191. ご奉仕キャラはこれ以上いらないからね!
「第五回、ハーレム会議!」
ハーレムハウスの居間にて、ちゃぶ台からグレードアップしたオシャレな洋風木造テーブルを囲んだ四人の女性。
音、桃花、芙利瑠、奈子。
ダイヤのハーレムメンバーが、ダイヤ抜きで話し合いを始めようとしていた。決してダイヤに秘密にしたいわけではなく、ダイヤがハーレムメンバーの家族に挨拶に向かっているだけである。
ちなみに四人の家族の攻略は紆余曲折あったがクリアしており、現在は未来の家族に挨拶に向かっている。
「今日は桃花が議題を持って来たのよね」
「うん、大事な話があるの」
ハーレム会議はハーレムメンバーの誰かがメンバー内で相談したいことがあると開催される。今回は桃花に何か相談事があるらしい。
「もうすぐ未来ちゃんと躑躅先輩がここに引っ越して来るでしょ。だからもっと改築しなきゃって思って」
過去に戻り本当の再会を果たした未来。
父親を納得させるための厳しい条件をクリアしてもらった躑躅。
夏休みに入り、二人はハーレムハウスに引っ越してくることになっている。
「そのためにここ最近頑張って改築して来たでしょ。十分じゃない?」
「未使用の部屋の修復に、トイレの増設、居間を広くしたり、洗面所の数も増やしました。わたくしが思うに迎え入れる準備は十分かと思いますが」
「……他に……何かあったっけ?」
ダイヤが不在の間はハーレムハウス大改築期間として、めいっぱい精霊さんにお願いしてクエストを進めている。人数が増えることによる単なる増設だけでなく、虫除け機能の追加など暮らしやすい改良も順調に進められている。
では桃花はまだ何が不満だというのだろうか。
「お風呂だよ!お・ふ・ろ!小さいお風呂が一つだけじゃ時間かかっちゃうよ!」
ハーレムハウスのお風呂は一般の家庭にあるようなものが一つだけ。それをダイヤを含め七人で使うとなると、最後の人は深夜になってしまうかもしれない。
「本当は私、長く入ってたいタイプだったの。でも我儘は言えないからこれまでは我慢してたけど、そろそろ広げても良いと思うんだ」
一度に複数人が一緒に入れる大浴場。
あるいは風呂の個数を増やすか。
どちらかを選択する必要があるだろう。
「なるほどね。確かに今でもお風呂はせわしないものね。私はシャワーだけで十分なタイプだけど、皆がそうとは限らないか」
「わたくしはじっくり浸かりたいタイプですわ」
「……私は……早くて良い」
じっくり派とあっさり派で見事に半々に分かれていた。
「音ちゃんも奈子ちゃんも、ダイヤ君に見て貰うんだからしっかり洗ってたっぷり浸かって綺麗にしなきゃ」
「な!?」
「う!?」
桃花の話はお風呂上がりの姿を見てもらうという話では無い。全身を隅々まで見てもらう時がすぐそこまで来ているのだから備えろと言っているのだ。
「それに大きなお風呂でダイヤ君と一緒に入るのってハーレムっぽくて憧れない?」
「…………」
「…………」
「(洗いっことか王道だよね)」
四人の脳内にダイヤと肩を並べてお湯に浸かる場面が浮かび上がり顔を真っ赤にする。なお一人だけ漫画で得た知識で一歩先の妄想をしているのだが、三人は気付いていない。
「わ、悪くは無いわね。今日からしっかりお風呂に入ろうかしら」
「相変わらずちょろい」
「桃花?」
「ううん、なんでも。というわけでお風呂も改築したいと思います!」
性的な話は無しにしても、人数が増えることを考えるとゆとりをもってお風呂を堪能するためには増改築は必須であり、反対する人はいないだろうと桃花は思っていた。
だがしかし。
「あの……」
芙利瑠が申し訳なさそうに手を挙げた。
「実はわたくしも以前からお風呂の改築は考えていたのですが、遠慮していたのですわ」
「どうして?」
「大きなお風呂。あるいはお風呂が二つ三つあると、お掃除が大変になると思ったのですわ」
「あ~確かに」
増えたり広くなれば便利にはなるが、一方で清潔さを維持するための手間も増える。
「ただでさえ他の掃除だけでも時間がかかっておりますのに、お風呂まで掃除範囲が増えるとなると、わたくしたちだけでは手が回らなくなると思うのですわ」
自分達の手で自分達の住処を清潔に保たなければならない。
ハーレムハウスのメンバーは持ち回りで掃除洗濯料理などの家事を分担していたが、屋敷が広く掃除にどうしても時間がかかってしまう。この先人手が増えるとしても、その分だけまた屋敷が広くなるのだから決して楽にはならないだろう。
しかも学生である彼らは、勉強にダンジョンにとやることが山ほどあり、家のメンテナンスだけに時間をかけてなどいられない。
ゆえに芙利瑠はお風呂を広くしたいと思ってはいたけれど言い出せなかったのだ。
「ふりちゃんの言う通りだね。でもお風呂は大きくしたいし、どうしよっか」
「難しい話ね」
「……諦めたいけど……諦めたくない」
頭を悩ませるが答えが出て来ない。
だがお風呂は置いといて、これからハーレムメンバーが増えることを考えると避けては通れないことである。今のうちに方針が決まるならばそれに越したことは無い。
「私に良い案があります」
悩む彼女達の元へ、とある人物がやってきた。
「あれ、スピさんこっちに来てるんだ」
「丁度向こうが一区切りつきましたので」
スピはダイヤと同行しているため今回のハーレム会議は不参加の予定だったのだが、都合がついたので戻って来たようだ。
「ダイヤの分身がこっちにあれば自由に移動出来るとか便利よね」
ダイヤは分身スキルと並列思考スキルを練習するために、ハーレムハウスの自分の部屋に一体置いてある。スピはどの身体からも出てくることが可能であり、遠く離れたダイヤのところからハーレムハウスの身体へと移動して来た。
「一区切りついたってことはダイヤ戻ってくるんだ」
「いえ、まだ誤解が解けただけですので、許可を頂くのはこれからです。未来様はあのようなお方ですから時間がかかりまして」
「あぁ~確かにダイヤ君が真面目に説得してるのにえっちな反応して揶揄ってそう」
幼い未来にダイヤが卑猥な巫女服を着せたがったという疑いを晴らそうとしているのに、未来が『主様がお気に召すと思いまして』だなんて横から口を出して場が混沌とする様子が桃花たちの脳裏にありありと描かれてしまった。
「現在休憩中ですので、こちらの会議に参加するために参りました」
「分かった。それでさっきの良い案っていうのは?」
「私の同胞をお使いください」
「それって精霊さんに協力してもらうってこと? 十分に協力して家を直して貰ってるよ?」
「いえ、私が申し上げているのはこの家の同胞ではなく、ダンジョン内の同胞のことです」
「どういうこと?」
ダンジョン内の精霊はお願いしても些細なことしかできない。もちろん家の管理など以ての外だ。
「ボスを倒して、私のように同胞に人型になってもらうのです」
えっちなおねえさんを願ってスピが生まれたのであれば、家の管理をしてくれる人を願えば該当する存在が生まれるのではないか。スピはそう言っているのだった。
「そんなお願い、精霊さん聞いてくれるかな?」
「もちろんです。私達は皆さんのお役に立ちたいと思って存在しているのですから」
ゆえに奉仕できるのであれば喜びこそすれ不満を漏らすことは無いという。
「ダイヤ君は嫌がりそうだね」
「そうね。スピさんのことも生み出して申し訳なく思ってたくらいだもの」
「……そんな……優しい……ダイヤだから好き」
だが本当に精霊がそのことを喜び、桃花達の生活が便利になるのであればこれ以上の解決案は無い。
「ダイヤ君以外は人型の精霊生み出せないから、ダイヤ君に相談しないとね」
他の精霊使いでは、動物型は生み出せても人型は無理である。地球との相性の良さが影響しているのだろうか。
「ではお連れ致します」
「大丈夫なの?」
「恐らくは」
スピはダイヤの部屋へと戻り、ダイヤを連れて戻って来た。
「話は聞いたよ」
「ダイヤ君、動いて平気なの?」
「うん、元々複数体を動かして話をすることまでは出来てたからね。ただ、まだ全部の身体で同時に集中することが難しいから、説得の方に集中するためにこっちの身体を動かしてないだけなんだ。今は休憩中で向こうは気にしなくて良いから、お話くらいは出来るよ」
スキルをたくさん使って使い方に慣れ、ダンジョンでレベルアップしてスキルレベルも上昇させる。そうすることで自然に分身を操作し、各々が完全に独立して行動可能になる。その時こそが真のハーレム開始の時であり、ダイヤは四六時中スキルを起動して本気で鍛え、少しでも早くその時が来るよう努力していた。全てはエロのために。
「それで家を管理するために新しい精霊さんを呼ぶって話だけど、僕は良いよ」
「え、てっきり渋るかと思ってた」
「ハーレムハウスを作ったら家の管理が大変になるからお手伝いさんを雇わなきゃならないって以前から思ってたんだ。だからスピが生まれた時に精霊さんにお願いすることを思いついて、悩んだけど本当にやりたい精霊さんがいるなら雇うのとあまり変わらない気がするから良いかなって思うようにしたんだ」
洗脳して無理矢理お願いするわけではなく、本当にやりたいのならばお願いする。スピの時は何も知らず願ってしまったから、強引に性的な性質を持つ精霊に書き換えてしまったのかと思い深く悩んでしまった。でも今回は『本当にやりたいなら』という条件をしっかりと付与して願うことで、洗脳であるかのように強引に願いを叶えさせないように気を使って対処することにした。
「それならお願いしてもらって良いかな?」
「うん、じゃあ未来さんのご両親の説得が終わったら戻ってボスを倒して来るね」
「その体じゃダメなんだっけ」
「分身使うと滅茶苦茶弱くなっちゃうからね。しかも全部が本体だから一体でもやられると死んじゃうし、ダンジョンでは使えないかな」
ゆえに分身は便利そうではあるが全く使われない不人気スキルであった。
だが戦わず普通に接するのであれば普通に使えるし、全部が本物というのはハーレムとしては実に都合が良かった。本物を奪い合うなんてことが起きなくなり、平等に愛せるのだから。
「新しく雇った精霊さんの住処とか、生活ルールとか決めるのお願いしてもらって良い?」
「もちろん」
ハーレムハウスに一緒に住むのか。
それとも離れたところに新たな建物を立て、そこに住んでもらい通う形式にしてもらうのか。
夜の営みを行う範囲を決めてそこに立ち入らせないようにすべきか。
夜の営みの後始末も行ってもらうべきか。
夜の営みの協力もしてもらうべきか。
精霊を雇うとして、考えるべきことは山ほどある。
ダイヤのお相手ではないからこそ、どう線引きするかが嫁としてとても大事だ。
「それじゃあそろそろ僕は戻るね」
「もう行っちゃうの?」
「ごめんね。なるべく早く戻ってくるように努力するから」
せっかくの夏休み。
好きな人と楽しく過ごしたい。
早く会って色々なことをやりたい。
彼女達はずっとそう思いながらハーレムハウスの改築作業に精を出していた。
だが未来のご両親の説得が終わると、ダイヤが本当に戻ってくる。
ダイヤのハーレム用スキルのレベルもかなり上昇している。
となると待ち受けているのは、甘い甘い一時。
これまで妄想の中でしか行われていなかったアレやコレが、現実になるときがやってくる。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
そのことに気付いた四人は顔を真っ赤にしてダイヤが居間を去る姿を見送るのであった。
なお、スピだけは平然とした顔で、いや、期待に満ちた顔でダイヤの身体の中に入ったのであった。