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ダンジョン・ハイスクール・アイランド  作者: マノイ
第四章メインクエスト 『時を越えて』
181/199

181. VSダークネスドラゴン 後編2 気づかない程の、でも確かにそこにあるトゥンク

 飛び出したスピと躑躅(つつじ)


 二人は転がるダークネスドラゴンと一定の距離を取り、ついていくようにして走る。


 そのままタイミングを見計らい、先に攻撃を仕掛けたのは躑躅(つつじ)だった。


 ダークネスドラゴンの真横に移動し、並走を始めたのだ。


 あまりにも近すぎて俯角の本が彼女を守ることが出来ず、至近距離で大量のレーザーを喰らうものの、その顔は平然としていた。


「シッ!」


 躑躅(つつじ)は手にしたレイピアをダークネスドラゴンに次々と突き出した。

 狩須磨の手によって無属性の属性付与(エンチャント)が為されているソレは、着実にダークネスドラゴンの瞳を潰してゆく。その様子を見たダイヤは驚きで目を丸くしていた。


「す、凄い。百発百中だ!」


 レイピア用のスキルをいくつか覚えてはいるが、それらを使わずに素の実力だけで高速に回転し続けるダークネスドラゴンの細かな瞳に確定ヒットさせるなど、余程修練を積んでいなければ無理だろう。


 家の都合でダンジョンで力をつけられない躑躅(つつじ)だったが、密に特訓をし続けていたのだろう。


「次は私の番です」


 レーザーを喰らいすぎて辛くなったのか、躑躅(つつじ)が一旦ダークネスドラゴンから距離を取ったのと入れ替えに、今度はスピが動き出す。


「スピ!?」


 なんとスピはダークネスドラゴンが転がる進行方向へと移動し、ダイヤは驚きの声をあげてしまった。このままではスピが轢かれてしまうが、果たして何を考えているのか。


「ふぅ……」


 スピは腰を落として握った右手を腰の辺りに構えて迎撃態勢をとる。


「まさか!?」


 ダイヤがハラハラする中、スピは強い視線をダークネスドラゴンに向けてタイミング良く右拳を前に突き出した。


「はああああああああ!」


 その瞬間、物凄い衝撃音がダンジョン内に響いた。

 高速道路で最高速のトラック同士が正面衝突でもしたのかと思えるほどであったが、何かが吹き飛ぶようなことは無い。


 ダークネスドラゴンもスピもその場で止まっていたのだ。


「わぁお、めり込んでる」


 スピの拳はダークネスドラゴンの身体を受け止め、衝突した場所は深く窪み放射線状にヒビが広がっていた。


 誰がどう見ても大ダメージを与えたように見える。

 だがダメージを受けたのはダークネスドラゴンだけではない。


「旦那様。申し訳ございません。後はお願い致します」

「任せて!後のことは気にせずたっぷり休んでね!」


 いかに力自慢のスピと言えども肉体が耐えきれず、これ以上の戦闘は不可となってしまったのだ。


 スピは拳を突き出したポーズのまま消滅し、ダイヤの体内に戻って休息モードになる。


「(お疲れ様、今度はすぐに回復して戻って来てね)」


 本当はもっと労ってあげたいところだが、今はまだ戦闘中。

 ダイヤがスピを回収している間に、戦場にはまだ動きがあった。


「チャンス!」


 ダークネスドラゴンの動きが止まったことで、躑躅(つつじ)が再度攻撃に転じたのだ。


 今回は単に眼を潰すわけではない。


 剣先にピアノ線のようなものが貫通しているレイピアを取り出し、それをダークネスドラゴンの身体にあるもう一つの口元に突き刺した。


「ドラゴン縫い!」


 そしてなんとミシンのようにその口を縫い始めたでは無いか。


「うっそでしょ!?」


 あまりにも予想外な攻撃方法にダイヤが素っ頓狂な声をあげてしまった。


「(まさかドラゴンの口を縫っちゃうだなんて、なんてテクニックなんだ)」


 ドラゴンは抵抗激しく、近くの小さな瞳を全て躑躅(つつじ)に向けてレーザーを発射する。数多のレーザーが彼女の身体を貫き、体中が赤くなり肉が焼けるような煙が出てくるが、縫い終わるまでは決して動きを止めなかった。


 苦しみを表には決して出さず、女王としての余裕の笑みを浮かべたまま彼女はついに最後まで縫い切った。


躑躅(つつじ)先輩!早く退いて下さい!」


 慌ててダイヤがそう声をかけると、躑躅(つつじ)は走らずゆっくりとダークネスドラゴンから距離を取り、距離が開いたことで俯角の本が彼女の盾となり出した。


 ゆっくりなのは貫禄を見せる為ではない。

 最早走れるほどの体力が残されていなかったからだ。


 躑躅(つつじ)はダイヤの元まで移動すると、優しく微笑んだ。


「どうかな?花嫁修業もちゃんとやってるんだよ?」


 ドラゴンの口を縫いつけるような花嫁修業があってたまるか。


「先輩が僕のお嫁さんになってくれる日が楽しみだよ」


 だがダイヤはそんな気持ちなどおくびにも出さずに優しく受け止めた。


 その反応が嬉しかったのか、安心したのか。


「それじゃあ将来の旦那様の雄姿を後ろでゆっくりと見学させてもらうね」


 躑躅(つつじ)はポーションを飲むと少しでもこの場を離れようと歩き出した。あまりにもダメージが大きすぎるため、上級ポーションでは回復しきれずこの先は戦力になれそうにないのだ。


「よし、今度は僕が……え!?」


 スピと躑躅(つつじ)に託され、手負いのダークネスドラゴンにトドメを刺す番が来たと思ったら、先に暗黒と密が敵と対峙していた。


「あんたはトドメ。もう少し待ってなさい」


 しかも密にそう言われて明確にストップをかけられてしまったではないか。


 彼らを除くとまともに戦えるのはダイヤと(いん)だけ。

 密の台詞から考えるに、つまりはそういうことなのだろう。


「常闇君。行くわよ」

「その前に一つ良いか?」

「何?」


 ダークネスドラゴンは何故かその場で動かず今が攻撃のチャンス。敵の攻撃は遠距離レーザーが散発的に飛んでくるだけであり、眼の数が大分減っており止まっている状態であれば避けるのは容易い状況だ。


 早く攻撃を仕掛けたい密だが、次の暗黒の台詞に度肝を抜かれて攻撃どころでは無くなってしまう。




「長内さんのこと、好きになっても良いか?」




 あまりにも場違いなセリフに場が凍り、密もすぐにはその言葉の意味が理解できなかった。


 そして少しの時間が経過した後、彼女は顔を真っ赤にして盛大に反応した。


「はああああああああ!? こんな時に何言ってるの!?」

「今じゃなきゃダメなんだ。俺が『暗黒』を選ぶのならな」

「意味分かんない!」


 突然のラブコメに密は動揺するが、暗黒は冷静そのものだった。

 決して告白しているような雰囲気ではなく、そのことに気付いた密は徐々に冷静になってゆく。


「『暗黒』の力は強大だ。それを手にした俺は果たして力に飲まれずにいられるだろうか。復讐鬼となり力に溺れてしまうかもしれない。そうならないために、人でなしにならないために、俺が人で在り続けるために何が必要かと考えた」

「それが……私?」

「ああ、大切な人の存在は俺を人として繋ぎ留めてくれると思ったんだ」


 どうしてそこまでして力が必要なのか。

 そう密は問おうとしたがぐっと堪えた。


 この場に来ている時点で力が欲しいだなど当然のことなのだ。


 強さを求めずダイヤと共に歩む気持ちが無いのであれば、最初から裏方に回っているだろう。


 暗黒は強くなることを望み、そして正しく(・・・)前に進むことを心に誓ったのだ。


「こんな打算まみれの考えで困らせてしまってすまない。俺のことは嫌っても良いから、好きでいることだけは、大切に想うことだけは許してくれないか?」


 暗黒は密の事を異性として好きというわけではない。

 パートナーとして好ましいとは思っているが、これから好きになり大切で特別に思えるようになれれば良いと思っている。短い付き合いではあるが、相性が良い相手であると感じているから選んだだけ。


 だがそれだけならば密の方も同じであった。


 戦闘は訓練も実践もやりやすく、自然に会話が弾み、何よりも傍にいて居心地が良い相手。暗黒と同じで相手のことを異性として意識はしていないが好ましくは思っている。


 ゆえに彼女は苦笑しながらこう答えた。


「まったく……仕方ないわね」

「恩に着る」


 了解を得られた暗黒は吹っ切れたような表情でダークネスドラゴンに向かって走った。


 目指すはまだ生きている瞳が沢山残っている側面。


「来たか!」


 すると多くの瞳が暗黒を捉え、それぞれの細いビームを重ね合わせるようにしてごんぶとレーザーを作り上げたでは無いか。


 ダークネスドラゴンが動かなかったのは、チャンスと思い攻撃して来た相手をカウンターでしとめるためだった。もしも別の側面を狙われたら、クルっと回転して攻撃するつもりだった。


「うおおおおおおおお!」


 ごんぶとレーザーが直撃したダイヤは指輪の力で軽減して耐えた。

 一方で暗黒は軽減無しのレーザーを全身に受けた。


 ダイヤの感覚としてはそれでも耐えきれる威力なのだが、行動不能になりそうな程の大ダメージであることには間違いない。


 とてつもない痛みを全身に感じながら暗黒は嗤っていた。


「(もっと、もっとだ。もっと俺に『暗黒』を与えろ! この身すべてでお前の『暗黒』を味わい尽くし、理解し、モノにしてやる!)」


 強さへの執念によるものか、痛みよりも喜びの方が大きいようだ。周囲から見たらドМの変態にしか見えないのがとても悲しい。


「(ああ、そうか。これが『暗黒』か。全てを吸収し、消滅させようとするこの力。これがアレばあのクズ共を……!あいつらを消し飛ばすことが……!)」


 『暗黒』に秘められた負のオーラによるものか、暗黒自身が抱いている闇が表に出て来てしまったのか、暗黒の心はとてつもない力の奔流に飲み込まれようとしていた。


「何いきなり失敗しそうになってるのよ」

「…………分かって……る!試しただけだ!」


 暗黒は己の心を素直に『暗黒』に曝け出したらどうなるのかを確認していた。そしてやはりその力は己の心を破壊し尽くす可能性がある危険な物だと理解できた。


 彼が将来『暗黒』を使いこなす上で必要な儀式だったのだ。


「うおおおおおおお!」


 気合を入れ直した暗黒はごんぶとレーザーを見事に耐えきってみせた。


 そうなれば今度はこちらからの攻撃のチャンスだ。


 ダメージを喰らった直後で動けない暗黒に代わり、密がダークネスドラゴンに接近する。


「私を大切に想ってくれる予定の人になんてことするのよ!」


 両手に短剣を腰のところで逆手に構え、クロスするように思いっきり振り上げる。


「月光!」


 防御力無視の攻撃がダークネスドラゴンの眼を一気に潰す。


 だが今回はそれだけではない。


「うおおおおおおお!」


 遅れて暗黒が走り込み、両手に短剣を順手で振り上げ、クロスするように思いっきり振り下ろす。


 満月が生み出した光で相手を弱らせ相棒が攻撃するのなら、新月が生み出した闇を操りその攻撃に繋げよう。


「月闇!」

「え!?」


 それは月光で攻撃した直後に、同じ場所に攻撃すると防御力無視のままダメージが数倍に跳ね上がるというコンボスキル。ただし月光と月闇はそれぞれ別人が放たなければならないという制限がある。


 密が驚いたのは暗黒が月闇を使えるようになったこと、ではない。先程までの戦いの報酬として新たに得たと考えれば不思議なことでは無いからだ。


 問題は暗黒が『精霊使い』であるということ。

 そして『精霊使い』は覚えるスキルも選択可能に違いないという密の予想。


 その予想が正しければ、暗黒はダークネスドラゴンと戦う前から、つまり『暗黒』を覚えようと思うその前から月光とペアの月闇を覚える気だったということ。


 『暗黒』を覚える過程で正気を保つ云々は関係なく、密とこれからもコンビで戦いたいと思ってくれていたということ。


 それがどういうレベルの好感度なのかは分からない。

 しかし決して低い好感度では無いはずだ。


 暗黒の気持ちが垣間見えてしまったからこそ密は驚き、照れてしまった。


「(ってそんな場合じゃないでしょ!)」


 これは暗黒が作ってくれた特大の好機。


 相手が動かずただの的となっているのであれば、月光と月闇はこれ以上ない最高のコンボに繋がるのだから。


 満月が新月に変わり、そして新月はまた満月へと変わるのだ。


「月光!」

「月闇!」


 連撃をすればするほど威力が桁違いに上昇する。ランクの低い暗黒と密であっても、Aランク以上のボス相手に大ダメージを与えられる。


 スピが殴った場所以上に、その側面はぐちゃぐちゃに潰れ、破壊し尽くそうかという勢いだ。


『グルウォオオオオオオ!』


 だがもちろんダークネスドラゴンがそのままサンドバッグになっているだけのはずがない。


 ついに球体型を解除して元のドラゴンの姿へと戻ろうとする。


 しかもその際に右手で暗黒達を殴り飛ばそうとする。


「危ない!」

「守るのは俺の役目だ!」


 咄嗟に密が暗黒を守ろうとするが、暗黒はそれを良しとせずむしろ彼女を守ろうとした。


「うるさい馬鹿!素直に守られなさい!」

「っ!?」


 だが密は暗黒の行動を強引に抑え込み、盾となって二人同時に吹き飛ばされた。


「うおおおおおおおお!」

「きゃあああああああ!」


 密が暗黒を抱き抱えるような体勢で、物凄い勢いで地面にバウンドしながら飛んで行く。

 その途中で密は上下を入れ替え、自分が床に打ち付けられるようにして暗黒を更に守った。


「うう……」

「うう……お、おい……!」


 先に気付いたのは守られた方の暗黒だった。


「馬鹿、どうしてこんな無茶を……」


 慌ててポーションを取り出して密を回復させた。


「馬鹿は常闇君だよ。あなたはレーザーで大ダメージを負っていて私は軽傷だった。それなら盾となるのは私になるのが当然でしょ」

「当然って……あのなぁ」

「条件があるわ」


 女子に盾になってもらうなど出来る訳が無い。

 そう暗黒が紳士的な不満を漏らそうとしたら密に遮られた。


「条件?」

「そう、常闇君が私を好きになって良い条件」

「え?」


 ポーションが効いてきて痛みが治まった密は暗黒を下から抱き抱えたまま笑って告げる。


「私と常闇君は対等のパートナー。それなら良いよ」


 そこには男女の差や職業の差など関係ない。


 お互いが対等にフォローし、切磋琢磨して共に高め合う。


 相手を勝手に好きになろうとして迷惑をかけようとしているのだから頑張る、なんてことは絶対に不要。


 彼女の答えを聞いて暗黒は心が軽くなったと同時に、胸の奥に温かい何かが宿った気がした。


「ああ、そうだな。俺達はパートナーだ」


 この時、暗黒は人生で初めて『好き』なものを見つけたのかもしれない。

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