186. エピローグ3 第一部完! ~もうちっとだけ続くんじゃよ~
「やったね、僕の勝ち~」
「マジかよ!お前頭も良かったのか!?」
「もしかして僕って馬鹿だと思われてた?」
「ダンジョン馬鹿だろうが」
「わぁお、否定できない」
世界の秘密が明らかになってからしばらくして、ダイヤ達はハッピーライフのクランルームに集まっていた。そこでダイヤは手にした一枚の紙を副団長の蒔奈に見せびらかし、ドヤ顔で勝ち誇る。
「くそぅ、せめて一教科だけでも勝ってやろうと思ったのに、まさか全教科八十五点以上を叩き出すなんて、化け物かよお前」
彼らが勝負し合っているのは期末テストの点数。
ダンジョン探索の打ち上げを終え、たっぷりと寝て精神と体を休めたダイヤ達に待ち受けていたのは期末テスト。特にダイヤはほとんどの教科を受講しており、本格的なダンジョン探索やヒロインズとイチャイチャする時間など設けることが出来ず勉強三昧だった。
勉強もまた青春の一ページ。
ゆえに青春を堪能したいダイヤはテストにも全力で挑んだ。
「化け物だなんて失礼な。そもそもこの学校に来ている時点で、皆それなりに頭は良いはずでしょ?」
ダンジョン・ハイスクールは勉強についていけなくなった子供達が、勉強以外の点で人生に活路を見出すような場所ではない。入学するにはそれなりの学力が必要であり、ダイヤだけが特に成績が良い訳では無いはずなのだ。
ただダンジョン・ハイスクールではダンジョンを探索する時間が多いため中学までと比較して勉強量が激減した人が多く、そんな彼らとダンジョンと勉強を両立しようと努力していたダイヤとの間に差が生まれたというだけのこと。
「頭が良いかどうかは分からんが、テスト問題がくっそ難しいことと、それをほぼ全教科攻略する奴が異常だということだけは分かるな」
「わぁお、確かに難しいけど基本が分かってれば解ける問題ばかりなのに」
「でたー!頭が良い奴特有の無自覚煽り!」
「煽って無いよ!?」
ダンジョン・ハイスクールのテストは、超進学校と同等レベルの難易度のテスト問題が用意されている。
任意受講なためその教科や勉強が好きな生徒が集まってくる。
先生はわざわざ受講してくれるのが嬉しくて全力で教える。
その結果、普通のテストだと簡単すぎて平均点が高くなりすぎてしまうため、問題が難しくなっていた。しかもその状況で平均点が一般的な高校と大して変わらないのだから恐ろしい話だ。
「そもそもお前、勉強会とかやってただろ。それで何で成績良いんだよ」
「どういう意味?」
「だってエロいことばかり考えて勉強が手につかないだろ」
「あはは、そんなこと無いよ~」
平然とそう答えるダイヤだが、サッと顔を逸らした人が何名かいた。
音とか音とか音とか。
ヒロインズとの勉強会。
そろそろ関係が一歩先に進むかもとドキドキしている状態でやってきてしまったテスト期間。愛する人と同じ空間で真面目に勉強など出来る筈が無い。
なお、意外なことにスピは普通にダイヤ達をフォローし、ハーレムハウスに引っ越して来た未来も色仕掛けをすることなく普通に勉強していた。
そして今日、ついに禁欲のテスト期間が終わった。そして自己採点の結果をクランハウスで伝え合いながらテストについて感想を言い合っているというのが現状だ。
これから先には夏休みが待っている。
そして禁欲も解放される。
ワクワクドキドキソワソワな雰囲気がクランハウスの中を支配する。
「ごめんごめん、遅れちゃった~」
「全然遅くないから大丈夫だよ。躑躅先輩」
最後にクランハウスにやってきたのは鳳凰院躑躅。
ダイヤが鳳凰院欅と決別したことをきっかけに、彼女はハッピーライフに入ったのだ。なお、まだダイヤはCランクではないため付き合う条件を満たせずヒロインズには入っていない。
「それじゃあ全員揃ったことだし始めようか」
ダイヤはそう言いながらクランハウスの中を見渡した。
音と奈子、スピと未来、望と躑躅、暗黒と密、朋と向日葵、桃花と閃光、芙利瑠と真実、茂武と易素と宇良が並んで立ち、蒔奈は副団長としてダイヤの隣に立っている。
「(だんだん関係性が固まって来たのかな)」
クランメンバー間での交流が進んでいて、ダイヤは少しホッとしていた。忙しくてあまりクランメンバーの様子を確認する時間が取れなかったが、自発的に仲を深めてくれていたのだから。
「今日は夏休み以降のお話をするよ」
そのためにテストが終了したこの日に、ダイヤはクランメンバーに召集をかけた。
「クランの方針として各自がやりたいことを全力でやることには変わりないので、やりたいことがあればどんどんやってね。もちろんお互いに積極的に助け合おう」
それこそがハッピーライフの核となる活動方針なのだから決して変える訳には行かないだろう。
「だからハッピーライフとしては夏休みの大きな目標は立てません。でも年度末のクラン戦を見据えて二つ伝えておきます。参加予定者は強くなること、そしてメンバー募集の継続」
青春を謳歌したいダイヤは学校イベントであるクラン戦にももちろん全力だ。そのためにクランメンバーにも強くなってもらいたいところだが、やりたくないことを強制したくないためあくまでも自由意思を尊重する形になる。
「メンバー募集はクラン戦関係なく、良さそうな人がいたら積極的に誘おうね」
その『良さそう』を満たす人が中々居ないのだが、まだハッピーライフについて様子見している隠れたメンバー候補がいるかもしれないため辛抱強く探すつもりだ。
ここまではこれまでも伝えてあったことなので再確認しているレベルであり質問などは出なかった。
問題は次の話である。
「次に僕の予定について説明しておくね」
誰もが声にも顔にも出さなかったが、空気がキュッと引き締まる感覚を誰もが覚えた。
このクランはダイヤをサポートしたいと願う人が多く、ダイヤの活動予定は己の予定に直結するからだ。
「まずはCランク試験を受けるよ。これはもう申請してあるからすぐだね」
地球さんダンジョンで死闘を繰り広げた一年生は全員がこの試験を受けることになっている。
「他の人もCランクになりたいなら言ってね。フォローするから」
「フォ、フォローって……ううん、なんでもない」
恐る恐る向日葵が何かを聞こうとしたが躊躇して止めてしまった。
本来であればその内容を聞き出したいところだが、ダイヤは彼女が何を言いたいのか分かっていたので担当者に任せることにした。
「朋も間違いなくCランクになるから、お願いすればフォローしてくれるよ。多分、僕よりもギリギリを攻めそうだけど」
「いだ!なんで殴るんだよ!」
「なんとなくよ!」
向日葵が聞きたかったのは、どれだけハードなフォローになるのかと言うこと。ダイヤは相手の様子を観察しながら適切な難易度を設定して鍛えるタイプだが、朋は教え慣れていないため自分の経験を活かしてギリギリアウトな難易度の特訓を課すだろう。
ダイヤがフォローのフォローをするつもりだが、この二人はなるべく任せた方が上手く行く気がしたので下手に手を出さないと心に決めていた。
「焦る必要は無いけど、焦るのもまた青春。やりたいようにやろうね」
ダイヤ達が次々とランクを上昇させると、残りの人は焦ってしまうかもしれない。その焦りとの戦いもまた成長には必要なことだろう。
自分で悩み、自分で考え、自分で答えを出す。
フォローはするけれど、決めるのは自分自身。それがダイヤの考え方の基準でもあり、自分で出した答えをダイヤは最大限尊重する。
「そしてCランクになった後だけど……」
ダイヤはそこまで言いかけて一瞬口ごもり、照れながらその内容を告げた。
「音達のご両親に挨拶に行こうと思ってるから、しばらく島を離れると思う」
「「「「!?」」」」
驚いたのはヒロインズだ。
そして同時にスピと未来を除く全員が顔を瞬間沸騰させた。
ダイヤがヒロインズの両親に挨拶に行く。
それはつまり、ついにその時が来るということなのだから。
「ま、待って。その前に、その、軽く……するんじゃ……なかったの?」
桃花がおずおずとそう切り出す。
彼女達とこれまで話をしていた内容では、まずは子作りに抵触しない程度にイチャイチャすることになっていた。だがダイヤはいきなり最奥へと進もうとしていたのだ。
「僕もそう思ってたんだけど、それって結局避妊になっちゃうんじゃないかって思ってさ」
彼女達だけを気持ち良くするのであればまだしも、ダイヤもまた気持ち良くさせられるのであれば、それがどういう方法であれ某所へ出さなければ必ず避妊に該当するだろうと考えてしまったのだ。そしてそれは日本でハーレムを作る条件を満たさない。
「誤魔化しながらじゃなくて、僕は堂々と皆を愛……」
「そういう話は家に帰ってからやれやゴルァ!」
「いたい!」
生々しい話を始めてしまったダイヤに蒔奈の怒りの鉄拳が下された。他人の前でそんな赤裸々な性事情を語るなと怒られるのは当たり前のことだ。一部のヒロインズからもジト目で見られている。
「ごめんごめん。そうだね。大事なのは僕がしばらく島を離れるってことだけだったね。ああ、それとその前にマスコミの取材とかにも答えて僕の存在をアピールするかも」
自分がどれだけ大きなことを成し遂げたのか、という成果を世間に知ってもらうことでヒロインズの両親に挨拶に行った時に少しでもハーレムを受け入れて貰えるようにしたいという狙いがあった。
「ちょっと待てよ。お前って世界中から早く強くなって外のダンジョンに挑めって言われてるんじゃねーのか?そんな悠長なことしてて良いのかよ」
「あはは、何言ってるの。僕は僕がやりたいようにやるだけさ」
誰かに何かを強制されてやろうと思ったことなど一度もない。
ダイヤは自分自身でやるべきことを決めて行動する。それは世界が相手でも同じことだった。
「でもよぅ。二十を急いで攻略しないと世界が滅ぶかもしれないんだろ?」
「大丈夫だよ。特攻装備があるから、トップの人達が魔物を間引いてくれるよ」
むしろダイヤが無理をするよりも、すでに十分に強い彼らが特攻装備を活用してダンジョンに挑んだ方が成果が出るに違いない。
「もちろん僕もいずれは挑戦するつもりだよ。でもそれは今じゃない。ここで無理をしたって本当の意味では強くなんてなれない。獣王には勝てない」
「獣王か……」
ダイヤだけが知っている最強の敵。
獣王を撃破するための行動をダイヤはこれから選ぶことになる。
その行動の中に、急いで慌てて無茶な特訓をする、なんてものは含まれない。
むしろ落ち着いて策を練る時間を増やす方が大事だとダイヤ考えていた。
「青春も、恋愛も、世界も、僕は何もかも諦めない。全身全霊で人生を楽しむって決めてるんだ!」
それこそがダイヤがダイヤであるという証であり、決して変わることのない一つの事実。
「もちろんBBQとか夏祭りとか夏らしい遊びも沢山やるから、目一杯楽しもう!」
なんてことはない。
世界がどうであれ、結局ダイヤは今まで通り、やりたいことを精一杯やるというだけのことだった。
そして周囲はそんな彼の様子にこれからもずっと楽しく振り回されることになるのだろう。
まだまだ続きますが、本編の再開はかなり後になりそうです(例年三月~六月は執筆出来ないため)。
もうしばらくは、今までと同じペースで小ネタを更新し続けます。
メインストーリーは進みませんが、キャラや世界観は深堀されるかもしれませんのでお楽しみに。