40. ボス戦:これが精霊使いの戦い方だ!
「誰よその女!」
ポーションを飲み、予備のランスを手にした音がダイヤ達の元へとやってきた。
下級ポーションでは完治していないが、動きに支障はなさそうだ。
知らない女性がダイヤと仲良くしているのを見て怒っている。
「お初にお目にかかります。奥様」
「お、おお、奥様!?」
しかしたった一言で真っ赤になって喜んでしまうのであった。
こんなんだからダイヤにちょろいと思われるのである。
「詳しく説明する時間が無いから簡単にしか言えないけど、彼女は味方だよ」
「そう……なの?」
「うん。僕の切り札。と言ってもこうなってるなんて予想外だったけど」
「???」
曖昧な説明に音の頭上にはてなマークが浮かんでいる。
とはいえダイヤの言うとおり今は時間が無い。
『ラアアアアアアアア!』
戦天使との戦いがまだ終わっていないのだから。
「あ~あ、こうなる前に仕留めきりたかったんだけどなぁ」
戦天使は羽を羽ばたかせ宙に浮いていた。
そしてその周囲には小さな小指大の結晶が沢山浮いている。
「スピ、戦天使が接近戦を仕掛けてきたら任せて貰って良い?」
「お断りします」
「え?」
指示をくれと言いながらまさかのお断りに呆気に取られてしまうダイヤだが、そんな隙を晒している余裕は無い。
「うわ!うわ!」
戦天使が空から急降下してランスで突いてきたのだ。
「きゃあ!」
「あぶっ!あぶっ!」
空からの攻撃などどう対処して良いか分からず、とにかく必死で前後左右に転がりながら避け続ける。せっかくポーションで回復した音に、また新たな傷が次々と生まれてしまう。
「スピ!へるぷ!へる~ぷ!」
「お断りします!」
「なんでさ!」
「私は戦いの為に生まれた存在ではございませんので」
「それってまさか!うわああああ!あっぶなぁ!」
急降下からの五月雨突きの対処が遅れ、脇腹をごっそりもっていかれるところだった。
そこそこ深い傷は負ってしまったけれど、血が噴き出ていないため致命傷にはならなかったようだ。
「このぉ!レーザー……」
「それはダメ!絶対避けられるから!」
「で、でも!きゃあ!」
「音!」
雑にレーザービームを放ってしようものなら躱されるどころか、それをまた遠くに弾かれてしまうだろう。予備のランスまで無くなってしまったら音は攻撃手段が無くなりランスパリィも使えなくなってしまう。
「スピ!どうしてもダメなの!?」
「はい。私は『えっちなお姉さん』ですので」
そう、メイド服の女性の正体は以前出会った精霊幼女が成長した姿だったのだ。
「(経験値の代わりにスピが本来の姿になるように願ったら成功したけど、本来の役割しかしてくれないだなんて!)」
えっちなお姉さんを願ったら、幼女の姿で生まれて来た。
それはえっちなお姉さんになるには経験値的な何かが足りてないからではないかとダイヤは想像し、だったら不要な経験値を彼女の成長のために注ぎ込めば良いのではと考えた。そしてアイテムを落とさないレッサーデーモン(赤黒)などを倒した時にこっそり精霊幼女の成長を願っていたのだった。
自分と同じくらいの年頃の女性に。
しゃべれるように。
ついでに全裸じゃなくて可愛いメイド服を着てくれるように。
戦力のあてにするつもりは無かったのでダンジョンをクリアしたらこっそりどうなったか確認しようと思っていたのだが、こうなったからには全力で助けてもらいたい。むしろ助けてもらわないと敵を倒せない。
それなのに何故かお願いを聞いてもらえないのだ。
「(あれ?でもさっきは自分から出て来て手伝ってくれたよね。戦えないって訳じゃないのに、どうして僕のお願いを聞いてくれないんだろう。考えられることと言えば……)」
精霊に対する好感度がかなり低いということだ。
その理由はもちろん決まっている。
「もしかして僕が抵抗してたの怒ってる!?」
幼女の頃から自分の責務を果たすべくえっちなことをしようと試みたが、ダイヤは流石に幼女には手を出せないと拒絶し、あろうことかほとんどの時間を実体化させずにいたのだ。
そのことを怒っていると考えればお願いを聞いてくれないのも当然だろう。
「怒ってなどいませんよ。ええ、怒ってなどいませんとも」
「それ絶対怒ってるやつ!」
「自分の存在意義について自問自答せざるを得ないというだけのことです」
「ごめんなさーい!僕が悪かったです!無事に帰ったらちゃんと考えるから許して!ふぎゃ!小指がちぎれるとこだった!」
戦天使の猛攻に晒されながら、必死に謝って説得するダイヤ。
そのおかげか、あるいは最初から手助けするつもりだったのか、精霊少女スピがついに折れてくれた。
「かしこまりました。考えて下さるようでしたら構いません」
それはダイヤの希望通りの答えだったはずなのだが、喜ぶどころかどことなく気まずい顔になっていた。それは彼女への対応を考えると濁したから。セコい対応と言われてもおかしくないやり方を申し訳なく感じていたのだ。
「え、良いの?自分で言うのもなんだけど、考えるとしか言ってないんだけど」
「はい。しっかりと考えてください」
「わぁお、これかなり重大なやつ」
当初の予定通りにえっちなことをお願いしますと単に言うよりも、しっかりと考えろと言われる方がより重大な選択を迫られているような感じがする。あるいはこれまでの自分の行いを反省して考えろと言われているような気もするでは無いか。
ふわっとした答えのはずが、スピを大事に扱うことを確約させられたような感覚だ。
とはいえそれはダイヤとしては望むところ。
スピのことを蔑ろにしてきた負い目があるのは正しいのだ。挽回するチャンスを与えてくれたどころか、手伝ってくれるとなれば文句の言いようがない。
「それじゃあ助けて!」
「かしこまりました」
その瞬間、スピは攻撃を受けるダイヤの盾になるように移動し、相手の三又の槍を強引に掴み取った。
『!?』
そして強引に戦天使を蹴飛ばしてしまったではないか。
「つっよ……」
まさかあの精霊幼女がここまで強くなっているとはと、思わず驚くダイヤ。
『ラアアアアアアアア!』
戦天使はスピだけに狙いを定めて猛攻を仕掛けてくるが、スピはそれを最低限のステップだけで華麗に避けてカウンターで吹き飛ばす。
そんなバトルが繰り広げられている間、音がダイヤの元へとやってきた。
「ちょっとダイヤ!えっちなお姉さんってどういうことよ!」
先ほどの会話がしっかりと聞こえていたのか、怒り心頭だ。
「(どうしよう)」
どう説明すれば穏便に済むかと考えるが、えっちなお姉さんを願ったことは事実なため、どう告げても怒られる未来しか見えない。
そうダイヤが困っていたら、なんとスピが戦いながらフォローしてくれた。
「ご安心ください。奥様。邪魔は致しませんので」
「え、あ、そう。えへへ、奥様……奥様かぁ……」
「ちょろいわー」
「ちょろいわー」
「ちょろくないもん!」
ダイヤとハモって音を弄るスピの様子からすると、もしかしたらスピは茶目っ気があるのかもしれない。
『ラアアアアアアアア!』
戦闘中らしからぬ気の抜けた会話をしていたら、戦天使が接近戦を諦めたのか距離を取った。
そして羽を強く激しく羽ばたかせ始める。
「ぐっ……これは!」
「まずいわ!」
猛烈な風がダイヤ達に向かって襲ってくる。
それだけならまだ良い。
その風の中に戦天使の羽が何本も紛れ込み、鋭い付け根の部分で斬り裂こうとして来るのだ。
「旦那様、お下がりください」
するとスピがダイヤ達の前に出て盾になろうとしたでは無いか。
「それはダメ!」
「え?」
慌ててダイヤは逆にスピの前へと強引に体を割り込ませ、盾になり替わった。
「ぐあああああああ!」
無数の羽がダイヤの身体に突き刺さり、盛大な悲鳴をあげてしまう。
「旦那様!」
「ダイヤ!」
慌てて音とスピが駆け寄ろうとするが、ダイヤはそれを手で制止する。
「ダ、ダメ……まだ風は止んでない……ぐあああ!」
「でもそれじゃあダイヤが!」
「どうしてお止めになるのですか!私の身体は精霊体ですから多少傷ついても!」
「だとしてもスピが傷つくのを黙って見てられない!」
精霊体だから何だというのか。
それが意味することは知らないけれど、そんなことはどうだって良い。
自分を守るために女の子が傷つくなんて許されない。
そう一心に想い、行動したのだ。
ダイヤにとってはスピは精霊であり、同時に女性なのだから。
「ああもう、なら私に任せて!」
すると今度は音が暴風に逆らって強引に前に出るでは無いか。
「音!」
「大丈夫!」
慌てるダイヤだが、彼女の顔を見て安心し、引き下がることにした。
無駄な特攻をするつもりではないと信頼出来たから。
「私のランス捌きを見せてあげるわ!ランスパリィ!」
音はランスをグルグルと勢い良く回転させ、大きな盾の代わりとした。
襲い来る無数の羽はランスの盾に跳ね返されて彼女の後ろに届かない。
「やるぅ!」
「ダイヤはポーションで回復して!そしてあなた……」
「スピでございます」
「スピさんね。私のお願いも聞いてくれる?」
「それが旦那様の命であるならば」
「聞いてあげて!」
「かしこまりました」
「じゃあ私の背中を支えて!踏ん張るのが大変なの!」
「かしこまりました」
ランスを回し続けるだけでも大変なのに、同時に暴風に耐えて踏ん張るというのはかなりしんどい。
ゆえに後ろから支えてもらい、ランスを回すことだけに集中したかった。
「うわ、楽になった。スピさんすごい力あるね」
「それほどでもございません。それとスピで構いません」
「分かった、スピ」
「(仲良くなれそうかな?)」
体に突き刺さった羽を取り除き、ポーションを飲んで応急処置をしながら音とスピのコンビの様子を確認する。この感じであれば、連携して戦天使と戦えそうだ。
「しかし旦那様、奥様。このままではジリ貧です。私は飛べませんので」
スピが可能なのは接近戦のみ。
空を飛ばれていると手出しが出来ないのだ。
今のところ羽飛ばし攻撃を防げてはいるが、いずれ疲れて防御が突破されてしまうだろう。
それに問題はそれだけではない。
「来ます」
「音!そのまま後ろに飛べる!?」
「や、やってみる!」
「サポート致します」
戦天使の近くに浮いていた小さな結晶がこっちに向かって移動して来たのだ。
慌てて三人は敢えて風に押し戻されるようにランスパリィをしながら後ろに大きく飛んだ。
その直後。
「きゃあ!」
結晶が物凄い光を放ち小さく爆発したのだ。
「こ、これがシャイニングの魔法……僕が吹き飛ばされたのもこれだったのか!」
スピが戦天使を拘束してダイヤが連撃をしようかと思った時のこと。
激しい衝撃により距離を取られてしまったが、あれは自分を中心に爆発を起こして強引にスピを振りほどいて逃げたのだ。
光魔法シャイニング。
小さな結晶を核として激しい閃光と共に小さな爆発を生み出す魔法だ。
「高練度の接近戦、羽ばたきとシャイニングの遠距離攻撃。知識としては知っていたけれど、なんて強い相手なんだ」
だがこいつを苦労せず倒せるようにならなければ、Cランクの壁は突破できない。
いずれ越えなければならない壁は遥かに高い。
それでも今、どんな手を使ってでも突破しなければそもそもそんな未来に挑戦する権利すら得られない。
「旦那様、ご指示を」
「はぁ、はぁ、どうしようダイヤ!」
音の疲れが大きく、そろそろ防御が突破されそうだ。
もう時間は残されていない。
「……スピ、ごめん。君を危険な目に遭わせてしまう」
「謝らないでください」
「でもスピは戦闘用の精霊じゃないでしょ」
「『えっちなお姉さん』としての役割を果たせるのであれば、多少傷ついたところでどうってことございません」
「わぁお。そこが重要なんだ」
「それに旦那様が生きていること、それこそが最も大事なのです。先程死にかけた時、どれほど私が己の無力さを悔いたことか」
「あ……」
レッサーデーモンとの戦い。
その時はまだスピは会話も出来ない無力な幼女のままであり、今のように助けに出ることが出来なかった。
その時の悔しさを思えば、ダイヤの助けとなれる今の方が遥かにマシだ。
多少傷つこうとも構うはずがない。
「どうしてスピはそこまで僕のことを……」
「それは後にしましょう。奥様が限界に近いです」
「う、うん」
スピの献身の理由が分からないが、そこまで覚悟を決めている彼女の意思を無駄にするわけにはいかない。
「本当は僕がなんとかしなきゃならないのに、情けないなぁ」
「何を仰いますか。旦那様は精霊使いですから、これで良いのです」
精霊使いが精霊を使って何が悪いと言うのだ。
むしろこれこそが本来の精霊使いの戦い方に違いない。
「ダ、ダイヤ。それで私はどうすれば良いの?」
「音にも無茶させることになるんだけど……」
「そんなの今更よ!」
「まぁそうだね。でも本当に大変だよ。あの攻撃を潜り抜けて一撃を当てて欲しいんだけど」
「…………」
向かい風の中、無数の羽とシャイニングの嵐を潜り抜けて戦天使に攻撃を仕掛ける。
その過程で少なくない怪我を負うことになるだろう。
あるいは致命傷を受けてしまい、まともな攻撃など出来なくなってしまうかもしれない。
ダイヤの無茶な要望に、音は重くなってきた腕を動かしながら必死で考える。
「(お祖母ちゃん……)」
脳裏に浮かぶのは、幼い頃に憧れた勇敢な祖母の姿。
祖母ならばこの状況でどうするだろうか。
不利な状況をどう覆そうとするか。
「任せて」
音は自信に満ちた顔でダイヤにそう答えた。
その顔に宿った覚悟を感じ、ダイヤは彼女を信じると決めた。
「それならチャンスが来たらお願い!」
「分かったわ!」
具体的な指示などしない。
相手に聞かれるということもあるが、これだけで音が正しく動いてくれると信じられるから。
「行くよ!」
最初に動いたのはダイヤだ。
音の背後から外れ、大きく横に向かって走り出す。
「ぐっ……!」
何本もの羽が掠るが気にせずに走り、向かい風を大きく迂回するように戦天使の横へと回ろうとする。
しかし戦天使は位置を変え、音とダイヤをまとめて風で吹き飛ばす位置取りを続けようとする。
「それで良いのかな!」
ダイヤの狙いは戦天使では無い。
移動してくれるのであれば、むしろダイヤにとって都合が良くなるのだ。
『!?』
どうやら戦天使はダイヤが風の影響を受けない場所に移動したがっているのではないことに気付いたようだ。
ダイヤの進行方向の先には、戦天使が弾いた音のランスが落ちていた。
それを拾いに行こうとしていたのだ。
『ラアアアアアアアア!』
慌てて戦天使は音の遥か後ろを移動するダイヤに向けて攻撃を集中させ、大量の羽を飛ばしてくる。
「ぐあああああああ!」
それが全身に突き刺さると流石にダイヤの動きは鈍くなり、このままならランスに到達する前に仕留められそうだ。それに音達から離れているため助けも間に合わないだろう。
『ラアアアアアアアア!』
このまままずは一人を終わらせてしまおうと、戦天使が追撃を仕掛けようとしたその時。
「旦那様にこれ以上手出しはさせません」
『!?』
背後にスピが出現し、空中で戦天使を羽交い絞めにした。
スピは精霊であり、虚ろな靄となってダイヤの体の中に入ることが出来る。
そしてダイヤの近くであれば好きな位置に出現することが出来るのだ。
スピは一旦実体化を止めて、唐突に戦天使の背後に出現した。
最初にダイヤを守った時のように。
ただ、これは二度目であるため戦天使に気付かれる可能性があった。
それゆえダイヤが囮となって意識を逸らし、確実に戦天使の動きを封じられるようにしたのだ。
『ラアアア!ラアアア!』
空中でもがく戦天使だが、スピの拘束は全く外れそうな気配が無い。
『ラアアア!』
「くっ……もう放しません!」
先ほどと同様に、自分の身体の近くでシャイニングを放ち、強引に振りほどこうとするけれど、スピはそれでも拘束し続ける。
「(今よ!)」
この瞬間こそが、ダイヤの言っていた攻撃チャンス。
音はランスパリィを止め、右手に構えて走り出した。
『ラアアアアアアアア!』
その動きに気付いた戦天使は拘束を外すのを諦め、音を潰そうと無数の結晶を飛ばしてくる。たちまち音は結晶に囲まれ、このままでは大量のシャイニングにより打ち倒されてしまう。
「お祖母ちゃん!」
音は指に装着した形見の指輪に魔力を籠めた。
すると音の周囲に不可視の防壁が出現する。
『ラアアアアアアアア!』
二つ、三つ、四つ、五つ……
大量のシャイニングが音の周囲で発動し、あまりの閃光と轟音にダイヤの目と耳がどうにかなってしまいそうだった。少し離れたところにいるダイヤですらそうなのだから、爆発の中心にいる音へのダメージは相当なものだろう。
指輪を使っていなければ、の話だが。
「やあああ!」
光の爆煙の中から威勢良く音が飛び出してくる。
不可視の防壁が音を完璧に守ってくれていた。
『音にこれをあげるわ』
『ありがとう!これは?』
『この指輪は音を危険から守ってくれるのよ』
『そうなの?』
『いつか音がこれを使うべきだと思ったら、遠慮なく使って頂戴ね』
それは音を守りたいと願う祖母の想いが込められた装備品。
音のために祖母が用意した特注品。
孫への指輪。
五秒間だけあらゆるダメージを無効化するけれど、一度使ったら壊れて無くなってしまう効果がある。
大切な祖母の形見を壊したくなくて指につけずに首から下げていたけれど、不思議と今は使うことに抵抗感が無かった。
むしろ今こそ使う場面であると確信し、ためらうことなく指輪の力を発動した。
「これで終わりよ!」
無敵時間を利用し、手にしたランスの投擲モーションに入る。
戦天使はスピに動きを封じられている。
これが最後にして最大の攻撃チャンス。
「レーザービーーーーーーーム!」
全身全霊をかけた渾身の一擲。
大切な人を守るため。
祖母の想いを無駄にしないため。
そしてこの先の幸せを掴むために。
『ラ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!』
音の強烈な想いが込められたレーザーは、スピごと戦天使の胸を貫いた。
「スピ!」
「スピ!」
ギリギリで避けるのかと思いきや、確実に戦天使を倒すために最後まで拘束を外さなかったスピにダイヤと音が嘆きの叫びをあげる。
いくら戦天使を倒せたとしても、ここでスピが死んでしまったら意味が無いのだ。
「大丈夫、です。私は、精霊ですから。旦那……様……約束を…………お願い……しま……」
そこまで口にして、スピは虚ろな靄へと変化し、ダイヤの身体の中へと戻って行った。
「ダイヤ!スピは!?」
「なんとか大丈夫みたい」
精霊使いの感覚が、スピが無事だと告げている。
「(でも回復させるためにまた経験値を稼がないとダメっぽい)」
敵を倒してスピが治るようにと願うことで、経験値代わりの靄がダイヤの中のスピに与えられ、傷を癒す。それが精霊の治療方法だとダイヤは直感的に理解した。
「そっか、大丈夫なんだ」
「うん。少し時間はかかるけれど、また出て来れるよ」
「良かったぁ……あ、戦天使は!?」
「そっちも大丈夫だよ。ほら」
「あ……消えて行く……」
音が空を見上げると、戦天使が消滅する瞬間だった。
「おばあちゃん……」
思わず湿っぽいつぶやきが口をついてしまったが、頭を振り強引に気持ちを切り替えた。
もし憧れの祖母が今の自分を見ていたら、そんなセンチメンタルな反応を望んでいないと思ったから。
「やったねダイヤ!」
「うん!僕達の勝利だ!」
「いえーい!」
「いえーい!」
ゆえに二人は、全力の笑顔でハイタッチで勝利宣言をしたのであった。