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ダンジョン・ハイスクール・アイランド  作者: マノイ
第四章メインクエスト 『時を越えて』
174/199

174. こんな茶番で大丈夫かな……

「(これは……結界?)」


 魔物の群れの最前列、そこにあったのはドーム状の結界だった。

 色が白く中の様子が全く見えない。


「(アイテムはこの中にあるのかな。ここまで来ても見えないとは思わなかったよ)」


 てっきり魔物達はアイテムそのものを破壊しようと攻撃しているのかと思っていたが、攻撃対象はアイテムを守護する結界だった。


「(おっと危ない)」


 隣のキツツキのように嘴が尖った魔物が、その嘴で結界に穴を開けようと連打していた。その動きが大きくダイヤに掠るところだった。しかし何でも貫きそうな程に鋭い嘴であっても結界には傷一つつかなかった。


「(誰もこの結界を破れないんだ)」


 全ての魔物達が結界を破壊しようと攻撃しているがびくともしない。


「(獣王ですら破れない結界とかすごすぎ。この結界があればあのドラゴンの攻撃を防げそうなんだけどなぁ)」


 元の時間軸へと戻ったらドラゴンによるブレス攻撃が待っている。目の前の結界があればそれを防げそうなのだが、果たしてダイヤが使えるのかどうか。


「(でも肝心のアイテムの効果はこれじゃないよね。攻撃系じゃないと困るもん)」


 ドラゴンの攻撃を防ぐことが出来ても倒せなければ意味が無い。永遠に結界の中で守り続けるだけでは事態は変わらないのだ。


「(アイテムを入手すれば分かるか。どうせやることは変わらないんだし、気にするのは止めよう)」


 アイテムの性能が望んだものでなかったとしても、他にダイヤに出来ることは無い。ゆえに今はネガティブな結末を憂うのではなく、この先どうすべきかに注力すべきだ。


「(それにしても、魔物達はどうやってこれをここに持ってきたのかな?)」


 元々別の場所に設置してあったものをこのダンジョンに持ってきたと地球さんは言っていた。それは単にアイテムそのものを持ち運んだという意味だと思っていたのだが、こうやって結界で守られているとなると運び方が分からない。まさか結界ごと持ち上げて運んだのだろうか。


「(まぁそれは別に良いか。問題は僕が中に入れるかどうかだ)」


 色々と考えていたら、己の身体が結界に手を伸ばした。


「(!?)」


 するとその手が結果に触れた瞬間、大きく弾かれてしまう。

 それはつまりダイヤでさえも中に入れず結界が壁になっているということだ。


「(うわぁ痛そう。体の制御戻ったら辛そうだ)」


 最終的にダイヤは体の制御を取り戻さなければならない。 

 そうなると、獣王にアイアンクローされた顔や結界に弾き飛ばされた手などの痛みを感じることになるだろう。その時にどれほどの痛みがあるのかを想像すると気が重くなるダイヤであった。


 ダイヤの身体は諦めずに何度も結界に手を伸ばし、その度に弾かれる。

 そして何度目かのチャレンジの後、ようやく学習したのかアプローチが変化した。


「(右手を強く握った? まさか……)」


 今のダイヤは他の魔物への敵意を見せない目的で武器を装備していない。

 となると攻撃手段は限られている。


 ダイヤの身体は本能のままに結界を殴りつけた。


「(わぁお。右手が使い物にならなくなっちゃうよ)」


 拳が結界に触れた瞬間に物凄い抵抗力で弾かれそうになるが、むしろその勢いを利用して再度振りかぶり殴る。このままでは右手がぐちゃぐちゃに潰れてしまう。


 右手の心配をしながらダイヤが自分の身体が結界を殴る様子を観察していたら、あることに気が付いた。


「(あれ、良く見ると殴ってる手がめり込んでない?)」


 他の魔物の攻撃は完全にシャットアウトしているのに、ダイヤの攻撃だけは結界の中に入りかけている。やはり元が人間であるダイヤは他の魔物とは違うのだ。


「(強引に突破しようと思えば出来るかも)」


 ダイヤは敵色に染まった思考と己の身体に向けて、攻撃を辞めて強引に前進し続けろと強く命令を出した。今の身体に命令をするのは簡単なことではないのだが、そうすれば中に入って目的のものを破壊出来るかもしれないという念を送ったら割と簡単に言うことを聞いてくれた。


 ダイヤの身体は殴るのを止めて歩き出す。


 だが結界にぶつかり弾かれ、尻餅をつく。


 立ち上がったダイヤはまた結界に向かって歩き出す。


 だが結界にぶつかり弾かれ、尻餅をつく。


「(この根性無し!破壊したいんでしょ!そんなに簡単に吹き飛ばされてるんじゃないよ!)」


 同じことの繰り返しに思わず敵を叱咤激励してしまったが、不思議とそれが大きな効果があった。


 今度は吹き飛ばされずに堪え、そのまま強引に前に進もうと根性を見せたのだ。


「(いけるよ!がんばれ!その調子だ!)」


 かなりの抵抗があるが、どうにか少しずつ進めている。

 身体が結界に抵抗されて焼けてしまっているが、それでも強引にねじ込ませる。


 顔を突っ込み、両手を突っ込み、足を突っ込み、結界をかき分けるかのようにして無理矢理身体をねじ込んで行く。


「(いいぞ!行け!根性みせろ!)」


 己の身体を応援すること、およそ一分。


 ついにダイヤは結界の中に侵入し、抵抗が急に無くなったことでバランスを崩し前方に倒れてしまった。


「(やった!入れた!全身がオーラに染まってるから抵抗はかなりあったけど、そもそもが人間だからきっと入れたんだよね!)」


 結界が敵以外も排除する仕様だったらダイヤも入れなかった。

 貴重なアイテムだから何らかのギミックを突破しないと入手できない、なんて可能性もあったが運良くそういうことも無かった。


「(次の問題はここからだ。アイテムをどうやって入手するか)」


 身体中にダメージを負ってしまったからか、ダイヤの身体はまだ起き上がれない。それゆえ視線は地面に向けられたままで、結界の中がどうなっているのか分からない。


 だがすぐそこにアイテムが置かれているはずだ。


 しかしそれを普通に入手して結界の外に出る、あるいは結界が解除されたならば、周囲の魔物がそれを破壊しようとダイヤに殺到して死んでしまう。


 そうならないために入手方法を工夫する必要がある。


「(アイテムを破壊するフリをしながら入手する)」


 そのためのアイデアはある。

 それはあまりにも稚拙であり、誰が見ても演技だとバレバレな方法なのだが、相手が知性の低い魔物であれば誤魔化せる可能性はある。


「(問題はそっちよりも、入手した直後に結界が自動的に消えた場合)」


 魔物達は結界に攻撃をしている。

 ということは、結界が消えた瞬間、それらの攻撃が結界の中に雪崩れ込んできてしまう。

 結界の中央に居るダイヤはそれらを喰らってジ・エンド。


 そうならないために魔物達の攻撃タイミングを見極めながらアイテムを破壊するフリをしながら入手しなければならない。


 あまりにも無茶な話だが生きて帰るためにはやるしかない。


 そう思っていたのだが、ここでもまたダイヤは運が良かった。


「(魔物達の動きが止まってる?)」


 フラつきながらダイヤの身体が起き上がり、周囲の様子を確認出来るようになると雰囲気が一変していた。


 結界の外の魔物達が攻撃をせずにダイヤをじっと見ているでは無いか。

 視線を動かせないので横や背後は分からないが、もしかしたらダイヤが結界の中に入ったことで、全ての魔物達の行動パターンが変化したのかもしれない。


 このままなら、結界が消滅してもダイヤが攻撃の余波によりすぐに死ぬことは無い。

 だが新たな問題が発生した。


「(めっちゃ見られてる!スパイだってバレないように気を付けないと!)」


 自分が敵側の存在であると信じて貰え続けなければ、結局は結界消滅後に攻撃されて死亡する結末は変わらない。じっくり観察されている中で敵側ムーブを演じ、騙しきらなければならない。いくら相手の知性が低いと分かっていても、多くの強敵が自分を注目していると思うと怖すぎる。


「(大丈夫、体は敵に乗っ取らせてるんだ。しばらくはこのまま任せよう)」


 ダイヤの身体は注目されながら歩き出した。

 自分が見られているということを考えると不安で気が狂いそうになるため、ダイヤは目的のアイテムについて考えることにした。


 ついにその姿を捉えられる。


 そう思ったのだが。


「(アイテムが光っていて見えない。目が汚染されてるからなのかな)」


 目の前に簡素な祭壇があり、その上にアイテムが乗せられているのだが、ソレは眩く光っていて輪郭を捉えることすら出来ない。


 赤黒いオーラの霧があっても景色が見えるようになったのは、目までもオーラに侵食されているから。だからこそ逆に、侵食されてしまった目ではオーラに特攻効果のあるアイテムの姿をまともに捉えることが難しいのかもしれない。


「(光っている範囲から考えると、剣とか槍みたいに細長い物じゃなくて、片手で持てそうなくらいの小さな物なのかも)」


 大きすぎるとダイヤの考えている作戦が実行しにくくなるところだったが、この程度の大きさなら十分だろう。


 アイテムについて考えていたら、ダイヤの身体が祭壇まで到達した。


「(ここからだ)」


 周囲の魔物達を騙し、アイテムを入手する。


 超難易度のミッションを前に、身体の自由が利かないダイヤは深呼吸して落ち着くことすら出来なかった。


 分割した心だけで気持ちをどうにか整え、その時が来るのを待つ。


「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


 ダイヤの体が右手を高くあげて手刀のポーズを取る。

 するとそこに赤黒いオーラが集中し、文字通り手()を為した。


 それを振り下ろしてアイテムを破壊するつもりなのだろう。


「(今だ、身体の制御権を取り戻す!)」


 これまでで最大の思念を送り、体内のオーラを抑え込み身体を自在に動かせるようにする。

 だが汚染されきった体は簡単には言うことを聞いてくれず、制御権を取り戻せない。


「(ぐっ……まさかここまでなんて……でも諦めてたまるか!)」


 ここで失敗してしまったら、まさかの自分がキーアイテムを破壊するというオチになる。

 それはそれで歴史通りなのかもしれないが、だとするとダイヤが過去に来たことは無駄になってしまう。


「(ぬおおおおおおおお!)」


 どれだけ家庭環境が悪くても屈せず、幼い頃から野山を駆け回り死にそうな程に体を鍛え続け、敵だらけの学校でも立ち向かい続けた。


 そうして培ってきた強靭な精神力をフル活用して、己の身体を支配するオーラを打ち倒そうとする。


 だが手刀を振り下ろすまでの短時間でそれを為すというのは無茶だった。


 体の制御権を取り戻したいのであれば、もっと早くに開始すべきだった。


 ダイヤの精神的奮闘虚しく、十分にオーラを纏った手刀が振り下ろされようとする。


「(ここだ!)」


 ダイヤの判断は間違っていなかった。

 ギリギリを狙ったのは、制御を取り戻した時の外の魔物達に違和感を与える時間を極力短くするため。


 だがそれでは全身の(・・・)制御は取り戻せない。


 そこでダイヤが考えたのは、必要な部分だけの制御を取り戻すこと。


 ダイヤはフリーな左手の制御だけを取り戻し、腰に下げたポーチを開いた。

 そして素早くそのポーチを腰から取り外し、手刀がアイテムにぶつかるタイミングで横薙ぎにするようにしてアイテムを格納した。


 すると何がどうなるのか。


 実際はポーチの中にアイテムが消えたのだが、右手の手刀によりアイテムが消滅したように見えないだろうか。


「(結界が消えた!)」


 アイテムをポーチに入れた瞬間、結界が消滅した。

 それを認識する前に、ダイヤはポーチを手早く腰に再装着する。


 片手でのポーチの操作は、神社裏で何度も何度も練習しており、全身の大半がオーラに汚染されていてもその動きに淀みは無かった。


 だが最強レベルの魔物達がダイヤのその動きに気付いていない訳が無い。

 どれだけ素早くスムーズに行動したとしても、アイテムがポーチの中に入ったところは見られているはずだ。


 あるいはアイテムが光っていたから見えないなんてこともあるかもしれないが、そんな楽観的なことは考えられない。


「(どうなる!?どうなるの!?)」


 果たして魔物達はこの状況をどのように判断するのだろうか。


 生か死か。


 ダイヤの命運がもうじき決まる。


「う゛お゛お゛お゛お゛!」


 いつの間にか異様なまでに静かになっていたダンジョン内に響いたその声が意味するものは。

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