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ダンジョン・ハイスクール・アイランド  作者: マノイ
第四章メインクエスト 『時を越えて』
167/199

167. いやいや幼女に着せるのは犯罪でしょ!

「ん……んん……」


 少し湿った土の匂いがする。

 奈子の奇跡の光を浴び、一時的に夢を見ていたダイヤは自然の香りで目が覚めた。


「ここ……は……?」


 気が付くと地面に横になっていて、ダイヤは寝起きのようなどんよりとした感覚のままゆっくりと立ち上がり、軽く服を叩いて汚れを落とした。


「建物?それに森?」


 目の前には見たことの無い木造の建物、そしてそれは多くの木々に囲まれていた。


「何かの建物の裏手なのかな?ふわぁあ」


 まだ眠気が取れず頭がシャキっとしない。

 とりあえず建物の正体を確認するべく表へと向かおうとした時、ようやくダイヤは自分が置かれている状況を思い出した。


「そうだ、皆!」


 つい先ほどまで死闘を繰り広げていて、自分が奈子の奇跡により絶望をひっくり返す役目を負ったはず。それにも関わらず良く分からない場所に転移させられてしまった。


「早く戻らないといけないのに!」


 あれからどれくらいの時間が経ったのか。

 まさか眠っている間に全滅してしまったのではないかと青褪める。


「もしかして外に情報を伝えるため僕だけ強引に外に転移させたなんてことは無いよね……」


 だとすると(いん)も奈子も、他の皆も死んでしまっていることになる。それはダイヤにとってまさに絶望的な結末であると言えよう。情報を世界に伝え、ダンジョンを完全制覇することが出来たとしても、(いん)達を救えなかったことは一生モノの傷として残り、幸せな毎日など過ごすことは出来ない。


「ううん、そんなはずはない」


 ダイヤは焦りながらも、そんな絶望的な結末だと判断するのは早いことに気が付いた。それはダイヤがありもしない希望に縋っているのではなく、奇跡の内容を考えれば明らかだったからだ。


「奈子さんは全員が生きて帰りあいつを倒すっていう妄想を具現化する奇跡を起こそうとした。それが発動して僕がここにいるっていうことは、その妄想が実現する可能性があるってこと。だからまだ諦めちゃダメだ」


 愛しいパートナーが決死の覚悟で放った奇跡なのだ。それを信じないなどありえない。


 そう考えると焦っていた心も少し落ち着き、今までよりも冷静に物事を考えられるようになってきた。


「でもだとすると僕は何処に飛ばされたんだろう。ここに来れば皆が助かるっていうのはどういう意味なのだろう?」


 単に転移されただけならばとっくに皆は全滅している。皆が助かるのならば、単なる転移以上の何かがあるはずだ。


 それを知るためには自分が何処にいるのかをまずは確認しなければらない。


 ダイヤは改めて歩き始め、謎の建物の表側へと向かった。


「神社?」


 するとその建物の正体が朧気ながら見えて来た。

 あまりにもボロボロで、境内もあるのかどうか分からないくらい狭く、誰も管理していないのではと思えるような閉じられた建物だが、雰囲気的には神社と呼べるようなものに見えた。


「一体どこの神社なんだろう」


 そう思いながらダイヤが境内まで移動して改めて神社らしき建物を確認すると、賽銭箱と思わしき箱の少し向こう側、建物の床の上に異質な存在がこちらに向かって頭を下げていることに気が付いた。


「おまちしておりました、あるじさま」


 ソレは巫女服を着た五歳くらいの幼女だった。

 巫女幼女が正座の体勢でダイヤに向かって頭を下げて出迎えてくれたのだ。


「色々と突っ込みたいところがあるんだけど……」


 待っていたとはどういう意味なのか。

 どうして君のような幼女が一人でここにいるのか。

 ここは一体どこなのか。


 だがそんなことよりも何よりも、最優先で言わなければならないことがあった。


「その歳でその格好はダメでしょ!!!!」


 幼女が着ている巫女服は、露出過多のエロ巫女服だったのだ。成人だったら上乳がこれでもかとはみ出ているだろうし、短かすぎる袴は正座しているだけで最奥が見えてしまいそうだ。服よりも露出している面積の方が多いのではと思えるくらいのエロ巫女服は、どう考えても幼女に着せて良いものではない。


「あるじさまがおすきかとおもいまして」

「僕はそういう趣味は無いよ!?」


 スピといいこの子といい、どうして自分の周りの幼女はセックスアピールをしてくるのかと頭が痛くなるダイヤであった。将来生まれてくる自分の子供もまさか親の自分に向かって似たようなことをしてこないかと戦々恐々である。しっかりと教育しようと心に誓った。


「というか君は僕のことを知っているの?」

「はい、なんどもみました」

「視る?」

「このひ、このじかん、あるじさまとこのばしょでおあいするとしっていました」

「(知っていた?)」


 その言い方だと、まるで未来を知っているかのようでは無いか。


「(あれ、未来?それにこの子の格好、まさか!)」


 ダイヤは目の前の幼女の正体に気が付いた。

 それはあまりにも突拍子もない結論だけれど、あまりにもその答えがしっくり来すぎていて違うとは考えられなかった。


「もしかして君は視絵留(みえる)未来(みらい)さん?」

「はい。みらいとおよびください」

「未来さんは何歳なの?」

「みらいとおよびください」

「…………未来は何歳なの?」

「ごさいです」

「(十年前に飛ばされて来たんだ!)」


 タイムスリップなど非現実的であり簡単には信じられないが、ダンジョンやら概念的存在やらファンタジーが現実に侵食しているのだから、そのくらいの奇跡が起きても不思議ではない。本当にここが過去の世界なのか検証すべきではあるが、ほぼ間違いないだろうと思っていた。


「(過去なら慌てる必要は無いし、あの状況をどうにかするヒントがここにあるってことなのかな)」


 まだ焦りが残っていたのだろう。ここが過去で時間の制限がひとまずは無いことが分かると、ダイヤの身体から力が抜けて少しだけリラックス出来た。


「(でも過去か……タイムパラドックスとかどうなるんだろう)」


 ダイヤはダンジョン・ハイスクールに進学するためにサブカルについても勉強した。ダンジョンがファンタジー風だからこそ、ファンタジーにこそ様々な攻略のヒントがあると考えたからだ。その中でタイムスリップやループといった話も当然知識として蓄えていた。


「(僕が過去で何かをして未来が消えてしまう、ならまだ良いんだけど、未来が分岐してしまったら困る。元々の未来の(いん)達が救われなくなっちゃう)」


 いわゆる並行世界という考え方だ。

 タイムスリップやループなどで過去を改変すると、その分だけ新たな世界が生まれて改変した本人は新たな世界へと向かう。元の世界は消えてしまうとか、そのまま時を重ねるなど色々可能性はあるが、ダイヤ的には悲しい結末のある世界を残したまま新しい世界など行きたくもない。


「(あるいは因果律が収束して未来は変わらないから気にせずに行動しても良い可能性も……ううん、やっぱり並行世界が生まれる可能性を考えるとそれは選べない)」


 そこでダイヤは考え込む自分の顔をじっと見つめる視線に気が付いた。


「(しまった。もう僕は未来に会ってしまった。彼女の過去を大きく変えてしまった!)」


 この時点で新たな世界(可能性)が生まれ、元の未来へは戻れなくなるかもしれないとダイヤは青褪めた。そんなダイヤの内心を五歳にして理解したのか、未来はダイヤへとアドバイスする。


「あんしんしてくださいあるじさま。わたしはみえていたのであるじさまがきてもこなくてもかわりません」

「え?僕が考えていること分かるの?」

「わかりません。でもそういえばよいとみえました」

「そんなことまで視えるんだ……」


 ただ単に未来が視えるだけではなく、自分がどう行動すべきかまで視えているなど未来視を越えているのではないか。


「未来はいつもそんなに詳しく視えるの?」

「いいえ、くわしいのはあるじさまとおあいするきょうのことだけです」

「そうなんだ……」


 何故なのかという疑問は残るが、今は未来のスキルを考えるよりも未来がアドバイスしてくれたことについて考える方が先だ。


「(未来は僕がここに来ることを視えていた。そして自分がどう行動すれば良いかも分かっていた。だからこの世界の一週目で僕が来なかった時も、来たのと同じように行動していたのかも。それなら未来は変わらない)」


 だとすると未来だけはダイヤが心を許し相談可能な相手と言うことになる。もちろん相手は五歳児であり出来ることは少ないが、味方が誰も居ないよりかは遥かにマシである。


「(もしかしたら未来がいるから奇跡は僕をここに飛ばしたのかも)」


 過去に飛ばすとして、どうして十年前なのかという疑問がダイヤにはあった。だがそれは支えてくれる未来という存在がいるからかもしれない。一人で過去に飛ばされて何が何だか分からない状態で致命的な過去改変をしてしまう危険性が大幅に減るからだ。


「未来はこれから僕が何をするべきか分かるの?」

「はい。でもあるじさまはすぐにごじぶんでおきづきになります」

「僕が気付く?」


 だとすると、もしかしたらそんなに難しい話では無いのかもしれない。


「(僕がやるべきなのはあのドラゴンを倒すための何かを見つけること)」


 どうにか逃げるのではなく、倒して生きて帰るのが奈子の奇跡の内容だからそれは間違いない。


「(何があればアレを倒せるんだろう……)」


 狩須磨ほどの実力者がいても手も足も出ない相手。

 それを撃破するなど並大抵のことではない。


「(世界一強い人を連れて来てもダメな気がする。なら僕が今から十年間鍛え続ければ……)」


 一人でダンジョンに籠って戦い続ければかなりの強さになるはずだ。だが果たしてそれは正解だろうか。


「(いくらスキルがあっても人が強くなるには限界がある。この世界はゲームみたいにレベルが上がったらステータスが上昇する訳じゃないから)」


 身体系のスキルはあくまでも体を動かす補助をするものという扱いだ。人間に不可能な動きは出来ない。強力な魔法や特殊効果のあるスキルを覚えることは可能だが、果たしてそれだけであのドラゴンに太刀打ちできるのだろうか。


「(それよりもあのドラゴンを弱体化させる方が……弱体化?)」


 ふと、地球さんとの会話の内容を思い出した。


『実は私はソレに対抗可能なアイテムを作成しました。それを使えばソレを大きく弱体化させることが可能でしょう』

「(そうか、それを入手すれば僕達でもあのドラゴンを倒せるかも!)」


 奈子の奇跡はそのアイテムを入手させるためにダイヤをこの時間に送り込んだのだ。


「(そういえば地球さんは少し前にそのアイテムが消滅したって言ってた。それってもしかして僕が取りに来たからってことだったりしないのかな?)」


 ダイヤが十年前にタイムスリップし、キーとなるアイテムを入手して未来へ戻った。となると地球さんの視点からはいきなりそのアイテムが消えて無くなったように感じてもおかしくは無い。


「(破壊されちゃったんじゃなくて僕が持ち帰ったから消えた。色々と辻褄があって来た気がする)」


 だがそういう時こそ、冷静に他の可能性を考えなければならない。何故ならば人は強引にそれぞれの事実を結び付けて自分に都合の良いように考えてしまいがちだから。


「(あれ、でもやっぱりおかしいな。それだと一週目にそのアイテムが無くなってた理由にならない)」


 未来との遭遇については、未来が未来予知で一周目でもダイヤのタイムスリップを予知して行動していたからパラドックスは起こらない。だがそのアイテムについては一週目は無くなる理由が何処にもないはずだ。


「(となると本当にそのアイテムは破壊されちゃったのかな?)」


 ダイヤがそのアイテムを未来に持ち帰ったのではなく、破壊されてしまったから消えてしまった。

 それが事実だとすると何が変わるのか。


「(僕がそれを今から入手したとすると、破壊される前に奪って未来に帰る形になる。敵の視点からすると厄介なアイテムが消えて無くなったようにしか見えない。敵はまだ思考回路が単純だって話だし、破壊された場合と何も変わらないんじゃないかな?)」


 つまりダイヤがそれを入手することでパラドックスが起きる可能性は低いということになる。


「よし、方針が定まった!」


 まだまだ考えるべきことは多々あるが、考えすぎて疲れたためダイヤは思考を中断して休憩することにした。それに目の前の未来をこのまま放っておくのも忍びない。


 ダイヤは気分転換も兼ねて未来と簡単な話をしようと考えた。


「そういえばここって何処?」

「ここはまきのばらしのはらまたじんじゃです」

「え?」


 ダイヤはその名前に聞き覚えがあった。

 そしてどこでその名前を聞いたのかを思い出した瞬間、ダイヤは先ほど自分が倒れていた神社の裏手へと走り出す。


「僕の記憶が確かならここに!」


 神社の裏手、その更に奥の木々の中。


 そこにはポツンと一つの扉が鎮座していた。


「やっぱり……ここにはダンジョンの入り口がある!」


 ダイヤの時代から九年前、そして今からおよそ一年後。

 この場所で新たなダンジョンの入り口が見つかったと話題になっていた。


 何故ダイヤがこの時代のこの場所に飛ばされて来たのか。


 辻褄というピースがまた一つカチリと嵌まった音が聞こえた気がした。


コンテスト用の作品の執筆のため、今日からしばらく2日に1回の更新にしようと思います。そちらの執筆が終わったらまた毎日更新に戻します。

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― 新着の感想 ―
お疲れ様です。良い作品が仕上がることを祈ります。 因果律式なら、1周目も2周目もなく、すべてすでに起こったこと、っていうのもあるんですよね。親殺しのパラドックスは、それが起きていないのが史実だから、…
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