を誤れば即座にハチマキを奪い取られてしまう流れるような連続攻撃は綿密に考え尽くされたものだ。ダイヤの実力や性格を正しく把握し、常人ならば詰むと確信してもおかしくない状況すらも打開するだろうと読み、その先に更なる罠を敷き詰める。
レア職業『軍師』に就いている者が裏に居ることをダイヤは逃げながら気付いていた。
「その袴は周囲の認識を誤魔化す効果があるのかな?」
「こうして見破られてしまえば効果が無い物ですがね」
見つからないように隠れながら指示を出していたのだろう。
「しかし某の策を全て突破するとは」
「それも予想通りだったんでしょ?」
「予想はしていました。ですが途中で終わる可能性の方が高いと踏んでいたのですよ。鋭い判断力に高い身体能力、驚愕に値します」
「褒めてくれたのかな、ありがとう」
珍しくダイヤは相手を揶揄おうせず、集中して周囲の様子を探っている。それだけ油断のできない相手と言うことだ。
「そうそう、某にも一つだけ予想外の事がありました。李茂嬢、何故裏切ったのですか?」
「そもそも最初からあなたの仲間になるつもりなんて無かったもん」
「それは妙ですね。某共の庇護下に入ることは貴方にとって安全で楽しい学生生活を享受するための最高の条件のはず。実際、あれほどに喜んでいたではありませんか」
「(なるほど、そうやってメリットを提示してこれだけの人を揃えたんだ)」
ダイヤを襲ったのは、それぞれ別のクラスの生徒達だ。どうやって即席のチームを組んだのかとダイヤは疑問だったが、彼らにとって美味しい条件をエサにして釣ったのだ。
だが中にはエサを喜んで食べたと思いきや、吐き出していた人も居た。
「あはは、私の演技も中々だったってことかな。それとね、確かにあなたの条件は魅力的だけど、もっともっと安全で楽しそうなところを既に見つけちゃってるんだ」
「そのようなところがあるとは信じがたい」
「軍師さんでも分からないことがあるんだね」
「…………駒風情が!」
ハチマキを取られてしまった腹いせなのか、それともダイヤに感化されてしまったのか桃花が知光を煽る。ダイヤと違い、彼女のことは格下の駒とでも思っていたのだろう。予期せぬ反撃につい怒りを表に出してしまう。
「そういう風に皆を見下しているから貴石君に負けるんだよ」
「某はまだ負けてない!」
「少なくとも最初の作戦は破られたよね」
「ぐっ……貴様が裏切らなければ某が勝っていたのだ!」
「甘いね。大甘だね。貴石君がわざと策に乗ってあげたのに気付いてないの?」
「何!?」
それは桃花との一瞬のアイコンタクトの時。
「(貴石君、これは……)」
「(何も言わなくて良いよ。何かあった方が楽しいから)」
敢えて策に乗って楽しみたいという気持ちをダイヤは桃花に伝えていたのだ。やろうと思えば策を発動させない選択肢もあったのに、面白そうだからという理由で策を堪能していた。
知光は遊ばれていたのだ。
最後だって焦った桃花が盾となってしまったが、ダイヤは何かしらの対処をしていたのかもしれない。当初の策ではダイヤが見えざる手を避けた後に、追撃で姿を隠していた桃花がダイヤを狙うのがトドメだったのだが、そこまで実現してどうだったかと言ったところだろう。
『李茂さん、至急フィールド外に出てください』
「はーい」
負けたのに知光と会話を続けていたことで注意が入ってしまった。これ以上はペナルティになってしまうので慌ててその場を離れる。
「それじゃあ貴石君、後はよろしくね!」
「うん!」
脱落するというのに楽しそうなのは、全力でバトルロイヤルを堪能できたからだろう。精霊の力を借りて何人も倒し、夫婦のフリしてピンチを脱しながら場を荒らす手助けをし、最後には壮大な策に巻き込まれて嘘の裏切りを演じていた。
そりゃあ楽しかったに決まっている。
「さて、よろしくされちゃったから頑張らないとね」
その言葉にダイヤを囲む生徒達に緊張が走る。
「どうせ時間稼ぎの会話をしている間に、何か策を仕込んでるんでしょ」
「…………」
桃花に煽られて不愉快になってしまった知光は何も答えない。ダイヤを倒すことで苛立ちを解消させようと気迫十分だ。
「僕には知光君みたいな綿密な作戦とかは立てられないんだよね」
そう言いながら、ダイヤはポーチから薄く青い液体が入った三本の小瓶を取り出した。
『!?!?!?!?』
「僕に出来るのはこのくらいかな」
それを見た新入生達が驚愕で目を見開く。
その液体が何なのか、分からない人はこの学校には居ない。
「だ、騙されるな!そんなものが存在する訳が無い!」
慌てて知光がその存在を否定した。
「どうしてそう思うのさ」
「貴様はあの配信の後、すぐにこの島を出た。スキルポーションを入手する時間は無かったはずだ!」
そう、ダイヤが手にしているのはスキルポーション、に見えるナニカだ。
本物かどうかは分からない。
だが配信で流れた実物とそっくりである。
「『明石っくレールガン』の団長さんからお願いされてね、用事の合間に外のDランクダンジョンに入って探してたんだよ」
「そんな馬鹿なことがあるか!外のダンジョンは死んだら復活出来ないのだぞ!」
「僕そういうダンジョンから帰って来たよ?」
危険だから入る訳が無いという主張は、同種のイベントダンジョンにすでに入ってしまったダイヤには意味をなさない。
「ぐっ……だ、だが、ダンジョンを管理している者が入場を認めないだろう!」
「団長さんの知り合いの強い人と一緒に入ったから平気だったよ」
「な……だ、だがそれは……!」
否定しようにも、速攻でありそうな理由を答えられてしまう。
軍師であり聡明なはずの知光が窮してしまうことで、やはりダイヤが手にしているのは本物のスキルポーションでは無いかと新入生達は信用してしまう。
「これどうしよっかな~」
勿体ぶりながらダイヤは三つの小瓶をカラカラと鳴らす。
「おっと、無理やり奪おうとしたら地面に叩きつけて割るからね」
こっそりと誰かが近づこうとしている気配を感じたため、念のため牽制しておく。
そしてしばらく考えるフリをして、悪い笑顔を浮かべてこう言ったのだ。
「そうだ。知光君のハチマキを奪った人に一つプレゼントしよう」
「な!」
その瞬間、この場の全員が一斉に知光の方を向く。
「ば、馬鹿!お前ら騙されるな!アレは絶対偽物だ!」
慌てる知光だが、具体的な反証が思いつかない。
感情任せに否定していることが、その否定の信用性を極端に下げてしまっている。
「(桃花さんを裏切らせようとしたことを後悔してよね)」
オリエンテーリングを通して『精霊使い』クラスの中でも特に仲良くなった桃花を利用しようとした。ダイヤはそのことを内心で怒っていたのだった。まだ恋仲というわけではなく、友達と呼ぶにも早いかもしれない。だがそれでも怒ってしまう程には彼女のことを気に入っていたのだ。
「それじゃあ始めるよ。よーい、スタート!」
「ま、まて、うわあああああ!」
知光がどれほどのメリットを彼らに提供したのかは分からないが、スキルポーションはそれを遥かに上回るメリットだ。ゆえに全ての新入生が彼を裏切り、ハチマキを奪おうと我先にと殺到する。
「うわぁ、こんなに隠れてたんだ」
スキルで姿を隠していたらしき生徒達がそこら中から出現し、中には体中を土色に変化させて地面に擬態していた人もいる。これらは全てダイヤを倒すために、会話で時間を稼ぎながら準備していたものだった。
「くそおおおお!覚えてろよおおおお!」
陳腐な捨て台詞を吐きながら、無残にも知光はハチマキを奪いとられてしまう。
欲を刺激し、協力を募る。
その点においても知光はダイヤに完敗したのであった。
「やったああああ!とったぞおおおお!」
知光からハチマキを奪った男子が、そのハチマキを握りしめた手を天に掲げて勝利宣言する。ハチマキが自動でアイテムボックスへと消える前に、自分が取ったのだと証明するためだ。
「おめでとう、それじゃあこれをどうぞ」
「え?」
なんとダイヤはかなり離れたところにいるその男子の元にスキルポーション?を全力で投げた。
「ちょおおおおおお!?」
放物線を描くようにして飛んでいったスキルポーション?を、その男子は落とさないようにとどうにか受け止めようとするが、それを他の生徒が黙って見ているはずが無い。
「お前ら!?勝ったのは俺だぞ!?」
「うるせえ!とったもん勝ちだ!」
「スキル!スキル!」
「あたしのよ!どきなさい!」
「俺のだあああああ!」
スキルポーションめがけて生徒達が殺到し、大混乱に陥っている。
「そういえばまだ二本あるんだった。それじゃあこれもぽーい!」
「はあああああ!?」
「落ちる!落ちるぞ!」
「私のよ!」
「どけ!」
「きゃ!そっちこそどきなさい!」
スキルを覚えたいのか、それとも売り払って大金を手に入れたいのか。
欲に塗れた生徒達がハチマキを取り合うことを忘れ奪い合う。
相手を攻撃してしまい脱落してしまう人もかなり出て来ているが、脱落しようがスキルポーションが手に入ればそれで良いと手段を問わず暴れ回る。
「それじゃあいっただっきまーす」
そんな彼らを嘲笑うかのようにダイヤは戦場を風のように駆け、無防備なことこの上ないハチマキを乱獲したのであった。